皆さん、六日ぶりにワイキキビーチへ戻り、ホテルも先のネットアクセスの悪いホテルからちょっと割高ですが、通りをひとつ隔てた海側のホテルに越してきました。 ネットは無料ですが駐車料金がいちにち18ドル。痛いなあこれは。
さて、留守中に読者のhatchさんから興味深いご意見をいただいたので、これはひとつエントリーの主題として考えてみたいと思う。以下はhatchさんのコメントより抜粋。

さて、苺さんが力説しているようにこちらの意のままになる独裁政権がうまくいかないのは確かです。長い目で見ればです。しかし、だからといって他国が力によって、他国を民主化できるのですかねえ。

ブッシュJ大統領は、第二次大戦時の日本とドイツを例に挙げるのがお好きですが、日本とドイツは第二次大戦によって初めて民主化したわけではありません。ドイツのことは他国ですから言えませんが、日本の民主化は、明治維新から始まります。そして、その明治維新でさえ、その前の江戸時代270年間の太平時代に培わられた国力の下地がありました。
…力で押さえつけた奴隷は、誇りがありません。誇りがない人々が自らを主人公とする民主主義を作り上げられますか?
苺さん、あなたは矛盾しています。
強権的な独裁政権にはアメリカは何度も失敗してきたとあなたは言われます。その通りです。私は異存がありません。しかし、アメリカがその軍事力によって他国に民主主義を樹立することはできません。力によって押さえつけた民衆はその力に対して媚びるだけで自立できないからです。ではアメリカはどうしたらよいかですか。悪人を演じるしかないでしょうね。もし、どうしてもアメリカの力で他国に民主主義を根付かせたいのならです。アメリカが敵役となり、握っていなければ砂になるアラブ人を結束させて、自分たちの力で国を作ったとアラブの人々に思わせなければなりません。自らが正義とは決していえない戦争を何年も何十年も、何千人何万人もの犠牲を払ってアメリカが続ける覚悟がおありですか、苺さん?

私は以前から日本には民主主義の下地があったと主張してきた。第二次世界大戦時の日本が民主主義だったとは言わないが、明治維新直後から、それまで自分は薩摩藩の人間だとか土佐藩の人間だとかいっていた人たちが、自分は日本人だという自覚を驚くべき速さで持ち始めたことは事実である。私は日本海軍の歴史について最近読んでつくづく感じたのだが、日本の文明開化の迅速さは世界ひろしといえども稀に見る速さであり、日本海軍の発達は奇跡に近い。つまり日本は特別例だということをブッシュ大統領並びに西洋諸国は理解すべきだろう。アメリカが日本を占領したとき、日本はすでに20世紀の社会だった。それに比べてイラクはまだまだ7世紀の部族社会なのである。そんなイラクを日本と比べて日本で出来たのだからイラクでも出来るなどという考えは甘すぎる。
イラクのような部族主義の文明的に遅れに遅れをとった国を突然21世紀並の民主国家にするなどという大それた野心を持ったのは過去の歴史を振り返ってもジョージ・W・ブッシュ大統領が始めてである。つまりこの大仕事は誰もやったことがないのだ。こんな前例のないことをやろうというのだから試行錯誤なのは当たり前。
とはいうものの、以前にここでもよくコメントを下さったアセアンさんもおっしゃっていたが、アメリカのいきあたりばったりの政策に付き合わされるイラク人は迷惑至極だという考えもまったくその通りだろう。
だが、これはアメリカの試練であると同時にイラク人にとっても試練なのだ。なぜならばイラクがこのまま7世紀の部族社会として独立国として生存することは不可能だからである。それはアメリカが許さないだけでなく、イランをはじめ近隣諸国やアルカエダのようなテロリスト達が許さないだろう。つまり、これはアメリカが武力で強制的にイラクを民主化するとかどうかという問題ではなく、イラクには民主化する以外に生き延びる道はないということなのだ。
hatchさんは、アメリカが悪役となることでイラク人の心がひとつにまとまるとお思いのようだが、2003年から繰り広げられているイラクでの混乱を考えれば、イラク人の心はアメリカへの憎しみをもってしてもひとつにはまとまらないのだということがお分かりいただけると思う。アルカエダの悪玉であるオサマ・ビンラデンですら、どうしてイラク人は仲たがいをやめてアメリカ打倒のため一致団結して戦おうとしないのかと嘆くほどなのだから。
しかしいみじくもhatchさんがおっしゃっているように、「力で押さえつけた奴隷は、誇りがありません。」と同様に押し付けている側への忠誠心もない。イラクの部族たちがこぞってアルカエダに反旗を翻したのも、アフガニスタンで同民族のパシュトン族が次々にタリバンを見捨てているのも、すべてこれらの勢力が暴力で地元民をコントロールしようとしてるからに他ならない。とすれば明らかにアメリカが悪者となってイラク人を弾圧するのは最悪のやり方である。
アメリカがイラク人に民主主義しかイラクには未来がないと理解してもらうためには、先ずイラク人が平和な暮らしが出来るようになることを保証することが大切だ。アメリカがイラク人の守護神となってイラク人を内外からの敵から守るという保証をすることだ。無論イラクが自立できるように今アメリカ軍がイラク軍を教育しているように、イラクの治安維持の役割を地元軍や地方政治にどんどん代わってやってもらうようにすることも大事である。タリバンやアルカエダのように地元民に恩を着せておいて、部族の義理人情やしがらみを悪用して地元民に無理難題を押し付けてくるのと違って、アメリカ軍やイラク軍はイラク人のために命がけの戦いをするにもかかわらずに、イラク人に求めることといったら法にもとづいた公平な態度だけだということを地元市民に理解してもらうことが大切だ。
私はイラクが日本のような中央政府を設立してイラクの憲法にのっとった民主主義を設立することが簡単に出来るとは考えていない。だが、地元レベルで隣近所が部族の違いを乗り越えてなんとか共存することができるようになれば、それがだんだんと上部の政治にも反映していくのではないかと考える。イラク人はそれがクルドであろうとシーアであろうとスンニであろうと、みんながみんな同じ法律の下で裁かれる公平な社会だとイラク人自身が納得できるような社会ができてくれればそれでいいのだ。
アメリカはイラクに武力で民主主義を押し付けようとしているのではない。武力を使って民主主義を妨げるイラク市民の敵を退治しイラクの文明開化の手助けをしているのである。イラクは大急ぎで7世紀の幼児時代から21世紀の大人へと成長しなければならないからだ。


