今週の木曜日はアメリカの感謝祭。一年で最も帰省客が多いとされる日だ。もちろんこの後のクリスマスも含めて、11月後半から12月はアメリカでは旅行客がどっと増える時期。そんな時期にアメリカの運輸保安庁TSAは全身スキャナーと猛烈パットダウンを組み入れた強攻防犯審査のお披露目を行った。
こんな忙しい時期になんの前触れもなく、乗客への詳しい説明もしないで、突然過激な政策を起用するなんてナポリタノ長官の横暴な不能ぶりがよく現れている。
突然始められたこの審査方法にアメリカの乗客は激怒。パイロットや搭乗員などからの苦情はもちろんのこと、TSA職員から手荒な扱いを受けたとして抵抗する乗客の逮捕だの苦情だの訴訟だの話が絶えない。出張の多いうちの職場でもその話ばっかりだ。(さすがに今日のトップニュースは北朝鮮の韓国砲撃だったが、、、)
それでもこういうやり方で空の旅が安全になるというならまだ納得がいかなくもないが、これは銃砲取締法でも学んだように、善良な市民から武器を取り上げても安全保証には全く効果はない。いくら警備対策を立ててみてもこのような乱暴なやり方では一般市民の生活をより窮屈にするだけで、対テロ戦争には何の役に立たない。
こんなことを書くと、じゃあ去年のクリスマスに航空機を爆破しようとした下着爆破男の話はどうなんだという疑問が生まれる。確かにあの男の爆弾は普通の金属探知機では探知できなかった。全身スキャナーとパットダウンがあれば探知できたかもしれない。
だが、もともと国土安全保証省がきちんとその仕事をしていれば、あの男は空港になど近寄れないはずの人物だった。ナイジェリア出身のウマーなんたらいう犯人はイギリスではテロリストとして知られており飛行禁止リストにも乗っていたほどの危険人物。そんな男がどうやって飛行機に乗れたんだ、というところから警備の甘さは吟味されなければならない。その話は去年の事件の時に色々書いた通り

犯人はイギリスで入国禁止リストに乗り、アメリカの一般危険人物リストにも載っていたというだけではなく、アメリカで二週間も滞在するというのに手荷物ひとつで、旅券も持たず、片道の航空券しか持っていなかったという。そういう人間がなんで空港を素通りするんだよ!

私はその時、一般人の審査を厳しくするよりもテロリストを見極めるプロファイリングをするべきだと書いた。

全く無関係な一般人を全員テロリスト扱いして時間と労力を無駄にするのではなく、怪しい危険人物に警備をしぼるべきだ。イエメンだのパキスタンだのサウジだの、テロリストが多くいる国の国籍を持っている者、それらの国に過去一年以内に出入りしている者など、集中的に取り調べるべきだ。

テロリスト危険人物のデータベースを世界各国の空港に配置し、警備員がすぐにパスポートとクロスチェック出来るようにしておくべきだ。

しかし上記のような人種や国籍のプロファイリングだけでは爆弾容疑者を捕まえるには不十分である。何故ならアラブ系のイスラム教徒が審査の対象になると知ったテロリスト達がひげを剃り髪も染めてイギリスのパスポートを所持したり、いや、それを言うなら、普通のアメリカ市民を勧誘して爆弾を背負い込ませたりしたら、それで終わりだからである。
では一体どうすれば空港や航空機の安全を保証できるのか、その答えは、あれだけテロリストに狙われながら、1972年に起きたロッド空港事件を最後に、飛行機のっとりや航空機爆破の被害を受けたことがないイスラエルが長年起用しているビヘーイビアルプロファイリング(挙動不審像診断)にある。
これについてデイビッド・ノデルという人が書いているが、それを要約すると、、

多くの研究家が同意しているように、爆弾ではなく爆弾を所持する人間を探知する、人間に焦点を当てたイスラエル式審査が一番効果的である。エルアル航空機に搭乗する乗客はベン・グリオン空港はもとより世界各国の空港で数秒とはいえ、一人一人質問を受ける。そしてその質問に対して、答えの内容よりも顔の表情やしぐさなどの反応を吟味される。「どこからきたんですか」「荷物は自分で荷造りしましたか、誰かから荷物を預かりましたか」といった簡単な質問によって一般の旅行客と挙動不審な人物を即座に区分けすることが出来るため、怪しい人物に対してはより時間をかけて尋問をする事が出来る。これは荷物を調べるかどうかを考慮するずっと以前の話である。ダニエル・パイプが21年前の記事に書いたように、1986年春ロンドン発のエル・アル航空を爆破から救ったのは、アンマリー・マーフィーという女性がアラブ人のボーイフレンドからそうとは知らずに預かった荷物の中に爆弾が仕掛けられていた事がこうした質疑応答で発見されたことにある。

イスラエルの都市で一昔前までしょっちゅう起きていた自爆テロが最近ほとんど見られなくなった。いやあったとしても大抵は警備員や警察官に止められてあわてて自爆というものに留まっている。それというのも、イスラエルではバスの運転手やショッピングモールの警備員などが自爆をしそうな人の表情や態度を見分ける訓練を受けているからだという。
どんなに心の座ったひとでも、これから何百人という人間を道連れに自爆しようとするからには、それなりに不思議な態度に出る物である。そんな時に「何処から来たのか」「旅行の目的は何なのか」といった何気ない質問をされたら、その答えは用意してあったとしても、死ぬ覚悟をしている人の声や態度は自然ではない。これは犯人がアラブ人でもアメリカ人でも同じことだ。
また、上記の1986年の爆破未遂事件のマーフィーというイギリス人女性の場合のように、人種プロファイリングや挙動不審像にあてはまらない場合でも、他人から荷物を預かったかという質問で爆弾の発見が可能となった。
余談だが、そういえば以前はチェックインの際に必ず荷造りは自分でしたかとか他人から荷物を預かったかという質問をされたものだが、最近はオンラインチェックインや機械でのセルフチェックインのせいでチェックインの際の係員との会話はほとんどなくなった。その割にはチェックインに時間とるのは何故なんだろう?
ところで、空港で不審尋問をするためには、今のような先週どっかのスーパーの前から拾って来たようなTSA職員では無理だ。きちんと数ヶ月なりプロファイリング専門の訓練を受けた人でなければ勤まらない。しかし、不審尋問は一般の警察官なら誰でも毎日やっていることであり、引退した警官とか現役警察官を勧誘してTSA人員を整えるべきだろう。
テロと戦うなら武器や爆弾を探すのではなく、テロリストを見つけ出す事が一番効果的である。先日も書いたようにアフガニスタンでテロリストと闘って来た帰還兵から爪切りを没収するなどということに時間を浪費すべきではない。
テロリストでない一般人がマシンガンで武装していても他の乗客にはまったく危険は及ばないのだから。


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