アラブ諸国でイスラム教過激派思想の聖戦派が勢いを増しているなか、欧米では何故か最近左翼リベラルの間で反ユダヤ教運動が盛んになってきている。
欧米における反ユダヤ偏見は何も今に始まったことではない。これは第二次世界大戦中ナチスドイツの支配下でおきたユダヤ人六百万人虐殺の歴史を述べるまでもない。
それでもナチスの蛮行に驚愕し深く傷ついた欧米では、第二次大戦後かなり長い間あからさまなユダヤ教迫害は遠慮されてきた。しかし、もともとある人種差別意識はそう簡単には消えない。それで欧米におけるユダヤ人差別はイスラエル批判という形で表現されてきた。最近欧州で人気歌手達が協力して吹き込んだパレスチナ解放を唱える歌など、反ユダヤ差別を中東問題に置き換えた典型と言えるだろう。
そして、イスラエルの次にユダヤ人の数が多いと言われるアメリカでも、超リベラルのサンフランシスコでは、なんとユダヤ教が太古の昔から伝統的におこなってきた男児割礼の儀式を禁止しようという動きが出て来ている。
割礼(かつれい):陰茎包皮または陰核を切開、その一部を切り取る風習・儀礼。古来、諸種族に広く行われたが、今日でもユダヤ教徒・アラビア・アフリカの諸部族間に残る。宗教的には、清め・奉献・契約の印・成人の証明などの意味づけがなされる。
ここではっきりさせておかねばならないのは、アラブやアフリカで伝統的にされている女児の性器切除と男児の割礼とは全く異質のものである。女児のそれは医学的な理由はまるでないだけでなく、その目的が女性の性的感覚を麻痺させることが目的な危険で野蛮な女児虐待行為であるのに反し、男児の割礼は単に包皮を切り取るだけの簡単な処置であり、伝染病などを防ぐという医学的効果もすでに多々の研究により証明されてきている。それでアメリカでは個々20年から30年来ユダヤ教徒でなくても男児に割礼処置を受ける親が増えて来ている。
男児割礼を違法にしようと提案したのはマシュー・ヘスという男性で、割礼禁止は宗教とは全く関係なく、男児の人権の問題だと主張する。だが、ヘスが経営するウェッブサイトではフォースキンマン(包皮男)という正義の味方の劇画が掲載されており、ヒーローは金髪藍目のアリアンで悪役は薄黒く嫌らしいユダヤ人ラビ(ユダヤ教のお坊さん)。まるでナチスドイツ時代の反ユダヤプロパガンダ劇画そのものである。(作家の名前がヘスというドイツ名なのは単なる偶然?)こんな人間が割礼禁止法はユダヤ教とは無関係だなどと主張するのは、あまりにも人を馬鹿に仕切っているとしか言いようがない。
だいたい乳児の人権云々を言うのであれば、先ず現在合法な人工妊娠中絶を違法にすることのほうが先決ではないのか?ほんの一時的な苦痛しか伴わず全く後遺症もないどころか医学的にも効果があるとされる割礼などに拘る前に、後々まで悪影響を及ぼす、まさしく女児虐待の女児性器切除という因習野蛮行為に対する批判をする方が先ではないのか?
そうしたことを全くせずに、男児の割礼にばかりこだわるのは、それがユダヤ教徒にとって大事な儀式であるからに他ならない。男児人権を言い訳にした反ユダヤ教のユダヤ教迫害のなにものでもないのである!
アメリカのユダヤ系市民の多くは左翼リベラルだが、彼らが自分らが無宗教なリベラルだから反ユダヤ教の動きの犠牲になることはないなどと考えているなら甘い。ナチスドイツのユダヤ人虐待が起きた社会でも、ユダヤ人は極普通のドイツ市民として融合していた。ナチスのプロパガンダにより、もともとあったユダヤ教への差別意識が増幅され、ついに六百万人のユダヤ人虐殺という結果が生まれたのだ。ナチスドイツではユダヤ系市民が実際にユダヤ教徒であるかどうかなど全く無関係に、ユダヤ系の血筋だというだけで虐待された。
油断していればアメリカでもそれは起きる。へスの反割礼運動が成功すれば、アメリカもユダヤ教迫害の第一歩に踏み出すことになるのである。