私がこのブログを書き始めたころにハディーサでおきた海兵隊による民間人殺害が戦犯だったかどうかという事件について、すでに容疑者の何人もが続けて不起訴になったことはここでも何度か書いてきたとおりである。審査官の話ではハディーサでの海兵隊の行為は正当な軍事行為であり、犯罪は起きていないという結論が出ているくらいだ。
しかし裁判沙汰になって不起訴だの無罪だのという結果が出てみても、容疑者となっていた兵士らは一年半近くも犯罪容疑者として正規の軍人としての任務もはたせず、弁護にかかる費用のみならず、本人や家族らの心労はどのようなものか計り知れない。この無実の罪を着せられた兵士らだけでなく、このような裁判はアメリカ軍全体の行動に非常な悪影響を与えるものだ。
生きるか死ぬかのとっさの判断が必要なときに、自分の戦闘行為がいちいち刑事犯罪として罪に問われるかもしれないなどと考えて、どうやって軍人が任務を全うできるというのだ?これは捕虜を拷問したとか、罪のない婦女子を暴行したとかいう誰が見ても明らかに犯罪だとわかるような行為ではないのである。弾が飛んでくるほうへ反撃したとか、死んだふりをしているテロリストが動いたので撃ち殺したとか、戦場ではごく普通におきる状況なのである。
フォックスニュースでハント大佐(退役)がこのことについてかんかんに怒っているので今日はそれを紹介しよう。

我が将軍たちは兵士を裏切っている、まただぜ!

おっと失礼、しかし読者諸君の注意を引く必要があったのだ。アフガニスタンにしろイラクにしろ、米陸軍は(リベラルメディアやビルクリントンや議会ではない)そうアメリカ合衆国の軍隊がだ、任務を遂行している兵士たちを起訴しているのだ。我輩は叫んだり、汚い言葉でののしってみたり、ユーモアをつかってみたりして抗議してきたが梨の礫だ。読者諸君は私を信じないか、気に留めてないかのどちらかなのだろう。
…特別部隊の有能な陸軍兵が彼らのチームと共にアフガニスタンでも10の指にはいるお尋ねものの居所をつきとめた。特別部隊の兵士たちは悪いやつらを捕らえて殺せという忌み嫌われている戦闘規則に従って爆弾つくりの専門家テロリストとそのリーダーを追い詰めていた。隊員たちは殺し屋たちを隠れ家まで付けていき、さまざまなトリックを使って悪者たちを穴から外へおびき出し、頭に銃弾を打ち込んでやった。
完璧な任務遂行だった。「ようやらはりましたな」とハイファイブして「休暇でももろうて、次の任務に備えておくれやす」とねぎらいの言葉もあらばこそ、陸軍がどうやって特別部隊の兵士らに感謝の意を表したかといえば、なんと彼らを戦犯の容疑で取調べをはじめ、弁護費に何千ドルという金を使わせたのである。
テロリストたちが最初に殺されたとき、陸軍は勇者中の勇者である彼らを二度も捜査した。しかしどちらの捜査も必要なかった。捜査の結果彼らは何も悪いことはしていない無実であることが判明したのだ。今やわれわれは何をするにもおっかなびっくり、政治的に正しくあることに神経質になりすぎて戦闘をまるで警察の射撃のように扱っている。この偉大なる国のほとんどの都市では警察官は銃を撃つたびに、かならず上から取り調べを受けることになっている。警察官は上司を信頼することができずに 常におびえながら仕事をする状況にいい加減嫌気がさしている。しかし少なくとも彼らがいるのは一応平和な都市だ、戦場ではない。
我々の将軍たちは陸軍にしろ海兵隊にしろ、部下たちのことより自分らのキャリアと名声だけが先行している。海兵隊など隊員たちがテロリストを殺したこといってはやたらに起訴のしすぎだ。陸軍にいたっては、まったく陸軍では(味方による誤射によって死亡した)パット・ティルマンやアル・グレーブの醜態といった責任問題による軍法会議の件がある。
イラクでも同じようなものだ。陸軍は「ナム」でされた「おとり」を再発見した。これは弾薬だの爆発物の材料の一部だのを放置しておいて、それを盗みにきた敵を撃ち殺すという方法だ。我々は爆発性の銃弾をアルカエダ連中用に置いておいた。これを使えば銃のなかで爆発するしかけになっているのだ。ベトナム当時にも効果的だったように現在でも効果的なやりかただ。しかしなんと陸軍は任務を遂行しているだけの狙撃兵を裁判にかけているのである。 戦闘規則はきちんと従われたにもかかわらず、わが将軍どもはここでも我らが兵士らよりも自分らのキャリアを先行させようとしているのだからあきれる。このような不信感は軍隊の根本を揺るがすものだ。このような行為は兵士らやその部下たちをためらわせる。こんな戦い方をしていて勝利は望めない。
我々はこういう将軍連中こそ、まずラミーの尻馬に乗ったということ、そして同じように重大なことだが、自分らの兵士らを信用していないという罪で、裁判にかけるべきだ。少なくとも既述の事件のように兵士を起訴して彼らの無実がはっきりした場合には起訴した将軍どもが豚箱送りになるべきだ。残念なことに、こうした裁判のあと、兵士らのキャリアのみならず人生は破壊されてしまう。弁護費にかかった莫大な借金の返済で首がまわらなくなる兵士らをよそに、起訴した将軍どもは昇格される。
彼らが指揮をとるはずの兵士たちはこんな将軍の面汚したちにはもったいない。我々は国として第二次世界大戦当初に何百人という高位将校らを職務不行き届きで首にしたマーシャルみたいなやつが必要だ。とっくにやめさえられるべき高位将軍が多くいる今こそ、マーシャルが必要なのだ。

