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この間からスコット・トーマス・ビーチャムというイラク駐留のぺーぺー二等兵著のイラク駐留のアメリカ兵士の悪行を綴ったイラク日記三部作の真偽について色々と取りざたがされていることを私はここで書いた。
スコットは自分と友達がイラクの基地食堂で路肩爆弾で大けがをし顔に傷のある女性をからかって友達と大笑いした話や、大量埋葬地で見つかった子供の頭がい骨を頭にのせて歩き回った二等兵を周りにいたどの兵士たちもとがめるどころかげらげらと笑って見ていた話、そして同胞の兵士が戦車を日常的に乱暴に乗り回して地元の出店などを破壊していただけでなく、野良犬をみるたびにわざとひき殺していたという話をあげて、いかにイラク戦争がごく普通の人間だった兵士の心を蝕み普通では考えられないほど無神経で悪趣味な行動をするようになるかを描いた。
しかし掲載直後から、現在イラク駐留中のほかの兵士や帰還兵などの間からこの話はかなりうさん臭いという批判があがり、批評家たちはスコットの日記を掲載したニューリパブリック(TNR)誌に対してこの話の真義を問いただし、著者の実名や記事の根拠を提示しろとTNR誌に詰め寄っていた。後に著者の正体があるミルブロガーによってスコット・トーマス・ビーチャムという陸軍二等兵であることが暴露された後もTNR誌はずっと自分達の捜査に問題はなかったとは言いはっていた。
ニューリパブリックは昨日になって調査の結果日記の内容はほぼ正確であることが確認できたと発表した。しかしこの説明には色々と問題点がある。先ずこの声明で著者のビーチャムの妻がTNRの社員というコネがあったことがはっきりした。しかも彼女の仕事はリポート調査員で、本来ならば記者の書いた記事の事実関係を調べるのが仕事だ。記者が夫だったら彼女はちゃんと事実関係の確認などしたのかどうかかなり疑わしい。いやそれだけでなく残酷な戦争によってシニカルになった現役兵士による日記という発想そのものが妻の入れ知恵だった可能性も高い。とにかく先ずTNRのいい分を読んでみよう。

ビーチャムのエッセイはすべて公開前に事実確認がされました。私たちは詳細の真実性ついてエキスパートや目撃した証人と確認し、そして著者本人にもさらに詳細について問いつめました。しかし戦地から一人称でのエッセイを掲載するにはある程度著者を信用しなければなりません。ビーチャムについて個人的にもプロとしても我々が知りうる限り彼のリポートは信用できると判断しました。彼のエッセイの真偽に関して疑問があがった後、TNRはさらにビーチャムの証言を再確認しました。

この調査のプロセスにおいて、TNRは数えきれないほどのエキスパートや関係者にインタビューし広範囲に渡り綿密な調査を行ったとしている。

…もっとも大事なのは私たちはビーチャムの隊にいるほかの5人のメンバーにインタビューし、彼等はみなビーチャムの話を確証しました。彼等は直接目撃したか事件当時に話を聞いたかしています。(インタビューに応じたすべての兵士が匿名を希望しました。)

