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昨日も疑問点多いNIEのイラン核開発停止報告で書いたように、今回のアメリカの国家情報評価(NIE)による、イランは2003年秋に核兵器開発を停止していたという調査報告には腑に落ちない点が多すぎるのだが、アメリカ主流メディア各紙の反応を読み比べてみよう。
まずはウォールストリートジャーナル(WSJ, 登録有料)の社説 からよんでみると、WSJはカカシが昨日指摘したように、この報告書が2年前の報告書を完全に覆しているという事実そのものがNIEの信用度を落としていると書いている。:

ほんのつい2005年までは「国際的な義務や圧力にも関わらず」「イランは現在核兵器開発を行っていると確信している」というのが一般的な見方だった。これはNIEによる「高度の自信を持った」判断だった。ところが新しいNIEはイランが「国際社会の圧力に反応」して2003年に核兵器開発プログラムをあきらめていたという。そしてこれもまた「高度の自信を持った」結論だという。とすれば二つの結論のうちどちらかが間違っていることになり、根本的な分析過程の信用度そのものがかなり疑わしくなってくる。

NIEの主要な著者たちが「極度にブッシュ政権に反対していた」元国務庁の役人たちであると知って、我々は報告書に高度な「自信」をもつことができない。彼等はトム・フィンガー元国務庁諜報調査部、バン・バンダイパン国家諜報大量破壊兵器部、ケニース・ブリル元国際原子力機関(IAEA)アメリカ大使である。

またWSJは2003年にイランに圧力をかけた事件といえば、イラク戦争しかないことを指摘している。ジョージ・W・ブッシュのイラク戦争は単にパパブッシュやクリントンのやった戦争のように、短期間にやって「よくやった」とお互いの肩をたたきあってさっさと撤退し、後の混乱には全く無頓着などという戦争ではなかった。ジョージ・Wの戦争では、フセインを倒しバース党を崩壊させた後の反乱分子との戦いにアメリカは苦戦して歯を食いしばって居座った。ジョージ・Wは内外からの批判をよそに全く方針をかえる気配もなかった。これはそれまでイスラム諸国がアメリカ軍にたいして持っていた印象とは正反対の反応だった。もしイランがジョージ・Wの態度に圧力を感じて核兵器開発を一時停止したのだとしたら、これはブッシュ政策の大勝利と考えるべきではないのか?
だがNIEはこれを「国際的な圧力」としている。国際社会のどのような圧力のことをいっているのか報告書は特定していない。 2003年にあった国際的圧力とはいったい何だ?当時アメリカはヨーロッパにイランと核兵器開発について交渉してほしいと説得している最中で、まだとりたてた圧力がかけられていた時期ではない。
WSJ はもっと大事な点はイラン核プログラムにあるという。イランはいまだに核爆弾の燃料となるうるウラニウム濃縮作業を工業並みのスケールで継続している。そしてこれは明らかな国連条例違反である。しかもIAEAはイランにはすでにウラニウムを核兵器の核形に製造する設計図を持っていることを確認しているというのだ。それに加えてイランには弾道ミサイルを武装する技術的な知識があることはすでにアメリカ諜報部は知っているのである。またイランの革命防衛隊はすでに点火の技術すら開発中だという。だとすれば、単に核兵器製造をおこなっていないというだけであって、イランの核開発プログラムは健在だということになるではないか?
ロサンゼルスタイムスによるとNIEが2005年の結論を完全に覆した理由は新しく取得された証拠によるものだという。
その新しい証拠というのは、現職ならびに退職した合衆国諜報部の関係者によると、この夏にアメリカの諜報部がイラン高官同士の核兵器プログラムに関する電話での会話内容を取得したというところからはじまる。どうやって取得したかという詳細は載ってないが、多分衛星電話などの会話を途中で捉えたのだろう。またこれと共に高官同士の会話が記載された核兵器開発に関する日記がみつかったのだそうだ。
この新しい情報がきっかけとなって、これまでの諜報が大幅に見直しされたのだとロサンゼルスタイムスは伝えている。
しかしここで注意しなければならないのは、諜報というものは最終的な絵がわからない点の集まりだ。この点をどう結び付けるかは分析者の判断に頼らなければならない。星座などでも柄杓だといわれるからそうかなという気もするが、見る人によって見える絵は違う。NICは2005年にはこの点のかたまりを「高度な自信」を持って核兵器開発がされていると判断したが、今回は全く同じ点と新しくできたふたつみっつの点をあわせて、同じく「高度な自信」をもってイラン核兵器開発を停止したと判断していることになる。
NIEはイラク戦争の前イラクに大量破壊兵器の備蓄があるという誤った結論を出してしまったことから、その教訓を生かしてもっと慎重に今回の分析にあたったという。ひらたくいうならば、アメリカはイラクの大量破壊兵器について1990年に過小評価しすぎていた。そして2002年には過大評価していた。そして2004年にはイランの核兵器開発を過小評価していたので、2005年には過大評価し、2007年には過小評価して調節しているということだ。
そうだとすれば、今回の結論も極端な過小評価である可能性が非常に大きいということになる。しかも著者三人が極端にブッシュ政策に批判的であるということも考慮にいれると、今回の報告書がいったいどこまで信用できるものなのか、ハッキリ言ってカカシには「高度の自信」がもてない。(笑)
ニューヨークサンはNIEは明かに外交政策に影響を与えようとしていると書いている。

この報告書の正しい読みはワシントンにいる選ばれた政権にたいして諜報組織が長年に渡って挑戦してきた葛藤の結果だということだ。彼等はずっとブッシュ大統領の主な政策決断に反対してきた。 彼等はイラク国会に反対だったし、イラクの選挙にも反対だった。彼等はI. Lewis Libbyにも反対だったし、イランへの強硬路線にも反対だった。

言ってみればこれは役人の復讐のようなものだ。著者の重要なひとりであるバン・バンダイペンはアメリカにイランのウラニウム濃縮をみとめさせようと過去5年にわたって働きかけてきた。バンダイペンがこの見積もり報告を組織のなかで押し進めることによってワシントンでの政策に影響を及ぼすことが出来ると考えていることはあきらかだ。役人たちは自分らの手で次の戦争をとめようとしているのかもしれない。
しかしこの危険なゲームはブーメランのように戻ってきて、かえって戦争が起きる可能性を高めてしまう可能性がある。外交官たちは今月中になんとか安全保障委員会でイランに関する三つ目の条例を通過させたいと望んでいた。すでにタートルベイ(国連ビル)の中国代表はそのような書類を支持するのはやめたいと騒ぎはじめている。…

イランが差しせまった脅威ではないということになれば、国際諸国はイランへの経済制裁だの条例だのに控えめな姿勢を示すようになるのは必定だ。国際社会からの圧力によってイランに核開発をやめさせようとアメリカ民主党が考えているなら、この報告書のおかげで国際社会からの圧力など全く見込みがなくなってしまった。
さて前述の「新しい証拠」だが、これについてはニューヨークタイムスがもっと詳しく説明している。

入手されたノートに2003年後期に核兵器の複雑なエンジニアリングデザイン企画を差しとめたことについて、軍幹部の人間が苦々しく文句をいっている会話が記載されている….

ニューヨークタイムスはこのノートの内容は別の幹部によって確認されており、別に取得された会話の内容とも一致していることから、このノートの中身は信用できるとしている。しかしこのノートも衛生電話の内容もイランが故意に流した嘘情報であるという可能性は多いにある。イランはCIAがイラン国内で電話の盗聴をしていることは十分承知しているはずだ。だとしたらこちらを惑わすために偽情報を盛り込んだ会話をわざわざ軍隊幹部にやらせるなど朝飯前だろう。同じ内容の情報が別々に集められたからといって、その情報が正しいということにはならない。
ニューヨークタイムスによるとCIAはこれがイランが経済制裁から逃れるために意図的に流した偽情報ではないかという意見は拒絶している。しかしCIAはそのことについてどうしてこれが偽情報ではないと思うのか、二週間前に大統領、副大統領ならびに政府高官の前で説明したそうだ。
その会議に是非出席したかったな。


2 responses to NIEはイランの情報操作にまんまとのせられたのか?

アレン14 years ago

最近アメリカの諜報機関に関して考え事があり、今回のNIEの結論を聞いてますますそれに確信をもってきました。それはCIAなどの諜報機関からの情報などには信頼性がまったくないということです。過去どれほど間違ったことか。私が思うには、イランが核兵器開発を行っているぞ後2ヵ月完了だぞといっても信用度ゼロ。
もう頭からやり直して欲しいな。クリントンの任命から始まるといいですね。

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In the Strawberry Field14 years ago

イギリス諜報部、アメリカはイランに一杯食わされたと指摘

The English version of this entry can be read here. イランが2003年後期に核兵器開発を停止していたというNIEの報告はどうも疑わしいと感じているのはカカシだけではない。どうやらイギリスの諜報部もこの報告書はかなり眉唾だと感じているようだ。 英国のテレグラフ紙によると、 イギリスの秘密工作員たちはアメリカの諜報報告が先週発表したイランが核兵器プログラムをお釈迦にしたという話は非常に疑わしいとし、CIAはテヘランに一杯食わされたと考えている。 先日カ…

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