18日、国連の反イスラエル条例に対してアメリカは拒否権を用いたが、これまでのアメリカならこれはごく当たり前のことで、とりたてて騒ぐほどのことではない。だがオバマ政権のアメリカが本当に拒否権を用いるかどうか、実は議会では土壇場までもめていた。

 【ニューヨーク=柳沢亨之】国連安全保障理事会で18日、イスラエルのパレスチナ占領地へのユダヤ人入植を非難する決議案の採決が行われたが、米国が拒否権を行使して廃案となった。

オバマ政権発足以来、米国の安保理拒否権行使は初めて。他の14理事国はすべて賛成に回った。 アラブ諸国は反発しており、中東和平交渉の再開は一層困難となったほか、アラブ各国で拡大する民衆のデモにも影響が及ぶ可能性がある。
 決議案は、非常任理事国のレバノンが1月18日に提出し、入植を「違法」と非難する内容。国際法上、占領地への入植は「違法」とする判例があり、約120か国が共同提出国となった。
 米国は、入植には反対しているが、同盟国イスラエルの立場を考慮して決議案の撤回を求めていた。 (2011年2月19日11時05分 読売新聞)

ここで「入植」とされている地域はエルサレムのことであり、エルサレムはイスラエルの首都である。イスラエルが自国の首都に住宅建築が出来ないというのであれば、イスラエルが独立国であることを否定するのと同じだ。つまり、アラブ諸国はイスラエルのパレスチナ入植を非難しているのではなく、イスラエルが独立国として存在することを非難しているのである。
このような理不尽な条例にイスラエルと同盟を結ぶアメリカが同意できるはずはない、、というのが従来の常識だが、こと反ユダヤ主義(アンタイセマイト)のオバマ政権に限っては、そう簡単な決断ではなかった。
オバマ王の反イスラエル政策は民主党の間でも去年からかなりの批判が出ている。ユダヤ系アメリカ市民はリベラル派が多く、その大半が民主党支持だが、イスラエルには同情的である。それで、オバマ王政権のクリントン国務長官を始めとする反ユダヤ主義方針は、有力なユダヤ系の支持者が多い民主党議員たちを不安にさせるのである。

「イスラエルは当地において一番の同盟国である。にもかかわらず、必要な支持どころか非難ばかりを受けている。」ニューヨーク代表、アンソニー・ワイナー民主下院議員。

ワイナー議員は去年の四月、強まるイスラエルへの圧力に対してオバマ政権に抗議した十数名の民主党議員の一人である。この批判はニューヨークのチャールズ・シューマー民主上院議員のオバマがイスラエルを威圧しようとしているという批判に同調したものだった。

「公にイスラエルをこき下ろす前にシューマー議員の言う事に耳を傾けるべきだ。」「シューマー議員は正しい。ホワイトハウスはイスラエルにおいて間違っている。」とワイナー議員は続けた。

私はシューマー議員はあまりにもリベラルなので嫌いなのだが、911直後で見せたバリバリのニューヨーク精神(当時上院議員だったクリントンの無関心さとは比べ物にならない)や徹底したイスラエル支持など、一貫した信念を持った議員として尊敬に値する人だと思う。
オバマ政権の反ユダヤ主義は、ユダヤ系有権者の間でも強く感じられており、先の選挙ではユダヤ系市民からの政治献金が極端に減った。特にユダヤ系有権者が最も多いシカゴやニューヨークからの支持ががた落ちした。
こうしたオバマ政権の反イスラエル方針を是正すべく、今年の一月、下院議会は民主共和同意でオバマ王にイスラエル批判の国連条例を拒否するよう促した
この手紙はフロリダ州代表、外務委員会のイリアナ・リーティネン(Rep. Ileana Ros-Lehtinen)下院議員が執筆し、バージニア代表エリック・カンター共和議員、メリーランド代表ステニー・ホイヤー民主議員らが署名した。

「我々は尊敬を持って現政権に要請する。パレスチナの指導者に速やかに無条件でイスラエルとの直接交渉に戻るように圧力をかけよと。」

イスラエルとの平和交渉を拒否し、イスラエル攻撃を全く止める気がないパレスチナ。にもかかわらずアラブ諸国は一方的にイスラエル非難をし国連条例まで提案。米議会が腹を立てるのは当たり前だ。ところがオバマ王ときたら、この条例を非難するどころか、一部修正の条件付きで調印する意志を明らかにしていた。

米国は15カ国からなる国連安保委員会の『イスラエルによる継続的な入植はうけいれられない』という条例を支持する旨をアラブ諸国に通知した。これは入植を違法とするパレスチナによるより厳しい条例を拒否するという行為を回避することを狙ってのことだった。

もちろんイスラエルなどこの世から消え去るべしと考えているアラブ諸国の強硬派にとって、イスラエルに関して譲歩などあり得ないので、このオバマ政権の提案はあっさりと拒絶されてしまった。
それでオバマ王も余儀なく拒否権を用いることになるだろう、と普通なら思うが、それに先駆けて、こともあろうにクリントン国務長官がパレスチナと一緒になって、イスラエルの入植は違法だと公言したから大騒ぎ。(後になって「違法」ではなく「非合法」だと言ったのだと言い訳している。)
そんなこんなで間際までオバマが拒否権を使うかどうか怪しい状態だったのである。
民主党議員のなかには、先のシューマー議員やカンター議員も含め、カリフォルニアのダイアン・ファインスタンなどイスラエル支持のユダヤ系議員は結構いる。また、ユダヤ系市民の多いシカゴやニューヨークにも有力なユダヤ系有権者が多く居る。彼らは他のことではバリバリのリベラルであるが、ことイスラエルに関しては圧倒的にイスラエル支持だし、オバマ政権のあからさまな人種差別に不快感を覚える人々もすくなくないはずだ。
今回はなんとか拒否権を用いたものの、オバマ王政権の反ユダヤ及び反イスラエル主義は、アメリカユダヤ系リベラルをかなり不安にさせる要因となっている。


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