まず基地の食堂で顔にやけどの痕のある女性を侮辱した件に関して、TNRは三人の兵士をインタビューしたが、皆そういう女性を見たことは覚えていると証言。そのうちのひとりはスコットと一緒に女性をからかった当人である。ただ問題なのはこの三人ともこの話がおきたのはイラクではなく彼等がイラクへ出動する前に2週間ほど待機していたクエートの訓練基地の食堂でのことだったと証言していることである。ということはビーチャムが6か月に渡るイラク駐留ですっかり心が荒んでいたのが原因で女性をからかったと書いていたのは真っ赤な嘘だったということになる。イラク戦争が兵士の心を蝕んだという例としての話がイラク戦争に出動する前に起きていたとしたら、これは単にビーチャムが戦闘体験をする前から下衆だったということの証明になるだけで、戦争とは何の関係もない。つまり全く無意味な話だったということになる。
しかし軍関係の人の話によると。このクエートのCamp Buehringという基地は非常なへき地にあり、何十万というアメリカ兵がイラク出動前後にほんの2〜3週間滞在するだけの基地だそうで、どのような事件があったにしても目撃者を探すのは非常に難かしいという話だ。自分もイラク帰還兵で元海兵隊員で現在は予備軍にいるミルブロガー、マット・サンチェズはCamp Buehring訓練基地に連絡を取って2006年9月当時にこのような女性が存在していたのかどうかを問いあわせたところ、基地の報道官からはそのような女性がいたという事実は確認できないという答えが返ってきたという。
さて二番目の二等兵が大量埋葬地で見つけた子供の頭がい骨を頭につけて歩き回っていたという話だが、TNRによるとこれにも目撃者がいるという。陸軍は公式にビーチャムの隊が大量埋葬地を発見した事実は確認できないと声明文を出しているが、ニューリパブリックはイラクで人骨が発見される例はよくあることで、それがいちいち上層部に報告されるとは限らないという別の将校の証言を紹介している。ビーチャムが駐留していた基地の近所には児童墓地があったことは確認されているため、ビーチャムの同胞が子供の頭がい骨を発見してもおかしくないとしている。
しかしTNRはわざと大量埋葬地と墓地とを混合している。イラクでは多くの大量埋葬地が発見されているが、これは家族や親族が亡くなった人間を弔って埋めた場所ではなく、イラク軍によって大量に虐殺された市民の遺体が無造作に埋められた場所をさす。そのような埋葬地は普通の墓地とは違って犯罪現場として扱われ発見した兵士は即座に軍の捜査部に報告する義務がある。そのような場所での作業には必ず曹長もしくは将校が立ち会うはずであり、これらの情感が二等兵による墓荒らし行為を黙ってみていたとは考えられない。
TNRはこの出来事に証人がいるとはしているものの、TNRのあげた証人のうちひとりは、イラクで人骨が見つかることはよくあることだと証言しているにすぎず、頭がい骨を頭にかぶった二等兵を目撃した証人はひとりだけなのである。もしビーチャムのいう通り一日中頭に頭がい骨をかぶって遊んでいた隊員を他の隊員たちが皆笑いながら見ていたというのが本当だとしたら、どうして目撃者がひとりしかいないのだ? もしかして、この目撃者は食堂でビーチャムと一緒になって女性をからかった友達と同一人物ではないのか?そして頭に頭がい骨をのせて遊んでいたのは誰あろうビーチャム本人なのではないか?
墓地移動の作業中にビーチャムとこの友達が子供の骨を見つけて、ビーチャムがその頭がい骨を頭にのせて二人で笑っていたということならあり得る話だ。路肩爆弾で怪我した女性をからかえるぐらい無神経な下衆どもがそういう馬鹿な真似をしたとしてもおかしくはない。だがそうだとすればこれも単にビーチャムとその悪友の無神経ぶりを示す例であって、隊員たちの誰もこのような行為で気分を害さなかったという戦闘に疲れた軍人の一般的な精神状態を示す例としては全くふさわしくないことになる。
さて、三番目の犬を轢き殺す趣味のある戦車運転手の話だが、これにも目撃者が一人いる。

これについてビーチャムが説明した事件を目撃した一人の兵士は電子メールでこう書いています。「自分はこれを何度も目撃しましたが、標的の犬に近付く時ブラッドリーを犬がいるのと反対側の道路に突然ヨークを切ります。すると戦車の後部が犬のいる方へと振れるため、脅えた犬が道の真ん中に走り込むわけです。運転手がそこで舵を切って戦車を道路にもどせば道路に走り込んだ犬はチョークの輪郭で書けるかたちなる(殺される)というわけです。」

TNRはブラッドリーの製造元や運転の訓練官などに連絡してブラッドリーをこのように操縦することが可能かどうか確認したという。しかしここでも問題なのは証人が一人しかいないということだ。実際ビーチャムの話を確認している証人はそれぞれの事件でひとりづつしかいない。だがこの兵士は三人の別々な人間なのか同一人物なのか匿名であるため全くはっきりしない。
先に紹介したマット・サンチェズによれば、本日陸軍は一連の事件の調査を終了し、ビーチャムのエッセイは根も葉もない出鱈目であると発表したとのことだ。(公式発表のリンクは取得次第掲載する)

一週間近くに渡る綿密な捜査の結果、第1歩兵師団第4歩兵旅団戦闘チーム(4th Infantry Brigade Combat Team, 1st Infantry Division)はスコット・ビーチャムが「バグダッド日記」に記載した容疑は隊のメンバーすからが否定しており偽りであることが証明された。