6 responses to イラクの民主化にアメリカが出来ることとは?

hatch16 years ago

私のコメントで新たなエントリーとは光栄です。
カカシさんのエントリーの主張に異論はありません。大変長くて苦しい道です。
やるしかない道ですが、アメリカの世論が持つか私は懸念します。イラク開戦の大義は「イラクが大量破壊兵器を持つから先制攻撃をする」というものでした。そして、政府はすでに9.11へのイラクの関与を公式には否定していましたが、9.11への反撃という雰囲気もアメリカの世論に残っていたように思われます。
今、両方の大義と雰囲気がなくなり、新たに「イラクの民主化」という大義に基づいてイラクの占領をアメリカを続けていこうとしています。
戦争は大義がなければできませんが、大義のためにしてはならないと私は思います。戦争は利害をはっきりして行うものだと私は思います。汚いと思われる方もあるでしょう。しかし、国民の生命と金を使う戦争には損得勘定ができなければ、指導者の役目は果たせないのです。
まあ、イラクは仕方がありません。もう始めてしまったのですから。
くれぐれも、イランには手を出さないように。満州国設立後、満州国安定には、北支の安定が必要と戦線を拡大していった、日本の二の舞をアメリカがたどらないことを望みます。

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scarecrowstrawberryfield16 years ago

hatchさん
イラク戦争の大義が大量破壊兵器と911の復讐というものだというのは、もともと反戦のリベラルや主流メディアが言い出したことで、ブッシュ大統領は最初からイラクの民主主義を目的とすると主張していました。そしてこれは長く苦しい戦いになるだろうとも警告していました。
以前にも書きましたが、市民が戦争を支持するしないを決めるのは大義名分でもなければ、こちらの犠牲者数でもなければ、こちらの支出する費用高でもありません。市民が戦争を支持するのはきちんとした目的のために戦争が効果を上げているという印象を持つか持たないかにかかっているのです。
今戦争には確かに勝っていると国民が納得できれば多少の犠牲は国民はがまんできます。しかし何の効果もあげずにちんたらちんたらやっていたのでは、いくら大統領が、あと少しだ、頑張れとやってみても無駄です。
イランとの戦争は決してやってはいけないという姿勢ではイランとは対応できません。あくまでイランがいうことを聞かなければ最終的な切り札は軍事行使だという姿勢だけはとっておかなければ、イランはアメリカのいうことなんかききませんよ。実際に戦争をするかしないかは、もしブッシュ大統領時代に戦争がおきなければ、次の大統領は民主か共和かにかかってくるでしょう。
カカシ

