先日シーアの巡礼の列でシーア派のマフディと警察が衝突して52人の死者を出し300人以上が負傷する事件が起きたばかりだが、その翌日マフディの指導者サドルが停戦を宣言した。(下記は2007年08月30日付け朝日新聞の記事より)

 イラクのイスラム教シーア派指導者ムクタダ・サドル師は29日、自派の民兵組織マフディ軍の活動を6カ月停止すると発表した。サドル師が同軍を統制できなくなっていることが理由とみられる。サドル師の側近は、あらゆる武装闘争を停止するとし、米軍への攻撃も禁じたという。

 マフディ軍はイラク戦争後に反米強硬派のサドル師を中心に創設された。軍の全容は明らかになっていないが、兵力は数千人に及ぶとされる。米国は、イラク政府高官の誘拐や殺害事件、爆弾テロなどを首謀しているとし、「和平達成のための最大の障害」と指摘してきた。
 サドル師は活動停止の理由を「組織再編のため」としているが、過激化する同軍をサドル師自身も抑えられなくなったことに危機感を抱き、組織の立て直しをはかることが目的のようだ。
 マフディ軍の幹部の一人は、朝日新聞の取材に対し、同軍の複数の幹部がサドル師の指揮系統をはずれ、独自にイランの情報機関と接触し、援助を受けていることを明らかにした。また、イラク政府が同軍の排除に本腰を入れ始めたことなどから「しばらく、おとなしくしていた方がいい」という判断が働いた結果と話す。

はっきり言ってサドルにはすでにイラク国内での勢力などそれほど残っていない。サドルは依然としてイランに潜伏したきりだ。ビル・ロジオによると、サドル派と呼ばれるグループにも数種類あるようだ。

マフディ忠誠者:これらはモクタダ・アルサドル個人に忠誠を誓っている従者たち。イランから援助を受けている。
イラン直属マフディ軍:これらが多国籍軍の言う「ならずもの」マフディ軍。サドルが統制力を失ったのをいいことにイランのクォズ(Qods)が直接コントロールするようになった。武器、訓練、作戦の指導などすべてイランから受け取っており、時としてイランのクォズに率いられてイラク国内の攻撃をすることがある。いってみればイラク版ヒズボラといったところである。
犯罪者分子: 彼等はただの犯罪者でマフディ軍の隠れ蓑を着て犯罪をおかす。サドルには彼等を統制する力はないが、仲間の数の足しになるので黙認している。
マフディ国粋主義者: 彼等は国粋主義者で反イラン勢力である。マフディ軍に忠実なのはサドルの父親への尊敬心からくるものだ。国粋主義者の一部「誉れ高いマフディ軍」と呼ばれるグループはイラク政府と連合軍に協力することに合意している。
シーア同盟:彼等はアルカエダやスンニ反乱分子の暴力を恐れてマフディに味方してきたグループ。やくざに所場代をはらってほかのやくざから守ってもらっているといった程度の仲間。

サドルの命令を聞いてアメリカ軍やイラク軍に攻撃をしなくなるのは、まずマフディ忠誠者の連中くらいだろう。残りの連中はこれまで通り好き勝手なことをするに違いない。犯罪者はまとまりがないし組織力もないからこれまで通りの取り締まりでいいだろうし、国粋主義者やシーア同盟は彼等の身の安全を保証してやれば、イラク政府やアメリカ軍に協力してくれるようになるだろう。
問題なのはイラン直属の「ならずものマフディ軍」である。彼等はただのチンピラではない。組織力もあり精巧な武器を所持し高度な訓練も受けている。イラン特別部隊の隊員が司令官として作戦に加わることもあるのでこれは正規軍の特別部隊と戦うくらいの危険性がある。
ただ、サドルが停戦を呼びかけている以上、イラク軍やアメリカ軍に攻撃を仕掛けてくるのは正規のシーア民兵ではないという扱いをすることができるため、一般のシーア市民からの協力が期待できるかもしれない。イラク政府はこの連中がイランの手先であるという事実をイラク国民に訴え、イランに国を乗っ取られたくなかったらイラク軍とアメリカ軍に協力して戦おうと呼びかけるべきだろう。
サドルが停戦を呼びかけたということは、すでにマフディの人気がイラク国内でもかなり落ちている証拠だろう。


Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *