10月下旬からロードショーのスターダストを一足先に見てきた。(日本語版オフィシャルサイトはこちら。)
これはまるでおとぎ話そのもの。魔女にさらわれて鳥に変身させられたお姫さま。そのお姫さまに恋した村の若者。飛行船に乗った盗賊。魔法の国の王位を狙って殺しあう王子たち。永遠の若さを求めて流れ星の命を狙う魔女の姉妹、、、しかもシュレックのようにおとぎ話をおちょくっているのではなく、素直に誠実におとぎ話を語る映画である。
物語は聞き覚えのある、指輪物語ガンダルフを演じたイアン・マケランの語りではじまり、舞台は19世紀のイギリスにある田舎。この村の端には万里の長城みたいな長〜い壁が建っている。イギリスへ行くとヘイドリアンの壁というローマ時代の壁の遺跡があるが、それが周りの住民によってレンガを盗まれる前ならこういう感じだったのかなという古い壁だ。だがこの村の壁は普通のイギリス社会と魔法の国とを隔てる壁である。
ある日、村の若者ダンストン(ベン・バーンズ、Ben Barnes)は好奇心にかられて番兵(デイビッド・ケリー、David Kelly)の隙をついて壁の隙間から向こう側の魔法の国へ渡る。そこには世にも不思議な品物ばかりが売られている市場があるのだが、ダンストンはそこで美しい花売り娘のウナ(ケイト・モガワン、Kate Magowan)にであう。娘は自分は実はお姫さまで魔女にさらわれて奴隷となっているのだと言う。ウナの足首につながっている紐はダンストンのナイフで切ってもすぐに元に戻ってしまう魔法の紐。「君を解放できないなら、僕に何かできることはないのか?」そう聞くダンストンににっこり笑って手招きをするウナ。
9か月後、一日の冒険をすっかり後にして村で元の生活をしていたダンストンの元に、かごにはいった赤ん坊が届けられる。壁のたもとにダンストン宛の手紙と共に置かれていたというのである。ここでダンストンが何の抵抗もせずに子供を受け入れるのはおかしいとか、独身男性がどうやって赤ん坊を育てたのだろうかとか、深く考えないのがおとぎ話のいいところ。
そして十何年という月日がたち、この赤ん坊トリスタン(チャーリー・コックス)Charlie Coxは父親のダンストン(ナタニエル・パーカー、Nathaniel Parker)が壁を超えた時と同じくらいの年となる。実は映画の本筋はここから始まる。
正直な話、私はここでがっかりした。それというのもダンストンの若い頃を演じたベン・バーンズはとってもハンサムで魅力的だったので、てっきり彼が主役だと思っていたのに、最初の数分で出番が終わってしまい、それにひきかえ息子役のトリスタンを演じるコックスはパッとしないおよそ冒険映画の主役には向かない顔つきに見えたからだ。
ところで余談だが、バーンズのプロフィールを読んでいたら、2008年公開予定のナルニア物語の続編でバーンズは主役のキャスピアン王子を演じるらしい。これは非常に楽しみ。
さて、トリスタンは村の美少女ビクトリア(スィエナ・ミラー、Sienna Miller)に夢中。結婚を申し込むが村の金持ちの息子ハンフリー(ヘンリー・カビル、Henry Cavill)に興味のあるビクトリアには相手にしてもらえない。そこでトリスタンはビクトリアの誕生日の一週間後までに壁の向こう側に落ちた流れ星を拾ってかえってくると約束して、魔法の国へと出かける。
しかしトリスタンが魔法の国でみつけた流れ星とは、なんと天から落ちてきた美しい娘Yvaine(クレア・デインズ、Claire Danes)だったのである!
この流れ星を巡って魔法の国でどのような冒険が待っているのかという話は映画を見てもらうとして、この魔法の国で出会う魔女ラミア(ミッシェル・ファイファー、Michelle Pfeiffer)役のファイファーはすばらしい。彼女は40代後半のはずだが、なんとまあ美しい。競演の若い女優たちと比べても飛び抜けて美人だ。もっとも彼女の魅力はその美しさもあるが、彼女の存在感にあるといった方がいいだろう。
この映画は全体的にコメディタッチで進むが、テーマはトリスタンがうだつのあがらない一介の少年から、多々の冒険を経て大人になっていくというものだ。トリスタンが全くぱっとしないと第一印象を受けるのは意図的なもので、彼は映画が進むにつれて魅力的な男性へと変ぼうしていく。しかしそれにしては一週間という時間は短すぎて無理があると感じた。全く同じ筋で一年後の誕生日までに流れ星を持ってかえってくるとした方がおとぎ話としては自然だと思う。

Stardust

スターダストのポスター


途中で出会う海賊のシェークスピア船長(ロバート・デニーロ、Robert De Niro)を演じるデニーロだが、ファイファーと違ってデニーロはちょっとミスキャストではないかと感じた。これは演出の問題もあるが、デニーロ自身がどうもこの役柄にしっくりこないぎこちない演技なのだ。これだけの名優でも苦手な役柄というのはあるものなのだろう。
最近のハリウッド映画では、こういうファンタジーの世界で、しかもコメディだと、時代感覚をやたらに現代風にして、おとぎ話をばかにした態度をとることが多い。19世紀の世界なのに21世紀風の言葉使いをしたり、現代風の価値観がはいったりすると、完全に夢が破れてしまう。しかしこの映画に限ってそういうことは全く起きない。
また、私は魔女たちの魔法の力に限界があるという点がとても気にいった。よくSFとかファンタジーの世界では普通の世界とは違うというだけで、何の規則も限界もないと考える人がいるが、実はそうではない。幻想の世界にもそれなりの限界が必要である。そうでなければ魔法使いはどんな場合でも破壊されない無敵の存在となってしまい、危機感も何もなくなってしまうからだ。この世界に登場する人々は皆それぞれ不思議な力をもってはいるが、個々の力にはそれぞれ個性があり、出来ることと出来ないことがある。だからこそ流れ星を巡って色々な争いが生じるのである。
おとぎ話はえてしてカラフルな脇役におされて、美男美女の主役の影が薄れることが多いが、トリスタンと流れ星の関係は面白い。流れ星役のデインズは女性であることを忘れないがか弱いだけのお姫さまというイメージからはほど遠い。しかし人間ではないのだからこれも納得がいくというもの。
おとぎ話の世界で夢を追いたい人にはぴったりの映画。ぜひお勧め!
最初のほうでピーター・オトゥールのカミオ出演がある。


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