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hatch16 years ago

まず、最初に「ブッシュ大統領は最初からイラクの民主主義を目的とすると主張していました」というカカシさんの根拠を提示してください。それがない以上、カカシさんの主張は認める事はできません。
次はカカシさんにとって、他国の統治形態は「親米」が先ですか、それとも「民主主義」が先ですか?
私の主張は少なくとも中東に限ればイスラエルを除き、「民主主義」を優先すれば「親米」は成立しがたいというものです。
次に「イラクは大急ぎで7世紀の幼児時代から21世紀の大人へと成長しなければならないからだ」は無理です。アメリカ人らしい歴史の段階を無視した無理難題です。
私は、確かに第二次大戦時の日本と今のイラクは歴史が違うと言いました。しかし、だからといって日本とイラクに優劣があるとは言ったつもりはありません。
日本はイラクよりもヨーロッパの歴史に近いと言いたいだけです。
封建主義という言葉があります。封建主義は現在では否定的な意味で使われます。曰く、専制的、曰く因習的な身分制度・・・・。
その通りです。しかし、忘れてはいけないことがあります。「封建主義」はある大きさの地域が様々な国に分かれて競い合った時代だと言うことです。考えてみてください、競争主義がもたらす文明の発達を。
そこにはある一つの権力が支配する絶対的な世界ではありません。より合理的な政策がとられた国が主導権を持ち、なおかつ一国が完全な支配権を持つわけではない地域を称して封建主義と定義されるのです。
つまり、ある意味、健全な野党を持ちうる地域なのです。勿論、民主主義ではなく、力によるものですがね。
ここら辺の議論はジャレト・ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」の下巻のエピローグ「科学としての人類史」の中の、「なぜ中国ではなくヨーロッパだったのか」を参照してください。

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hatch16 years ago

すいません、私はついつい物事を省略しすぎるところがあります。
私の定義によればヨーロッパは西ローマ帝国が滅んだ後に中央集権体制から封建主義になりましたし、日本では鎌倉時代以後、中央集権体制から封建主義になりました。中国は春秋戦国時代までは封建主義でしたが、秦以降は中央集権体制になったと考えています。
ね、日本はヨーロッパに近いでしょう?勿論、日本の方が狭い範囲の話ですけどね。歴史は必ずしも順番通りに進むとは限らないのです。

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scarecrowstrawberryfield16 years ago

hatchさん、
下記はホワイトハウスの公式サイトに掲載されている、ブッシュ大統領によるイラク戦争勝利条件の項目(National Strategy for Victory in Iraq)です。これは2003年2月26日に発表されたものです。
このなかにこういうイラクの長期勝利目的としてこういう項目があります。
The Political Track involves working to forge a broadly supported national compact for democratic governance by helping the Iraqi government.
イラクの政治方針を民主主義にすべくアメリカが援助をするという意味のことが書かれています。
またこの書類のなかには、対テロ戦争は時間がかかるとも書かれています。このほかにも、ブッシュ大統領は当時、中東の民主化こそが世界平和の第一歩となるという内容の演説をあちこちでしていますから、ハッチさんも興味がおありなら検索してみてください。

次に「イラクは大急ぎで7世紀の幼児時代から21世紀の大人へと成長しなければならないからだ」は無理です。アメリカ人らしい歴史の段階を無視した無理難題です。

無理だといっている余裕はないのです。イラクがテロリズムや近隣諸国からの脅威に立ち向かうためにはそれ以外に道はありません。
ところでイラクと日本について優劣をつけたのはハッチさんではなくて私です。私は日本民族の文化はイラクのそれよりも優れていると考えます。だから日本で出来たからイラクでも出来るという考えは安易だと考えるのです。
こういっちゃなんですが、イスラム教はまだまだ非常に幼稚な段階にあります。彼らが生き残るためにはイラクだけでなく、イスラム教徒全体が大人にならなければならないのです。
カカシ

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soltycafe16 years ago

パウエル報告を根拠とした査察不十分を理由に、武力行使を辞さない姿勢を示した上で、新決議案を提出し、国連決議を待たずに3月17日の最後通告。
これは明確に大量破壊兵器の疑惑が、開戦理由の一つであったことを示しては居ますね。
しかし大量破壊兵器の存在が、開戦理由になり得なかったことは、2005年の終わりに大統領自らが認め、開戦理由としては撤回してますね。
情報に誤りがあったとして。
もちろんイラクの民主化も、イラク問題の根本的解決のための一つの大きな柱であったことは、当初と変わっていないようですが。

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