もし隊員の全員が否定しているとしたら、この三つの事件を目撃した証人とはどこの誰なのだろうか? TNRはこの証人の信用度についても説明する必要がある。TNRがガセネタを報道したことは過去に二回ある。もし今回のこの記事もガセだったことがはっきりしたらもうこの雑誌廃刊にすべきだろう。
訂正:本文中に引用したマット・サンチェズ元海兵隊隊員はイラク帰還兵と書いたがこれは私の勘違いだったので訂正した。サンチェズは現在リポーターとしてイラクに在住中である。またサンチェズが海兵隊に入隊する前にゲイポルノのモデルをしていたことがあると読者から指摘を受けた。今回の事件とサンチェズの過去は無関係なので特に記載しなかったが、別に隠していたわけではない。私はそのことが明らかになった3月にそれに関して、
金髪美女政治評論家の失言に見る右翼のヒステリー、左翼の偽善
で書いている。サンチェズは海兵隊に入隊することによってデカダンスな生き方から価値ある人生を見いだした典型的な例である。しかし今回私がそれについて記載しなかったことでサンチェズの過去を私が隠していたという印象を読者に与えたことは私の誤りであったので認めよう。今後気をつける。
アップデート(08/05/07, 14:34 PDT)Confederate Yankee が直接陸軍の捜査結果についてメールで確認。
このメールはイラクデイビッド・ペトラエウス司令部の公共関係部スティーブン・ボイラン大佐がCYに送ってきたもので、私が本文中に現在イラク滞在中のマット・サンチェズなどが書いていた米陸軍によるスコット・トーマス・ビーチャム二等兵に関する捜査が完結したという事実を確認するものである。以下そのメール内容。

トーマスが言っていたことに事実はあったのかという質問だが:

答え: 隊が行った捜査によりトーマスの陳述が偽りであることが判明した。トーマスの隊の隊員すべてにインタビューを行ったが誰一人として彼の主張を裏付けるものはいなかった。

彼は今後どうなるのかという質問について:

答え:犯罪をおかしたという証拠はないので、彼の上官から事務的な処罰が加えられるものと思われる。種々の規則によって事務的な処置に軍隊がどうするしないについては一般に公開することは出来ない。

アップデート2:(08/05/07 21:13 PDT) 同じくConfederate Yankeeがクエートの基地報道官( Major Renee D. Russo, Third Army/USARCENT PAO at Camp Arifjan, Kuwait)と交わしたメールのなかで、TNRの記者にもビーチャムの記事に載っているような女性の存在は確認できない、ビーチャムの話は「都市神話」だろうと話したと書かれていたという。ということはTNRは自分達の捜査の結果裏はとれたと納得したと発表した時、すでにクエートの基地報道官からこの話は真実ではないらしいという話を聞いていたことになる。どうしてそのことを報道しなかったのだろうか?


3 responses to 暴かれたイラク版冬の兵士の嘘

In the Strawberry Field17 years ago

嘘つき二等兵、取り調べで嘘を全面的に認める!

この間からイラク駐留の米兵の悪行についてザ・ニューリパブリック(TNR)誌のイラク日記というコラムでショック・トゥループという記事を書いたスコット・トーマス・ビーチャム陸軍二等兵の話をしてきたが、本日、陸軍の捜査でビーチャム二等兵はTNRに書いたことはすべて嘘であることを認めたという記事が8月6日付けのウィークリースタンダードに掲載された。これは先日マット・サンチェズが報告しConfederate Yankeeのオーウェンが確認を取った陸軍による捜査の結果をさらに詳しく報道したものだ。 事件の背景は…

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In the Strawberry Field17 years ago

TNRバグダッド日記ねつ造記事事件に学ぶ匿名記事の危険性

アップデートあり:後部参照 スコット・トーマス・ビーチャムの、今はねつ造がはっきりしたバグダッド日記がザ・ニューリパブリック(TNR)に掲載されてからというもの、ブログ社会、特に米軍関係者が書いているミルブログの間ではここ数週間この話で持ち切りだった。その間主流メディアはこの出来事をほとんど無視してきたが、昨日になってとうとうアメリカのワイヤーサービスであるAPニュースまでもがTNRを厳しく批判する記事を書いている。 陸軍は今週捜査を終了させ、ビーチャムの証言はすべて嘘であったことが判明したと言って…

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In the Strawberry Field16 years ago

心を入れ替えた一等兵。米兵侮辱記事著者スコット・ビーチャムの選択

今年の7月、ニューリパブリック(TNR)という週刊誌にバグダッドに駐留している米陸軍兵の捏造日記が掲載された事件を覚えておられるだろうか。ことの詳細は下記のエントリーを参照いただきたい。 まず著者のスコット・ビーチャムの書いた内容はこちら。 “>「冬の兵士」再び、米二等兵の軍隊バッシング それが嘘だったことがばれたいきさつがこちら。 暴かれたイラク版冬の兵士の嘘 ビーチャムは陸軍の取調べで、自分がTNRで書いたことはすべて捏造であったことを認めた。最後に聞いた話では謹慎処分を受けたという話だったの…

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