数日前、科学空想小説SF作家の大御所レイ・ブラッドベリー氏が亡くなった。カカシはブラッドベリーのファンというほどではなかったが、SF好きの妹がファンでうちに結構ブラッドベリー著の本があった。後に漫画家の萩尾望都さんがブラッドベリーの「ウは宇宙のウ」を漫画化した本を私は妹からもらって持っていた。
実はカカシはブラッドベリー氏に数回会った事がある。私の住む市にはSFの古本屋さんがあり、ブラッドベリー氏は晩年ちょくちょくその本屋でサイン会を開いていた。しかし私が氏に最初にで会ったのは、かれこれ10年くらい前、うちの近所にある地方劇場でブラッドベリー著の映画にもなった「華氏451度」が芝居化され舞台上演されたのを観に行った時である。
ミスター苺の友達で、自称ブラッドベリーの一番弟子、その名も先生と同じブラッドから、初日は脚本家のブラッドベリ先生も来るから観に来ないかと言われてミスター苺と観に行ったのである。
ブラッドべリーほどの大御所SF作家が自ら脚本を書き、30年前とはいえ(映画は1966年)映画にもなって人気のあった作品の芝居化なのだから、何もお弟子が切符を売りさばく必要もないだろうと思うが、実は結構地方劇団の経営は苦しく、多分ブラッドも何枚かチケットを売るよう義務付けられていたのだろう。
ブラッドベリーの大ファンの妹のためにサインをもらっておこうと、私は氏の邦訳本と萩尾さんの漫画本を持って行った。当時もう80歳を越していた氏は、見た目もかなりお年寄りと言う感じだった。芝居が始まる前の劇場のロビーで、ブラッドベリー氏はファン達に囲まれ、ファンが持って来た著書にサインしていた。私もサインしてもらおうと話かけると、氏は私の持って来た漫画本を見て「それは何だね」と聞いた。「『ウは宇宙のウ』を漫画化したものですよ。これにサインしていただけますか?」と私が答えると、私の英語の発音が悪かったせいなのか、氏の耳が遠かったせいなのか、氏は私の漫画本を手にとりぱらぱらとめくったあと、「ありがとう」と言って漫画本を懐に仕舞ってしまった。
「え?違うよ、プレゼントじゃないよ」と思ったのだが、ブラッドベリ大先生に「違います、サインして返してください」とも言えずにぐずぐずしていたら、おつきの人が来て氏はさっさとおつきに乗っていた車いすを押されて客席の方に行ってしまった、私の漫画本を持ったまま。
しょうがないので、自称一番弟子に「先生に漫画本を取られた。返してももらって欲しい」と言うと「お芝居の後で聞いてみる」と言われた。
私は「華氏451度」の映画はだいぶ以前にテレビで観た事があったが、その内容はほとんど覚えていなかったで、お芝居は面白かった。地方劇団だったせいか演技は今ひとつだったが。
さて、お芝居が終わってからお弟子が戻って来て「これから先生と役者さんたちと、みんなで食事に行くから、一緒においでよ。お酒が入れば言い出しやすいし」という。まったくこのお弟子は普段はブラッドベリ氏先生とはつーかーだとか自慢してるくせに、本を返してくださいの一言もいえないのか、全くしょうがないなあ。
しかし、ミスター苺も私も翌朝早くから仕事で夜遅くまで食事などしている余裕はなかったので、ブラッドに頼んで本は後で返してもらうことになった。
しかしブラッドは結局先生に漫画本はプレゼントではなかったとは言い出せなかったらしく、本は結局返って来なかった。
数日後ブラッドがうちにただメシを食いに来た時(当時ブラッドは売れない作家でいつもうちに食事をしに来ていた。)ブラッドは、「漫画本はだめだったんだけどさ、替わりに先生がこれ渡してくれて、漫画本のお礼だからって」と言われてもらったのがサイン入りの「たんぽぽのお酒」という自叙伝だった。
実はカカシはまだその本を全然読んでいない。後でその話を妹にしたら、妹は大笑いして、「漫画本はまた送ってあげるよ」と言ってくれた。
氏の遺品を整理している家族の方は、私の漫画本を数ある氏の本のなかから見つけただろうか?
ブラッドベリー氏の凶報を聞いて、思い出した一場面であった。


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