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先日、アメリカの国家情報評価(NIE)が、イランは2003年秋に核兵器開発を停止していたという調査報告を発表したが、それについてミスター苺がカカシより一足先に詳細に渡る分析をしているので、今日はミスター苺のエントリーをそのまま紹介したいと思う。
まずはこの国家情報評価の報告内容について読売新聞の記事から。 

【ワシントン=坂元隆】米政府は3日、イランの核問題に関し、米国のすべての情報機関の情報をまとめた国家情報評価(NIE)を発表し、イランが2003年秋の段階で核兵器開発計画を停止していたとの分析結果を示した。
 ただ、ウラン濃縮活動は継続しているため、2010〜15年に核兵器製造に十分な高濃縮ウランを生産することは可能だとも指摘。ハドリー国家安全保障担当大統領補佐官は同日、イランの核問題は依然、「きわめて深刻」として、外交的手段を通じてイランに国際的圧力をかけていくこれまでの政策に変化はないと強調した。
 米情報機関は2005年の同様の報告では、イランは「核兵器開発を決断している」と述べていた。今回のNIE報告は米政府がイランの核問題に関する認識を転換したことを意味している。ブッシュ政権内では、大統領自らが今年10月に「第3次世界大戦を回避したければイランに核開発させてはならない」と発言するなど、イランに対して武力行使も辞さない強硬論が出ていたが、今回の報告で強硬論は沈静化しそうだ。

米民主党のいうことを信じるなら、NIEのイラクの核兵器開発プログラムに関する調査書にはイランには最初から全く心配することなど何もなく、ヒラリー曰く「剣を振り回す」行為は今すぐやめて、イランに今後アメリカの安全を脅かさないでもらうよう賄賂を検討する平和的な交渉を初めるべきだと書かれているかのような印象を受ける。 (俗な言い方をすれば、イランの恐喝に従えということだ。)
NIEの調査結果が本当だとしても、実際に調査書の指摘する重要点は四つある。

  • パキスタンの核兵器科学者A.Q.Khanから買い求めた知識によりイランは核兵器開発プログラムを所持していた。
  • イランは核兵器開発を2003年の後期に(中止ではなく)停止したが、これはすぐお隣のイラクを侵略するという、ブッシュ大統領の「剣を振り回す行為」への直接的な反応だった。

    核兵器開発停止が起きたとされているのは2003年の秋である。これはアメリカがイラクに攻め入ってバース党を倒した直後ではなく、イラクでアルカエダやイランが支援しているシーア派の反乱分子との戦いがすでに始まってからのことだ。ビンラデンやアラブ諸国の予測に反してアメリカ軍は逆境に立たされても怯む様子を全く見せていなかった。
    アメリカ軍によるイラク占領がイランに安堵感を与えていたはずはない。ということはこのまま核兵器開発を進めていては「悪の枢軸」とブッシュに名指しされている自国がブッシュにいつ攻められるか分からないと心配したイランが核兵器開発の一時停止を考えた可能性は大いにある。

  • イランは核兵器に必要なウラニウム濃縮プログラムは継続している。
  • イランはアメリカ政権がバラク・オバマやヒラリー・クリントンのようなイラン政策穏健派に代わってイランへの圧力が減り次第、核兵器開発プログラム再開する機能を保持している。

注意すべきなのはイスラエルの諜報部もイランが2003年に核開発を一時停止したことは確認しているが、すでに再開されているとしている点である。 (hat tip to Hugh Hewitt):

イスラエルのエクード・バラク防衛長官によるとイランが2003年に軍事的な核開発を停止したというのは「本当らしい」とのことだ。

「しかし我々の見解では 以来プログラムを継続している模様だということです」 とバラクは陸軍ラジオで語った。「世界の諜報組織によって意見の違いが見られます。誰が正しいのかは時とともに明らかになるでしょう。」

ミスター苺の見解は、NIEの情報が正しいとするならば、 イランは核兵器開発をジョージ・W・ブッシュの任期中は一旦差し止め、民主党の候補者が2008年の選挙で勝利して彼等の公約通り、イランへの圧力を減らすという状況になってからプログラムを再開させようと考えているのではないかというものだ。なにしろ米民主党はイランをイラクの安定化に協力してもらおうと考えているくらいだから。
NIEも認めているとおり、イランは核開発施設を解体したわけではない。 ウラニウム濃縮施設はそのまま残っているし、核兵器開発知識も保持している。彼等は単に見張りの交代を待っているにすぎないのだ。
ところで、ミスター苺がいちいち、NIEのリポートが本当ならば、と注釈をつけている理由はケニース・ティマーマンというイラン関係に詳しいジャーナリストが、これは国務庁の妥協派のでっちあげだと主張しているからだ。ティマーマンの記事はニュースマックスにて掲載された。普通ミスター苺はニュースマックスの記事はあまり信用できないと感じているのだが、ティマーマン自身が中東の大量破壊兵器プログラムについて少なくとも1990年から研究している人であること、彼の著書Poison Gas Connection: Western Suppliers of Unconventional Weapons and Technologies to Iraq and Iranにおいてはイランとイラクの化学兵器についてかなり詳しい研究が発表されている。また、最近ではフランス政府とフセインイラクの癒着やイランの核兵器開発について、またCIAがそれを容認してきたことなどに関していくつかの著書がある。
過去のティマーマンの著書からティマーマンの分析は信用できるとミスター苺は考える。であるからミスター苺は彼がCIA並びその背後の国務省がイランの核兵器開発の危険性について過小評価しているという批判は真剣に注意を払う必要があると言う。