ハディーサ事件当時、海兵隊のひとりから、「今後は弁護士つきで戦闘に赴かなければならないな。」と冗談交じりに言われたことがある。まったく本当だ。アメリカ人から訓練を受けているイラク兵たちは、よくアメリカ兵がパトロール中に怪しげな一般市民を取り調べるときに非常に神経質に気を使っているのをみてあきれているという話を何度もきいたことがある。特に女性の容疑者への取調べはわざわざ女性兵士を呼び出すという気の使いようで、女性蔑視の傾向があるイラクでは考えられないようだ。
米軍は地元市民の気分を害さないようにとか、人権を大切にしたいとかいう気持ちが先走って、実際にそれが戦地で適切な行為であるのかという現実的な解決策を考えていない。
アメリカ軍隊をよく知らない人々は、アメリカ軍は政治的に正しい行為などということに気を使うとは思っていない。それどころか、軍人はぶっきらぼうで無作法で人権など無視しまくってイラクでも無差別殺人をしているという印象を持っている人が多いことだろう。だが実際には軍隊ほど人権問題だの差別意識だの女性蔑視だので攻撃されることに被害妄想なほど神経質になっている組織も少ない。
たとえば、私は民間人の女性として軍人と接することが多いのだが、男性兵士が私を軍事施設のどこかへ案内した場合、もしもその部屋に他に女性がいなかったらドアは必ず開けっ放しにされる。一度あまりにも風がひどく開け放されたドアがばたばたとうるさいので、「ドアを閉めてくれ」と頼んだが、若い男性の兵士は自分でドアを抑えながら、絶対に閉めようとはしなかった。これは軍人でない女性と密室で二人きりになって何か悪さをしたという疑いをかけられないための用心なのである。また基地内で自分の机の上にビキニ姿の女性の写真がついた卓上カレンダーを置いていた民間人従業員は上司からしかられたという話を聞いたことがる。これは小さなカレンダーで、その机のまん前で注意深く覗き込まなければ気がつかないほどのものだったのにもかかわらず、回りの女性に不快感を与えるといって取り除くようにといわれたというのだ。だが彼の周りい女性の従業員などいなかった。
またフィリピンの密林で勤務するむさくるしい野郎ばかりの隊の連中が、ハードコアのポルノビデオをみていたら、上司からポルノは今後一切禁止と言い渡されたという話もきいたことがある。隊員たちは地元娼婦との交渉も厳禁されており、そのうえにポルノ映画をみてもいけないというのだから、いったい上部の人間は兵士らを何だと思っているのだと聞きたくなる。命がけの仕事をしている隊員たちがせめて気分転換にポルノ映画をみたからといって何だというのだ。この隊に女性がいるわけじゃなし。
政治的に正しくあろうという態度が講じて、軍隊が戦争をしにくい場所になっているとしたらこれは非常に問題だ。ポルノがみられるどうのこうのの問題ではない。生きるか死ぬかの問題なのである。これは兵士らだけの問題ではない。兵士らが裁判を恐れて必要な戦闘を避ければ、兵士らの命のみならず、いずれはアメリカ国民全体の命にかかわることになるのである。


6 responses to 弁護士つきで戦争やるの?戦闘をいちいち戦犯扱いする米軍将軍たち

soltycafe17 years ago

イラク戦争のような、反対者が少なくない戦争だと、
世論に対する対策がどうしても厳しくなりがちですね。
ハディーサの件についても、司法の手で兵士の過失が無かったと証明されなければ、逆に軍にたいする世論の不信感や対立感情が、煽られたことでしょう。
戦場で敵に勝っていても国内の世論に負けてしまえば、民主主義国家は戦争に勝てないのは、テト攻勢なんかが良い例だと思います。
本当に戦争に強い民主主義国家を作るには、まず国民の意識から、戦争向きにする必要があるかも知れません。

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Emmanuel Chanel17 years ago

昔,山本七平氏の本を読んで日本軍の愚かさ(って,こっちは日本軍兵士なんか問題にならない位の軍事音痴なのだが)に呆れ果てていましたけど,米軍の愚行も酷いものですねえ.

