ミスター苺はいつもカカシに冒険的なことをやらせたがる。私としてはワイキキビーチでマイタイをすすりながら寝そべっているだけで充分なのだが、ミスター苺は何か危ないことをやってないと気に入らないひとだ。しょうがないので今日はカネオヘ(Kaneohe Bay)湾にてカヤック乗りに挑戦することとなった。こちらにゴージャスな写真が載っているので参照のこと)
我々は「ゴーバナナ(Go Banana)」というカパフル通り(Kapahulu Avenue)にあるカヤックのレンタル店でカヤックを借りた。店の店員が車の上にカヤックを結びつけるやり方を簡単に教えてくれた。借り物だ、失くしてしまったら元も子もない。海水と日差しですっかりこんがらがっている長い金髪の日焼けしすぎの若い店員は、我々に救命チョッキと、ドライバッグという防水の袋を渡した。それが済むと我々はずらずらと注意事項が並んでいる書類に何枚も署名させられた。しかも万が一の時にお店には全く責任がないという内容のものばかり。 待てよ、救命チョッキは常備着用とか、なにがあってもお店を訴えるナとか、もしかしてカヤキングてそんなに危険な活動なの?「もし転覆したどうなるの?」とミスター苺が店員に聞くと、お兄ちゃんは今日の海はとっても静かだから全く問題ないよと答えた。「第一、ずっと浅瀬だもの、歩いたって大丈夫なくらいだよ。」救命チョッキも着ていることだし、もし転覆してもちょっと濡れるだけの話、どうってことないさ。
なんだか心もとない保証だなあ。私は100%安心したわけではないのだが、すでにカヤックは車の屋根にくっついてしまっているし、今更行きたくないなどというわけにもいかない。ま、しょうがないか。
カノエヘ湾を見つけるのは全く問題なかった。しかしカヤックを駐車場から桟橋まで運ぶのは一苦労だった。店員はカヤックはたったの70ポンドだとミスター苺に言ったという。カカシは自慢ではないが、長年にわたってかなりの筋トレをしていきたのでミスター苺と半分づつの35ポンドくらいの重量を運ぶのはなんということはない。だが、二人がかりでこれだけ苦労して運んだこのボートがたかが70ポンドだなんてことは絶対にありえないと断言できる!
えっちらおっちらとふたりでふらふらと長~い道のりを苦労しながらカヤックを運んだのに、何と着いたところはボートの出発点でカヤックを始めるところではなかった!カヤックの出発点はカヌービーチというところ。そんなこと誰も教えてくれなかったじゃないかあ~、などと言ってみても遅い。「せっかくここまで来たんだから、ボートランチでもええやん、ここから始めよう」とカカシ。なにせカヌーランチまでは今来た道を引き返したうえに、別の桟橋まで運ばなければならなかったからだ。しかしモーターボートや中型の船が出港するボートランチからのカヤック出航はたいへん。なにせこれらの大型船に轢かれない様に必至で漕がなければならなかったからだ。
我々の目的地はカパパ島、浜辺から2.25マイル沖合いの島だった。
言い忘れたが我々は二人乗りのカヌーに乗っていたので、最初はお互いのパドルがぶつかりあったりして進み方はかなりゆっくりだった。しかし、だんだんとリズムがわかってきて結構スムーズに進むようになった。ミスター苺によると、途中に沈没した島があるという。私にはそれがどういう意味なのか解らなかったのだが、とつぜん海の色が深い青から薄い緑色に変化した。しかも海底がすぐそばに見えてきたのである。カヌーのすぐ下にさんご礁が見えた。まるで丘の上を浮かんでいるようだった。
ここでミスター苺は、この沈没した島の上を歩いてみようと言う気になった。それはそれでいいのだが、彼は私にそれを言わずに突然カヤックから飛び降りた。私が何事かとおもって振り向いたのがいけなかった。バランスを崩してカヤックは半回転して、あっという間にカヤックの中にはいっていたお弁当もペットボトルもカカシともども海の中。