イランの核開発プログラムにおける国家情報評価(NIE)の150ページに渡る非常に問題の多い報告書は、元国務庁の諜報分析者らによって書かれたもので、もっと経験をつんだ諜報部員によって書かれたものではないことをニュースマックスは学んだ。

イランが国際社会からの圧力によって核兵器開発を2003年に閉鎖していたという最も劇的な結論はたったひとつの確認できない情報源を元にしており、これは外国の諜報組織から得た情報でアメリカによって直接尋問はまだ行われていない。
テヘランのニュースマックスの情報元はワシントンはイラン革命防衛隊による「意図的は情報操作」に嵌っている と感じている。これは革命防衛隊の諜報部員がヨーロッパの外交官に扮してアメリカの諜報部へ送り込んだねつ造情報ではないかという。

ティマーマンによれば、新しいNIEは国家情報審議会(NIC)の会長であるトーマス・フィンガー(Thomas Fingar)という典型的なペルシャ親派によって仕切られているらしい。彼等はもと国務庁の中東専門家だったのだが、とっくの昔にアメリカのことより中東優先の姿勢をとるようになっている役人だ。もしフィンガー会長がイランの情報操作に騙されているとしたら、それは彼がもともとイランのムラー達とまともな外交交渉ができるという偏見があるからで、 国務庁の多くの役人がそうであるように、ジョージ・W・ブッシュ こそがイランの核兵器よりも国家にとって危険だという考えているからに他ならない。
フィンガー会長は国務庁の諜報分析のベテランであり、長年に渡る民主党支持でブッシュ政権批判家だという。フィンガー氏こそが民主党と協力してボルトン国連大使を引退に持ち込んだ責任者だ。フィンガー氏は国務庁や国家情報審議会でベネズエラのチャベズやキューバのカストロとも深い関係のあるイランがアメリカに脅威的だという分析結果を出すアナリストを次から次へと首にしてきた歴史がある。
もしそれが本当だとすれば、お世辞にもフィンガー氏は中立な分析者とはいえなくなる。 フィンガー氏の愛弟子のケニース・ブリル(Kenneth Brill, Director of the National Counterproliferation Center, 国家対増殖センターの責任者)、とバン・H・バンダイペン(Vann H. Van Diepen, 大量破壊兵器および増殖対策専門の国家諜報委員)はNIEにイランと交渉する政策を強く押しているという。
さてここでカカシから、ブッシュ政権対国務庁及びCIAの対立についてちょっと説明しておく必要があるだろう。読者の皆様のなかには国務庁もCIAもブッシュ政権の統治下にあり、すべて政権の言いなりになっていると感じておられる方が多いのではないかと思う。
国務庁やCIAの長官は大統領の任命によって決まるが、その下で働く人々は政権をまたがって働いているただの役人である。彼等にはそれぞれの政権に対する忠誠心などというものはない。彼等にとって一番大切なのは自分らの権力を維持していくことなのであって、国家安全や愛国心など二の次という役人意識の人が多い。
だから、イランやイラクが国家にとって驚異的であるとすることで、諜報活動が活発に取り入れられ、自分らが国家政策に大きな影響を与えることができる時は敵の危険度を割高に評価するが、敵が危険すぎて軍隊(防衛庁)が乗り出して来て自分らの権力が弱体すると判断した途端に敵の脅威度を過小評価するという傾向がある。イラク戦争直前まではイラクは核兵器開発間近だとか、化学生物兵器の完成品の備蓄が大量にあると主張していたCIAが、いざ戦争となると、それまでの自分らの報告をそっちのけにして、本来ならば大量破壊兵器、すくなくともその成分や部品であると解釈されてもいいような発見までWMDとは無関係であると判断してブッシュ大統領に恥をかかせ、国家警備に関わる秘密情報を漏えいしたりする有り様だ。
今回のイランの件にしても、イランの核兵器開発が危険だとして、外交交渉やCIAのイラン国内での活躍が活発に行われると判断した時期には、イランの核兵器開発の脅威を誇張し、それが戦争に結びつくかもしれないとなると、とたんにイランは危険ではないと報告する。そうだとすれば、2005年にNIEがイランは危険だと報告した内容と、今回イランは差しせまった危険ではないと判断した報告内容とどちらが正しいといえるのだ?
ティマーマンが参照しているこの ワシントンタイムスの記事においてビル・ガーツ記者は2005年の結論を覆すこととなったNIEのいう「新しい情報』とは元革命護衛隊から今年の2月に亡命したアスガリ将軍(Gen. Alireza Asgari)の証言からではないかという。
アスガリはイラクやレバノンにおけるイラン革命護衛隊の活動に関する詳細な知識を持っているとされる。それというのも自分がその訓練にあたったからだという。またアスガリはイランの核兵器など秘密兵器についても必要物資の調達にあたっていたためよく知っているとされる。しかし、アスガリは核兵器開発の任務には当たったことがなく、開発プログラムについては何も知らないとイランのコネはニュースマックスに語っている。
ガーツ記者のリポートはティマーマンの説を裏付けるものだが、アメリカの諜報部も記者たちの説をいまのところ否定していない。アメリカ諜報部の高官もこの報告がイランからの意図的な情報操作という「可能性はある」と認めている。
イランが核兵器開発を続行しているという情報が間違っていたとしても危険ではないが、イランが開発を続行しているのに停止したと思い込んで政策を変えたらそれは非常に危険だ。この問題は早急に真実を突き止める必要がある。NIEの新しい情報とはどこから得たものなのか?もしこれがアスガリの証言だとしたら、アメリカ側はすでにアスガリを尋問しているのか?していないならなぜなのか?
もしNIEが国家警備のことよりも自分らの政治的権力保持を望むペルシャシンパの集まりで戦争を避けたいばかりに情報をねつ造したとしたらこれは由々しきことだ。
むろんこのニュースに米国民主党は大喜び。「だからいったじゃないの… イランには優しく褒美でつればいいんだって。」:

剣を振り回すのはやめるべきだったのです。最初かはじめるべきじゃなかった。」とバラク・オバマ上院議員。ニューヨーク代表ヒラリー・ロダム・クリントン上院議員はブッシュ大統領は「この機会を利用すべき」としながら、アメリカからの圧力が効果があったとし、ライバルのデルウェアー出身ジョー・バイドン上院議員の発言とは異論をとなえた。

ブッシュは報告書の内容については先週ブリーフィングを受けたばかりだとしているが、この点について民主党は信用していない。
「大統領は知っていたにもかかわらず『大三次世界大戦』なんてことを言ってたのです。」ウエストバージニアのジェイ・ロックフェラー議員。「知っていたのです。知っていたのです。 ブリーフィングを受けていたのですから」
「ブッシュ大統領はアメリカ市民からの信用度を落としました。 民主党委員会のハワード・ディーン会長。「我々は イラクでもだまされ、今度はイランです。 私たちは真実を知る必要があります。外交問題ではタフであるとともに賢くなければなりません。」

しかしカカシにいわせるならばだ、2005年に報告したNIEのイランの核兵器開発は間近だという内容を信用できないと言っていた民主党は、いったい何の根拠があって同じ組織による別の内容は信用できると判断しているのだ? 2005年にそんな大幅な間違いをおかしている諜報機関なら、今回の調査報告にしてもどれほど信用できるかわからないではないか!
それにたとえNIEの調査報告が正しいとしても、それはブッシュ大統領の強行作戦にイランが恐れをなして核開発を一時停止したにすぎない。そうだとすれば、イランが穏健派のオバマ、エドワーズ、ヒラリーの到来を心待ちして核兵器開発の準備を着々と進めているということにある。国防に弱いとされている民主党にとってこの事実が国民に良い印象を与えるとは思えない。
無論そのことを、共和党がきちんとアメリカ市民に説明できるかどうかはまた別問題。なにかとつまづきの多い共和党なので、あまり当てにはならないが、、


1 response to 疑問点多いNIEのイラン核開発停止報告

In the Strawberry Field16 years ago

NIEはイランの情報操作にまんまとのせられたのか?

English version of this entry can be read here. 昨日も疑問点多いNIEのイラン核開発停止報告で書いたように、今回のアメリカの国家情報評価(NIE)による、イランは2003年秋に核兵器開発を停止していたという調査報告には腑に落ちない点が多すぎるのだが、アメリカ主流メディア各紙の反応を読み比べてみよう。 まずはウォールストリートジャーナル(WSJ, 登録有料)の社説 からよんでみると、WSJはカカシが昨日指摘したように、この報告書が2年前の報告書を完全に覆…

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