ヒズボラの女スパイがアメリカの諜報組織、FBIとCIA双方に潜り込んでスパイ行為をして起訴されていた事件で、11月15日、被告のナディア・ナディウム・プロウティ(Nadia Nadim Prouty)は罪を認めた。プロウティは旧姓Al Aouarといい、ヒズボラ関連の逃亡者を義兄に持つ。
問題なのは、どうしてこのような人物がFBIとCIAの双方で雇用されていたのかということなのだが、取り調べが深まるにつれて、アメリカの移民局および諜報局のずさんな身元調査が浮かび上がってくる。
アメリカは移民の国なので、あらゆる職種に外国生まれの移民がついているが、公務員といえども例外ではない。ただ一般の民間企業と違って公務員の場合はアメリカ市民でなければ応募できないことになっている。とはいえ、一旦合法で永住権をとってしまえば、時間はかかるが、特に犯罪などをおかしていなければ市民権は手続きさえ踏めば自動的に取得できる。ただし、秘密情報を手掛ける国防総省や国務省などへの勤務をする場合は、厳しい身元調査を通らなければならないことになっている。
「なっている」とはいうものの、いったいどのように調査しているのか、かなり怪しいということが今回のことでかなり明らかになった。スティーブン・エマーソンによると、ナディアは1990年に移民ビザではない一時滞在ビザで入国し、滞在期間が切れた後も違法滞在したままミシガン州のアメリカ市民と偽造結婚をして後にアメリカ市民権を得たという。
1999年、ナディアは取得したばかりの市民権を使ってFBIに就職。身元調査にも見事に合格して秘密情報を扱えるセキュリティクリアランスを得た。ナディアはその特権を利用してFBIの秘密データベースを使って自分や姉そしてミシガンでレストラン経営をしている姉の夫に関してFBIがどういう情報を持っているかを調べたりしていた。ナディアは2003年にFBIを辞めた後、今度はCIAに就職した。彼女に有罪判決が言い渡されれば、15年の禁固刑および60万ドルの罰金が課せられることになっている。
ところでこのナディアの姉と姉婿のChahineだが、彼等は2006年に脱税で起訴されているが、それ以前に2002年にレバノンのイラン系テロリストグループであるヒズボラで自爆テロリストをした子供の家族に資金援助をする募金運動に積極的に参加しており、ほかにもミシガンを基盤にしているヒズボラ系の市民団体と深いつながりがあるという恐ろしい夫婦である。
ナディアの潜入ぶりはFBIとCIAだけではない。ニューヨークポストによると、なんとナディアはパキスタンのアメリカ大使館で働いていたことのある国務省の役人と結婚していたことが今月18日に明らかになったという。
私は常々、アメリカの国防省や国務省にやたら移民が多いと感じていた。特に中近東や中国系の従業員をみると、このひとたちの身元調査はどのくらいきちんとされているのだろうかと疑問に思えたのである。また民間企業でも秘密情報を扱うところは厳重な身元調査をすることになっているが、この間も防衛関係の民間企業につとめる中国系科学者が中国共産党のスパイをしている兄に秘密情報を流していて捕まったという事件が起きたばかりだ。
移民の多いアメリカで移民を雇うなというのは理不尽な理屈だ。またアメリカはイスラム系テロリストと戦争関係にあるからとか、中国共産党はアメリカには危険な存在であるからとかいうだけで、これらの国出身の移民を雇わないなどということになったら、これは完全に人種差別ということになってしまう。アメリカでは第二次世界大戦中に日系移民を永住権や市民権のある人間まで収容所に強制移動させたという忌わしい過去がある。私自身が日系移民であり大人になってから市民権を得た身であるから、そのような差別は真っ先に反対だ。
しかし、これは国家警備の問題である。差別はいけないが、だからといってそれを気にして十分な身元調査もおこなわずに怪しげな外国人を雇用するとはどんなものだろう? だいたい身元調査というのは本人のみならず、家族や親戚にどういう人間がいるのかを調べるのではないのだろうか?
秘密情報を扱う国家施設では建物のなかは警備が厳重だが、それ以上に内部で働く人間が大丈夫なのかどうか、そちらの警備にもう少し気を使ってほしいという思う事件である。


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