みなさんは2005年の9月にルイジアナ、アラバマ、ミシシッピを襲ったハリケーンカトリーナを覚えておられるだろうか?私は当時も今と同じようにハワイに長期出張で来ていたが、当時のメディアの報道のお粗末さにはあきれ返ってものが言えなかった。アメリカメディアが自国の連邦憲法を理解せずに、ルイジアナの被害が何もかも連邦政府、つまりブッシュ大統領の責任だと書き立てていたからだ。しかも現地に何人も特派員をおくっておきながら、おきてもいない殺人事件や暴動や略奪の噂をあたかも真実であるかのように報道し、数週間後にはそれがすべてデマであったことがばれても主流メディアからは何の謝罪もなかった。
下記は私が当時日本の友人たちに書いた手紙である。

こんにちは。ここ連日みなさんもルイジアナ、ミシシッピ、アラバマを襲ったハリケーンの被害と救済が「遅れている」という話を聞いていると思いますが、もしアメリカの報道がそのまま日本で報道されているとしたら、多分かなりの誤解があると思うので私から説明しておきたいことがあります。

先ず、多分みなさんはブッシュ大統領の対応が遅くて州兵の出動に4日もかかったという話を聞いていると思います。でも実際はブッシュ大統領の対応は遅いどころか非常に迅速だったのです。ハリケーンがくることは先週の金曜日の時点ですでに分かっており、ハリケーンのくる2日前にブッシュ大統領は被災地となりうる三州を非常地帯と命名しました。この時点ですでに連邦の救済組織FEMAは州知事の要請があり次第出動できる待機状態にあったのです。さらにブッシュ大統領は各州の知事に被災予測地域の全面的避難命令を出すように要請しました。多くの市民がハリケーンがくる前に避難できたのはこの命令のせいです。

さて、ここでみなさんにご理解頂きたいことは、アメリカは連邦制であり日本のような中央集権ではないため、州兵の出動や避難救援の手配は大統領の管轄ではなく州知事の管轄なのだということです。地元知事の要請があれば出動できる状態を用意しておくのが大統領の役割なのであり、細い手配は地元の州知事が仕切らなければならないのです。

みなさんはハリケーン被害にあったのが三州あるにも関わらず、ルイジアナだけで問題が起きていることに気が付かれましたか? この理由はアラバマとミシシッピの知事がいち早く略奪などの問題を州兵を動員することで阻止したためです。特に一番問題になっているニューオーリンズの市長の役立たずぶりには腹がたつばかりです。

私たちは、テレビのニュースで、被災時にニューオーリンズでは略奪、人殺し、強姦、といった犯罪が激増し、洪水で逃げ遅れて亡くなった市民は一万を超すというふうにききましたよね。特に避難場所の球技場やコンベンションセンターでは殺人の犠牲になった遺体が何百もころがっていたという話がまことしやかに報道されました。

ところがなんと、球技場で警備と救援にあたっていた州兵たちの話によると、そのようなことは全くなかったというのです。球技場には2万人以上の避難民があつまりましたが、ほとんどのひとが非常に行儀よく協力して助け合っていたというのです。球技場で出た死者は200人どころかたったの6人。しかもそのうち一人は自殺、もう一人は麻薬中毒、あとの4人は病死です。またコンベンションセンターに多くの遺体が捨て去られていたというのもただの噂で、コンベンションセンターで見つかった遺体は4体。そのうちで殺人の犠牲者ではないかと思われる遺体は一体だけ。

ハリケーン直後にニューオーリンズでおきた殺人事件は4件。もともと治安の悪い都市で、年平均の殺人事件が何百というところですから、これならいつもより少ないくらいです。また洪水による死者の数もせいぜい1000人ということで、確かに大被害であったことにかわりはありませんが、何万という単位ではありませんでした。天災でもないのに、たかが30度くらいの暑さがつづいたくらいで15000人の死者を出したフランスなどに比べれば、これだけのひどい天災にしては非常に少ない数だと思います。

アメリカのマスコミが非常に無責任な報道をしたため、世界中にアメリカが野蛮な国であるかのような印象をあたえてしまったことが非常に腹立たしく思われます。ニューオーリンズの被災者を二重に被害者にしてしまったともいえます。私は地方紙でニューオーリンズのひとたちが職業用の漁船をつかって町中のひとを救援に回った話とか、高台にあって被害のなかった協会のひとたちが、被災者たちを迎え入れた話とかを読みました。しかしアメリカの主流メディアはテレビにしろ新聞にしろ悪い話ばかりをとりあげ、地元の人たちが助け合った話や、前代未聞の早さで救援にかけつけた州兵軍や赤十字の話は全く無視しています。どうして自分の国の恥だけを世間にさらして良いことを報道しないのか、なんでアメリカの報道陣はこうも反米なのか、私には理解に苦しみます。

アメリカ人のほとんどのひとは心優しく寛大です。今回も被災者への基金が一般市民から何億ドルと集まっています。謝った報道のために、日本や世界中のみなさんにアメリカの姿を誤解されてしまったことが残念でなりません。

主流メディアがどう歪曲報道をしようが、地元以外の人々がどれだけブッシュ政権を責め立てようが、地元ルイジアナ州民はカトリーナの被害が誰の責任だったか充分に心得ていたものと見える。ニューヨークタイムスの記事によればこの間の日曜日に行われた知事選挙にブロンコ現知事が現職として再選に立候補しなかったのも、カトリーナ災害やその後の復興の遅れの責任がブロンコ知事にあると考える州民が多く、ブロンコ知事への支持率があまりにも低かったからだとある。

ハリケーン中やその直後には、州の被災者はブロンコ知事が何もかも連邦政府が悪いと言ってたことを信じたかもしれない。だが、時がたつにつれて、同じように被災したアラバマやミシシッピの復興がどんどんはかどっているのに対し、ルイジアナでは復興が大幅に遅れていることに加え、連邦政府からの支援金で私腹を肥やす知事の腐敗が明るみににでたりして、州民はだんだんとカトリーナ当時の責任もブロンコ知事にあると考えるようになったようだ。

普通ルイジアナ州の知事選では共和民主あわせて何人もの候補者が立候補するが、票が割れて誰一人として過半数の票を得ることができなければ、上位二人が決勝戦をおこなうことになっている。今回も候補者は8人だったため、いつものパターンになると思いきや、なんと53%というルイジアナ州では一回めの選挙では前代未聞の投票率を得て共和党の若手ホープ、ボビー・ジンダル氏が当選した。

実はジンダル氏が知事選に出たのはこれが初めてではない。4年前にも現知事のキャサリーン・ブロンコ(民主党)のライバルとして共和党から立候補している。当時、支持率が高く当選が予測されていたジンダル氏は土壇場で負けた。それについて、ブロンコによる大型選挙違反があったからだという疑惑があがったのだが、ジンダル氏は抗議もせず潔く負けを認め、その足で下院議員として立候補し当選していた。下院の任期が切れたジンダル氏に、上院議員に立候補してはどうかという推薦があちこちから上がったが、ジンダル氏はもう一度知事選に賭ける意志を崩さなかった。

今回ジンダルが圧倒的勝利を得て当選したのも、州民の多くが過去4年のブロンコ知事の行動から、先の選挙ではブロンコ候補による違反があったのだと確信したことにも原因があるという。
リンカーン大統領が言った有名なことばに、「少数の人を常にだますことはできる。多数の人を時々騙すこともできる。だがすべての人を常にだますことは出来ない」。ジンダル氏にルイジアナの腐敗した政治を掃除してもらいたいものだ。


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