エメラルドの海面から見たときは、海はかなり浅く見えたが、実際には4フィートくらいの深さだった。私の背が5.2フィート(158センチ)だから4フィートなんてどうってことないと思うかもしれないが、救命チョッキを着ているうえに、波が結構あったので、我々は自分達の体を思うようにコントロールできない。まるでコルクのように海に浮かんで波が来るたびに上がったり下がったりしてしまうからである。我々のパーカやペットボトルやTシャツやお弁当が、どんどん波に乗って遠ざかっていくのを泳いで追いかけるのは一苦労だった。
なんとかパーカとシャツとお弁当は取り戻したが、水の入ったペットボトルの一本は逃してしまった。今日一日二人で一本のペットボトルで過ごさなければならない。しかも我々はまだカヤックの上ではなく海の中である。
カヤックに乗るのはおもったより容易なことではなかった。まず最初に私はカヤックの片方につかまって足をかけて乗りあがろうとしたのだが、足をカヤックにかける度にカヤックが回ってしまう。それでミスター苺がカヤックの一方を押さえている間に私が乗りあがる方法を試みた。
何回かこれを繰り返すうちに、私はなんとかカヤックに乗ることができた。今度はミスター苺の番である。ミスター苺は右側から乗るので私に左側に重心を置けと言った。しかし彼が左に傾けと言ったとき、私は傾きすぎてしまい、あっという間に再び海のなか。 なんてこった、また元の木阿弥だ。
そこで今度は、ミスター苺が最初に乗って、私を引っ張り上げるのがいいのではないかと考えた。しかしこれもミスター苺が乗ったと思ったとたん、カヤックは転覆。三たび我々は海の中である。
ここまで来ると私は多少不安になってきた。我々は浜辺からは1マイル以上離れた場所に居る。もしこのままカヤックに乗れなかったらどうなるのだろうか? 三度めの正直でまた私が先にカヤックに乗った。ミスター苺が乗るときも私はあまり重心を変えないように努力した。なんとか彼が乗り上げて、「やったー!」と万歳をした途端にバランスが崩れてまたもやカヤックは転覆。もう、ちょっといい加減にしてよ!
ミスター苺がぜーぜー言いながら私に怒りを押さえつけながらゆっくり言った。「よし、カカシ、お前が最初に乗れ。俺が乗るときは何があっても身動きするな!じっとしてろ、いいな!」カカシはこの時点で半分パニックに陥っていた。しかし今度はなんとか二人とも無事にカヤックに乗りあがることが出来た。ここではじめて気が付いたのだが、なぜかこの間私のサングラスはずっと顔についたままはずれなかった!結局失くしたのは飲料水のペットボトル一本だけ。
もうこの時点でカカシは島へいくことになど完全に興味を失っていた。第一浜辺からこれ以上遠ざかってまた転覆したどうするのだ?私はすぐにでも引き返したい気分だった。 しかしミスター苺は断然やる気。引き返すなんてとんでもない。「せっかくあんなに苦労したのに、引き返すだって?冗談じゃないよ。第一、、」すでに我々は半分以上島に近づいている。このまま島へいったほうが引き返すよりも近い。「ここまで来て引き返したら絶対後悔するぜ。」まあ、そういわれてみればそうだが、、結局ミスター苺の説得に負けて我々は島へ向かった。
信じ固いことだが、浜辺から島へむかう途中の海はほんの3フィートから4フィート程度の浅瀬だった。しかしながら目的のカパパ島に近づいてくると波のクロスファイアーに出会った。これは沖からの波が島にあたって島の両側から波が島を囲むようにして向かってくることを言う。わたしたちのカヤックはちょうど両側の波がぶつかり合うところに入っていったのである。
ガイドブックではこのことを警告していたが、本で読むのと実際にその場にいるのとでは大違い。両側からの波が押し寄せるため舵がとれない。しかしこの当たりで海は非常な浅瀬になり、船が転覆するのも不可能なほどになっていた。パドルが海底にあたるほど浅くなったので、私たちはカヤックから降りて島までカヤックをひっぱることにした。
ところが遠くからは柔らかな砂浜に見えた浜辺は、実は砕かれた珊瑚礁につつまれていた。カヤックを引き上げるには最低の場所だったが、今更しょうがない。浜辺にあがってカヤックをヒッパタ時、勢いがつきすぎて珊瑚礁のなかに尻餅をつき、腕や足が珊瑚礁でひっかかれて切り傷だらけになった。でもとにかく丘の上だ!