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goda17 years ago

 山本七平氏の名前を見かけるのは実に久しぶり、
なにか忘れ去った懐かしくも忌まわしき亡霊を観る思いです(笑)
 氏の名前をお出しになるのは如何かと・・・老婆心ながら。
 人間を殺さねば自分が生き残れない戦場に、平和な本国の倫理を求めるなど滑稽の極みと哂うしか無い。ポルノ映画も厳禁するとは、兵士に「本国の人間にも耐えられぬ幻想的倫理」と「人を殺すという義務」を同時に要求する、殆ど非人間的な「卑劣」な行為では無いのかな。
 気の毒としか言いようが無い。
 戦場の規律を保つ一つの方法は、軍隊を出来るだけ自給自足可能な独立した組織とし、現地住民との接触を必要最小限に限定し無用なトラブルを避ける事です。圧倒的な国力を持つ米国にはこれが可能だが、嘗ての日本軍には物量からして不可能でした。だが、幸い[?]にも、管理売春は当時の日本は合法であり、兵士のストレス解消手段として民間の営業に便箋を図りました。無論、軍は不法行為に留意するよう命令を出しており、発覚した幾つかの不法行為では現に罰せられている。
 米国はベトナム戦争においてサイゴンの歓楽街をMPに巡回させ一万人とも言われる売春婦の管理に関与しても居た。当たり前の事です。兵士が病気になったら戦争どころじゃ無いからね。今の米兵は哀れです。
 と、何やらあれこれ考えると切りが無いのだが、又しても「女の戦争」を思い出してしまいました。
 この戦術は、もはやビン・ラディンには効かないだろうが、前線の若き兵士が一人残らず女・女房の下へ遁走・戦線離脱してしまえば、戦争など出来っこない。後は、枯れ切った年寄り同士で勝手に喧嘩でもして貰えば、世界は平和に成ろうというものです。
 サビニの女の前例も有る。立ち上がれ女達よ。
但し、「クリントン[女史]だけは止めておいた」方が良いかも知れぬ。

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In the Strawberry Field16 years ago

戦争は兵隊に任せろ! アメリカ兵に手かせ足かせの戦闘規制

今朝、ハワイの地方新聞Honolulu Advertiserを読んでいたら、ハワイ出身の陸軍兵が犯したとされるイラク市民殺人事件について、この兵士が意図的にイラク人を殺したと言う証拠はないとして、裁判をしない推薦がされたという記事が載っていた。この事件は逮捕して武装解除されたイラク市民を上官の命令で部下が銃殺したという容疑だったが、部下は殺すのが嫌でわざとはずして撃ったと証言していた。すでに捕らえて直接危険でない人間を殺すのは戦闘規制に反する行為ではあるが、果たしてこれが犯罪といえるのかどうかその時…

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In the Strawberry Field16 years ago

最初の無罪! ハディーサ虐殺事件隠蔽はなかった!

2005年のイラクはハディーサで、米海兵隊員が24人のイラク市民を虐殺したとされた事件で、その証拠を隠蔽した罪に問われていた海兵隊中尉が、今回この事件では初めての軍法会議ですべての件で無罪となった。 無罪になったのはアンドリュー・グレイソン中尉、27歳。グレイソン中尉は事件について虚偽の報告書を提出した罪、また捜査を妨害した罪などに問われていたが、そのすべての罪が無罪であるという判決が火曜日に出た。 この事件に関連して8人の米兵が殺人罪や隠蔽罪に問われていたが、すでに5人の罪が棄却されている。残って…

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In the Strawberry Field16 years ago

ハディーサ裁判、7人目の罪も棄却

2005年11月、イラクのハディーサで24人の一般市民を海兵隊が虐殺したとして8人が殺人や証拠隠蔽の罪に問われている所謂(いわゆる)ハディーサ裁判だが、この間の無罪判決に続いて今回罪に問われていた隊員としては一番位の高いジェフェリー・チェサーニ大佐の罪状も棄却された。これで罪に問われていた8人中7人の罪が棄却されるか無罪になるかしたことになる。 残るは過失致死に問われているフランク・ウーテリック隊長の裁判を残すのみとなった。 私はこのことについてはもう何度も書いてきたし、これ以上言うことはないのだが…

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