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アメリカでは個々の新聞が社説などでどの候補者を支持するか明らかにすることは珍しくない。しかし、最近の新しい傾向なのか、リベラル派の新聞社が共和党大統領候補のミット・ロムニーを「反支持」する社説を掲載した。いや、単にロムニーを支持しないどころか、投票者にロムニーには投票するなと呼びかけているのである。
これは12月22付けのニューハンプシャー州はコンコードモニターに掲載された “Romney should not be the next president” (ロムニーは次の大統領になるべきではない)という題の社説だ。

共和党大統領候補を部品セットから築き上げるとしたら、スポーツマンで筋肉質な体系、レーガンのような髪、カリスマ的な演説スタイル、ぱりっとしたスーツといった部品を想像するだろう。それに加えて美人の奥さんにかわいい子供たち、大成功しているビジネス。これに大統領に必要なリーダーとしての知事の経験もちょうど良い加減にある。 そして共和党のおきまりの経費節約に減税をとなえ、加えて2008年の共和党の新しい姿勢である反移民政策を取り入れ宗教に焦点をあてればもう言うことない。

こうした要素をすべてあわせ持つのがミット・ロムニーだ。彼の不穏な姿はまさに次の大統領そのものだ。そしてロムニー候補の大統領当選は断固阻止されねばならない。

コンコード・モニターはどう見てもリベラルな新聞だ。過去にイランがレーガン時代になってから人質を返還したのはカーター大統領の努力のたまものなのだといった記事を書いてみたり、以前にもロム二ーの宗教について批判的な記事を載せたり、違法移民に運転免許書を発行すべきだなどといった姿勢をとったりしている。
しかしながら、社の方針はどうあれ、候補者が大統領になるのを「断固阻止せねばならない」などと書くのは、いくらなんでも行き過ぎである。これは新聞社がリベラルであるとか保守派であるとかにかかわらずジャーナリストとして一線を超える行動だ。
新聞社が「何々候補に投票すべき」というのと「誰々だけは投票してはならない」というのとではグランドキャニオンほどの溝があるとミスター苺は言う。これは一般人が「ヒラリーだけは勘弁してほしい」というのとは訳が違うのだ。一個人の意見と主流な新聞ではその影響力は比べ物にならない。
それにしてもコンコードモニターはいったいロムニーの何が気に入らないのだろう?彼等のあげる言い訳はあまりにもくだらなく理由にもなにもなっていない。

ロムニーのマサチューセッツ知事時代の経歴だけをおっていれば現実主義で穏健で、社会的な面ではかなりリベラルな面もあり民主党ともうまくやっていく才能のある人間だという印象を持つ。 一方で大統領候補としての選挙運動だけを追っていれば、彼は本格的な保守派でどんな犠牲をはらっても宗教右翼に迎合すると確信するだろう。この両方に注意を払ったとしたらいったい彼の根本には信念というものがあるのかどうか疑問が残る。

1994年の上院議員の候補者として、彼はライバル候補のテッド・ケネディより同性愛者の権利を守ると主張した。しかし近頃では同性愛結婚や養子縁組に反対であることを主張している。.
一時期彼は避妊具をもっと容易に手に入るようにしたいといっていたのが、後になって処方せんなしの避妊ピル販売を否決したりしている。
昔のロム二ーは投票者に自分は人工中絶を支持していると保証していた。「その点について揺らぐことはありません。」とロムニーは1994年に発言している。その時彼は親戚に起きた違法中絶の失敗の悲劇を引き合いに出し、人工中絶は合法で安全な形で保つべきだと語った。しかし最近では彼は自分は プロライフ(カカシ注:命を尊重するという意味だが、一般的に人工中絶に反対な意見をいう。)だと言っている。
ロムニーは幹細胞の医学調査を支持すると言っていた時があった。その時ロムニーは自分の妻の多発性硬化症を理由にこのような調査は彼のような家族を助けることになると説明した。しかし最近は主に調査に反対している。知事候補時代のロムニーは反税金政策はギミックだといっていたが、最近は(反税金議案に)まっさきに調印している。.
人は変わるものだ。変化がないことが人徳とは限らない。しかしロムニーのこうした変化は自分の野心のためだけの何者でもないことが参権者には明らかだ。

日本の読者のみなさんには、ロムニーの変化がどういう方向へ向かっているのか分かりにくいと思うが、実は彼の変化は一方通行であり、すべてが左から右への変化なのである。しかも彼の変化は突然おきたものではなく、数年にかけてじょじょに起きたものなのだ。 つまり、こんコードモニターは「ロムニー候補の大統領当選は断固阻止されねばならない」理由はロムニ年をとって経験を積むにつれて保守的になってきたからだというのである。
保守派の共和党支持者の間でも最初から右翼でない人間を疑う傾向があるとはいうものの、現実として一般人は年をとって人生経験を積むにしたがって保守的になるのは普通だ。こうした変化をとげたことで有名なのは保守派の英雄ロナルド・レーガンその人がある。ほかにも元はリベラルだったのが保守派にかわった、いわゆるネオコンと呼ばれるひとたちはいくらでもいる。年をとってから右から左へ移行するという例外がないわけではないが、そういう例は非常に稀である。
こんな一般的な心変わりをロム二ーの大統領当選を反対する理由にあげることからして、これがコンコードモニターの本音でないことは明らかだ。なぜならこのような変化なら他の共和党候補者であるマケインにしろ、ハッカビーやジュリアーニにしろ皆体験しているからだ。
リベラルなコンコードモニターは必然的に民主党支持だ。そのモニターがロムニーに強く反対するということは、ロムニーなら民主党の候補者を破れる可能性が強いと踏んでいるからだ。はっきり言って敵側の助言を聞くほど愚かなことはない。モニターが押している共和党の候補者はマケインもしくはハッカビーだが、その理由は明白だ。この二人は非常に個性が強くその政治的方針もかなり極端なため共和党全体がまとまって支持しない可能性が高いのである。
例えばジョン・マケインだが、彼はイラク戦争などの国防には強いが社会的な面では非常にリベラルだ。マケイン上院議員のおかげでブッシュ政権のもとで保守派の裁判官任命がかなり阻止されてしまったことでマケインに腹をたてている共和党支持者は少なくない。一方マイク・ハッカビーはマケインと正反対に福音書宗教右翼の支持を強く受けているが、極右翼過ぎるため穏健派世俗主義の共和党支持者に敬遠される嫌いがある。なんにしてもこの二人では共和党はまとまらない。
過激派宗教右翼は別として一般の保守派はロム二ーがモルモン教徒であることを特に気にしていないし、ジュリアーニの保守派の裁判官を任命するという公約を信じて、彼の人工中絶支持には目をつむる用意がある。つまり、ロム二ーやジュリアーニには共和党をまとめる力があるが、マケインやハッカビーは票を割る可能性が高く、従って民主党候補に有利になるというのがコンコードモニターの狙いなのだ。
だから民主党大統領当選の最大の障害物であるミット・ロムニーの大統領当選は断固阻止されねばならない、、ということになるわけだ。そういう本音を隠して理由にならない理由をあげてロム二ーの評判を落とそうなどとはいくら社説とはいえ、主流新聞としてはあるまじき態度である。


1 response to 「ロムニー候補の大統領当選は断固阻止されねばならない!」 リベラル新聞の行き過ぎ社説

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