カヤックを上げるのに苦労しているのを見かねたのか、島にいた若い男性が手を貸してくれた。男性にはイギリスなまりがあるように思えたが、ミスター苺は南アフリカ訛りじゃないかと言っていた。この男性と友達の過ヤッキングクラブの仲間はこの島にキャンプしているのだという。私たちは少しゆっくり島で休んでから帰るつもりだと言うと、今は静かだが天候は急に変わるので、今日中に帰るつもりならあまり島に長居をしないほうがいいと忠告してくれた。そこで私たちは急いでお弁当のサンドイッチを食べ、数枚写真を撮り(カメラは何度もの転覆を無事生き延びていた)イギリス人の男性に二人の写真を撮ってもらい小島を後にした。
帰りは行きよりもずっと楽だっった。それというのも波は岸に向かってなびいていたからで、何もしなくても風が私たちを押し流してくれたからだ。時々波が後ろから忍び寄ってきて思いも寄らぬサーフィンをするはめになったが、転覆するほどのひどさではなく助かった。
ただ困ったのは、ところどころ海底が非常に浅くなったため、カヤックが底についてまったく身動きしなくなってしまったことだ。所によってはその浅さほんの1フィート(30センチくらい)!観光客がボートから降りて我々のカヤックの周りを歩き回っていた。海のまんなかで歩けるほど浅いところがあるなんて、不思議なところだ、まったく。
行きはこんなことには気がつかなかったところをみると、どうやら潮が引いたとみえる。
途中ちょっとカパパ島で休憩したとはいえ、あとは4時間ほとんど漕ぎっぱなしだったが、やっと私たちは桟橋まで帰ってきた。しかしここからまたカヤックを車まで運ぶのは一苦労だった。私があまりにも手こづっていたので、通りがかりの男性達が手伝ってくれ、やっとの思いでカヤックを再び車の屋根にしっかりと動かないように結びつけた。レンタル店のお兄さんから教わった結び方はちゃんと覚えていなかったのだが、大丈夫だろう。しかし、いったん高速H1に乗って走り出すと、ミスター苺がカヤックが左に動いているような気がすると言った。「おい、ちょっと止まって見た方がいいぞ。」と彼が言った途端、私たちはカヤックが滑り落ちる大きな音を聞いた。私たちはカヤックの片方を縛るのを忘れていたのである!あれだけ苦労したのに高速でカヤックを失くしたら、少なくとも500ドルは賠償金を払わなければならなくなる!
急いで車を路肩にとめ、カヤックをもう一度締め直し、再び車に乗り込んだ。ミスター苺も私もこのことはレンタル店のお兄ちゃんには黙ってよね〜と合意した。「でもブログになら書いてもいいよ。」とミスター苺。言われなくても書いちゃうもんね。
ゴーバナナに戻ったのは午後5時半。カヤックをかりてから7時間半後だった。カヤックに破損箇所がないかどうか確かめた店の店員は、ラダーが壊れている難癖をつけ、250ドルの損害賠償がどうのこうのと言い出した。ミスター苺が「そんなにひどく壊れてるようには見えないけどね、ちょっと曲がってるだけじゃん。すぐ治せるよ。」と店員とちょっと言い合いをすると、店員は店長を呼んできた。ラダーをよくよく検査した店長は、一旦奥に入ってレンチを持って戻ってきた。レンチでとんちんかんとラダーを叩いた後、「よっしゃ、無料だ」と大きな笑みを浮かべた。ほ〜!
さて、最後に我々は興味があったので、店長さんに一旦カヤックから落っこちた場合、どうやってまたよじ上ればいいのかを聞いてみた。どうやら我々のやり方は完全に間違っていたようだ。店長さんは「そんなやり方でよく乗り上がれたね。」と驚いていた。
ホテルに戻ってみると私たちの体は切り傷と青あざで覆われていた。乗ってる最中は興奮していて全く気がつかなかった。私は筋肉痛で夕飯に外へ出るのも苦痛だったほどだ。
でもまさしくこれは冒険だった!やってる時はもう嫌だと思ったが、終わってみるとこれもいい経験だったと思う。


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