マーク・スタインの悲観的なヨーロッパ論に一週間も付き合っていたらかなり気が滅入ってしまった。200ページもある本のなかでこれだけヨーロッパはイスラムに侵略される直前だ、ヨーロッパは滅びると最後論を振り回しておきながら、ではどうすればいいのかという解決策は最後のたった一章きり。すでに三分の二あたりで読む気はなくしていたのだが、最後まで読まずに感想文を書くのもなんだと思って出動前最後の日曜、お昼からずっとホテルの一室に閉じこもって読書をした。しかしその褒美がこれとはひどいな。
ま、とはいえ外へ出かけたくなるような天気ではない。5月も中旬を過ぎたというのに肌寒くどんよりと曇った空。海辺の町とは往々してこんなものだが、持ってきた水着もまだ着ていない。この肌寒いのにプールで泳いでいる観光客はけっこういるが私はお断りだな。出航前に風邪をひきたくない。なにしろ船はもっと北へ行く。寒流があるからきっとずっと寒いだろう。2月の出張前に母が送ってくれた厚手のセーターとマフラーが役に立つ。
さて、それでは紅茶を入れ直し、気分も取りなおしてシリーズ第三段といこう。
スタインはヨーロッパは近いうちにその自堕落な政策からイスラム社会に乗っ取られ地理的にはヨーロッパとして残ってもヨーロッパの文化は消失してしまうだろうと予言した。その理由として、ヨーロッパの少子化による人口減少、多様文化主義によるヨーロッパ文化の崩壊、世俗主義による自分勝手な日和見主義を上げている。
マーク・スタインの悲観主義は現実的だろうか。本当にヨーロッパ諸国は負け犬のように腹を見せてイスラムに服従するのだろうか?私はそうはおもわない。
イスラム聖戦主義は成功しない
先ずイスラム教はスタインが言うほど強力な勢力ではない。カカシはなにもアメリカ本土を攻撃し3000人の市民を虐殺し、イラクでもアメリカ軍を悩ませているジハーディストの力を過小評価しようというのではない。彼らは危険な敵だ。それは正しく把握する必要がある。敵を見下すのは自殺行為だ。
しかし、イスラムは魅力的な宗教でもなければ建設的な文化でも政治機構でもない。世界ひろしといえどいったいどのイスラム教国家が経済的に成功し高い教養を持った幸せな国民で溢れているというのだ? どのイスラム教国が強力な軍隊を保持して世界のスーパーパワーとして君臨しているというのだ?どこのイスラム教国からノーベル賞を受賞するような科学者や、ビル・ゲーツのような事業家が出ているというのだ?
イスラムはユダヤ・キリスト教に比べれば歴史は浅いかしょうがないのだと言う人もいるだろう。だが、建国してせいぜい100年からのアメリカは19世紀終わりにはすでにかなりの実力国家としてヨーロッパ諸国から無視できない国になっていた。イスラムには1400年という時間があったのに、いまだにほとんどのイスラム諸国が7世紀の生活をしているのは何故だろうか?
その理由は簡単だ。イスラム教は何も生産しない、イスラム教は新しいアイディアを奨励しない、イスラム教は生より死を選ぶからだ。
よくアラブの歴史をよく知らない人たちが、中世のイスラム諸国はヨーロッパよりも異教徒に寛容であり、異教徒を受け入れ優遇していたという。彼らが都合よく無視している点はこうした国々のイスラム教支配者たちは異教徒を下層階級の人間として差別し、その宗教によって位をもうけ、それに見合った税金を払わせていた。イスラム教徒からは税金を取らない主義なので、彼らは異教徒からの税金で国をまかなっていたのである。
異教徒の労働に頼り異教徒の富に寄生する以外に生活の方法を見出だせないのがイスラム原理教なのだ。今でさえ中東に石油が無ければイスラム教諸国など誰からも相手にされないだろうし、テロリストも資金源がなく活発な活動など望めたものではないのだ。もしジハーディストが世界侵略できるような勢力をもったなら、彼らは異教徒に無理やり改宗をせまり、そむけば虐殺するなり追放するなりするだろう。そうやって金をむしりとる相手がなくなったら自分らが持っている僅かながらの富を巡って仲間同士で殺し合いをするのがおちだ。
パレスチナのガザで起きていることを見れば、それがイスラム教支配の縮図だと言うことがわかる。パレスチナ庶民はイスラエルだけが悪の根源だとしてイスラエルを追い出すのに躍起になっていた。ところがいざイスラエルが出て行ったら、インフラは全く機能しなくなった。電力発電も、水道も、下水も、すべてイスラエルによって管理されていたからだ。パレスチナ領内に産業はない。イスラエルまで出稼ぎに行くしか生活の糧がないのに、イスラエルへの自爆テロやロケット弾の打ち込みをやめないからイスラエルからも締め出されてしまう。テロに嫌気の差したイスラエルが防御壁を建てればゲットーと同じだなどと騒ぎ出す。
こんな奴らにヨーロッパを侵略だって、ご冗談を!
だいたい聖戦主義者の唱えるイスラム教のシャリアにしたところで、イスラム教徒ですら両腕を広げて受け入れているわけではない。スタインはロンドンに住むイスラム教徒の多くがシャリアの元に生きたいと答えた世論調査を出しているが、私はこれらのイスラム教徒はシャリアが本当にどんなものかなど理解していないと思う。
今欧州でジハードに勧誘されている若者は、単に自分らが暴れたいという本能をジハードという宗教で正当化しているに過ぎない。人殺しをしようが放火をしようが徒党を組んで女性を強姦しようが、すべてがアッラーの思し召しだとして許されている。彼らは役に立つ愚か者としてジハーディストに利用されているに過ぎないのだ。彼らがそれに自爆テロで吹っ飛ぶ前にそれに気がつけば彼らとてシャリアなど受け入れはしない。
フランスでフェタチーズを肴にボルドーワインを飲みながら、キャバレーで半裸の美女が踊るのを楽しむイスラム教の若者に、「考えても御覧なさい、イスラム教徒が勝てばこれがすべてがなくなるのですよ。チーズとワインの代わりに殻が残ってるざらざらのコーヒーを飲み、半裸女性の変わりに山羊とデートができるようになるのです」と言ってもやる気は出ないはずだ。
もちろんイスラム過激派の脅威は本物だ。イスラム過激派とは断固戦わねばならない。問題はヨーロッパに戦う意志があるのかどうかということだ。スタインは無いと言う。
スタインは間違っている。ヨーロッパはスタインが思うほど軟弱で堕落しきった文化ではない。イスラムの歴史など比べ物にならないほどの虐殺を体験してきたヨーロッパである。イスラム教ごときに戦わずして滅ぼされるようなことはあり得ない。今のヨーロッパの問題はまだヨーロッパ諸国がイスラム教の脅威を正確に理解していないことにある。つまり半分居眠り状態なのだ。
しかしヨーロッパが目覚めかけているという兆しが私には見える。長くなるのでこの続きはまた今度。


1 response to 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その3

In the Strawberry Field17 years ago

目覚めるヨーロッパ

さて、今日はマーク・スタイン著のアメリカ・アローン感想文の最終回として、なぜ私がヨーロッパがイスラム教の侵略によって滅びるなどということはないと希望を持っているのかその話をしたいと思う。これまでのお話は下記参照。 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その1 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その2 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その3 復活するキリスト教 マーク・スタインのほぼ絶望的ヨーロッパ論の最大の間違いはヨーロッパが今のまま全く変化なくイスラム教による侵略に滅ぼされてしまうと結論付けて…

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