今年の2月に俗に言うイラク米軍増派がはじまり、5月に入って本格的なペトラエウス将軍の対反乱分子新作戦(COIN)が始まって以来、イラクからは次々にいいニュースが入ってきている。ペトラエウス作戦はよっぽどうまくいっていると見えて、反戦色まるだしだったアメリカの主流メディアですらそのいいニュースを隠しきれなくなっている
本日8月21日(2007)付けのサローンというオンラインマガジンで、2004年に二回も大戦闘のあったファルージャの状況が非常に良くなっていると報道している。サローンといえばアメリカのオンラインでもかなり左翼で、ブッシュ政権には非常に批判的な思想を持つ雑誌である。
ファルージャ、ホッと一息(Fallujah catches its breath)と題するこの記事ではデイビッド・モリス記者がファルージャでの体験は「衝撃的」だと語っている。

私は西イラクを一か月近く旅しているが、私がこれまでに見てきたことは衝撃的だ。しかしそれは皆さんが思うような意味ではない。理屈や期待そして、これまでに私が学んだ全ての対反乱分子戦闘の軍事歴史に反して、イラクの一部は実際良くなっているように思える。

モリスは海兵隊に従軍してファルージャで五日ほど過ごしたが、そのうちの半分は防弾チョッキを着ないで過ごしたという。聞こえた銃声といえば、たまに勇み走ったイラク警察官が犬を撃ったりしている音だけだったという。

ファルージャといえば一時期はやることなすことうまくいかず、イラク米軍の失敗の象徴のような町だったが、それがいまやホッと一息ついているような気がする。商店の半分は開業している。いくつかの子供たちの群れが通り過ぎるアメリカ軍の車の列に熱烈に手を振っている。海兵隊員たちは毎晩地元の串焼きやファラフル(豆を潰して衣をつけて焼いたもの。コロッケに似ている)を買いに使いを出している。もう三か月以上も隊員は一人も殺されていない。ウィリアム・ムレン中佐によれば、2/6隊の管轄では「敵はあきらめてはいないが、瀕死の状態だ」と語る。

今日び、イラクからいいニュースを報道するのは不思議な気持ちだ。 ジョージ・ベンソン副隊長という口の悪いバージニア出身の将校が最初に、地元の人々が長蛇の列を作って海兵隊の設立した地元警備隊に志願したというような成功話を話はじめた時、私が猜疑心を持ったのは彼のせいではない。これまでブッシュ政権と陸軍幹部はイラクの状況をあまりにも長い間、多くのことについて、うやむやにして隠してきたので、多くの人々が(多分彼等自身ですら)希望的な結果を信じることが困難になっているのだ。

モリスは一か所だけを見てイラク全体を判断するのは軽卒だとし、ファルージャの場合はかなり運もあると語る。ファルージャでは2004年の戦闘以来、テロリストによる大規模な攻撃は少なくなっていたとはいえ、テロリストによる地元民への影響は残っていた。アルカエダが、アメリカ軍に協力していたとして地元警察官の葬式に爆弾ドラックを投入させて20人からの市民がを殺したのは、まだ最近のことだ。しかしアルカエダのこのような行為はかえって地元民からアルカエダへの敵意を生んだ。アメリカ軍はこの敵意をうまく利用して地元民からアルカエダ退治の協力を得たのである。

ファルージャにおける意外な成功は降って湧いた出来事ではない。ここでは比較的新しい作戦が起用されているのだ。それはイラク社会をもっと大きな目で見ることだ。地元市民を単に戦いに巻き込まれた罪のない市民として見る日は過ぎ去った。新しい作戦では、地域を物理的に区分けして隔離し、その地域の安全を計るという「新都市化」説を起用、そして地元戦力を手先として使うといった、反乱分子に対してより柔らかい非攻撃的な手段に焦点がおかれている。(後者はアフガニスタンで対タリバンに地元勢力を使用して成功した例を取り入れている)

モリス記者が自分で書いている通り本当に対反乱分子作戦(COIN)の歴史書をたくさん読んでいれば、ファルージャで起用されている作戦はまさに教科書どおりのものだということが分かるはずで、うまくいっていることが「意外だ」とか「驚くべきことだ」とか「衝撃的だ」などという感想を持つはずはない。ま、左翼ジャーナリストだから自分が学識あると思わせたいのは仕方ないだろう。
ファルージャの司令官のムレン中佐は、ファルージャへ出動する前に以前にハディーサでのパトロールなどで持っていた認識は捨て、新しい心構えで取り組むようにと隊員に言い聞かせたそうだ。モリス記者はここでハディーサ殺人事件の話を対照的な例として持ち出すが、そこはさすがに左翼ジャーナリスト、容疑者が証拠不十分で不起訴になり事件そのものの真実性が疑われていることは完全に無視している。
しかし、この記事に価値があるのは、モリスのような反米軍、反戦、反ブッシュ政権の左翼ジャーナリストですら、イラクでの新作戦が成果をあげていると認めざる終えないことにある。アメリカの一般市民がイラク戦争はやるべきではなかったとか、早急に撤退すべきだとかいう気持ちになっているのは、イラク戦争そのものに価値があるとかないとかではなく、イラク戦争に負けていることが気に入らないと言う気持ちからきているのである。
だから主流メディアがイラクからのいいニュースを無視できないほど、新作戦が成功を遂げ、イラクでの勝利は可能だとアメリカ市民が納得すれば、市民のイラク戦争観も自然に好意的なものにかわってくるはずだ。その場においても民主党が今年の前半にやってきたような勝てる戦争をなんとか負けるような行為をとり続ければ、アメリカ市民の民主党への考え方もかわってくるというものだ。
なんにしても9月15日に予定されているペトラエウス将軍による議会報告が楽しみになってきた。


Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *