ヨーロッパの世俗化、イスラムの過激化
どうして欧州では少子化が進むのか、そのヒントとしてスタインは2002年の世論調査をあげている。2002年、9月11日、あの悲劇の日から一周年の記念日に、あなたは将来について楽観的かというう質問に対して、61%のアメリカ市民が楽観的であると答えた。
それに対して、楽観的な将来を持っていると答えたヨーロッパ人は、カナダで43%、英国42%、フランス29%、ロシア23%、ドイツにおいてはなんとたったの15%。こんなに悲観的に将来を見ているのでは、そんな社会に子供を送り出したくないと考えるのも当たり前というものである。いったいこの悲観主義は何処から来るのであろうか?
その原因はヨーロッパの世俗主義にあるとスタインは言う。欧州の人間はアメリカが信心深いことを洗練されていない田舎者だと馬鹿にする。だが、アメリカ国内でも2000年の選挙でリベラル(青)と保守派(赤)と分かれた州のうち、赤い州の出産率は青い州に比べて圧倒的に多いのである。バイブルベルト(聖書地域)と呼ばれるこれらの地域はなんといっても信心深い人が多く集まっている。
欧州や日本では話題にもならない人工中絶の合法性や、欧州各地ですでに合法となっている同性愛結婚の是非が選挙の度に話題になるのも、こうした宗教心がアメリカの基盤となっているからだ。
この間もアメリカは国が新しいため守るべき伝統がないと言っているある右翼ブロガーの意見を紹介したが現実はその反対だ。古い歴史のあるヨーロッパこそが自らの伝統を捨て去りユダヤ・キリスト教の価値観や信念を見捨ててしまった。ヨーロッパから受け継いだその伝統を頑なに守り通している国を田舎者といって馬鹿にするヨーロッパのざまを見よ!国が古かろうが伝統があろうがそれを守ろうとしないのなら何の意味があるというのだ?
自らの宗教を足蹴にしてきたヨーロッパではイスラム教の信仰の深さやその強さを理解することができない。だからイスラム教の横暴は宗教心そのものに起因するのであり、世俗主義こそがイスラムに対抗できるのだと唱える人々がいる。2006年に十数人のインテリたちによって出版された対イスラムマニフェストの著者には元イスラム教徒で今は世俗主義のAyaan Hirsi Ali, Irsahd Manji, Salman Rushdieといった人たちが名を連ねている。
スタインはこれらの人々の勇気を讃えながらも、彼らは間違っていると断言する。そしてカナダのKathy Shaidleの言葉を借りてこう語る。

「世俗主義そのものが問題のひとつなのだ、解決方法ではない。世俗主義こそがヨーロッパの精神的道徳的真空状態をつくってしまい、そこへイスラム主義が突入してきたのだから。」

ヨーロッパのあちこちで、イスラム教の理不尽な要求にヨーロッパが迎合する度にイスラム教徒はヨーロッパ人の信念の無さをあざ笑っている。ヨーロッパのクリスチャンの価値観が弱いからこそ偉大なるイスラム教の要求に服従するのだと考える。もともとイスラム教徒は異教徒を汚れたもの卑しいものと考える傾向がある。欧州の政府が多様文化主義などという言い訳で彼らに迎合すればするほどイスラム教徒はこの教えを確信するのだ。これではヨーロッパに移住したイスラム教徒がヨーロッパ文化に溶け込もうなどとしないのは当たり前だろう。
Anjem Choudaryという39歳のイギリスイスラム教徒のリーダー格のイマームはイギリスはシャリア法を取り入れるべきだと主張している。BBCのインタビューでそれならすでにシャリア法を取り入れている国へ引っ越してはどうかと聞かれて、彼はこう答えた。

「イギリスがあなた方のものだと誰が決めたのです?…イギリスはアラーのものです。世界中がアラーのものなのです。」「私がジャングルへ行ったなら、私は動物のように生きません。私は崇高なる生き方を広めます。イスラムこそが崇高な生き方なのです。」

欧州人たちがこのようなイスラム教徒の野心を理解できず、イスラム教徒に迎合するのはその場しのぎの対策しか考えていないからだ。スーパーのお菓子の棚の前で「買って買って~!」と駄々をこねる子供に欲しいものをかってやればその場はおとなしくなるかもしれないが、長い目で見て決していい結果を生まない。いずれ子供が要求してくるものはお菓子どころではすまなくなる。
このようにヨーロッパ人が長期的な見方をして国家対策を立てることが出来ないのも、まさに世俗主義が原因なのである。ヨーロッパは自分達の今の生活がよければそれでいいという日和見主義。だから短い労働時間や長い休暇が将来自分らの国を破壊してしまう可能性など無頓着なのだ。今日イスラム教徒に迎合して煩い蠅を追い払ったつもりでも、それが次の世代にどんな悪影響を与えるかなど考えてもいない、、おっと子供がいないんだから関係ないか、、、
トーマス・カイル著のThe Gifts of the Jews(ユダヤの贈り物)という本のなかで、ユダヤ教が始めて過去現在未来は違うという概念を生み出したと書かれていた。それまで人々は世界は今あるままの姿でずっと存在していたのであり、これからもこのまま何の変化もなく永遠に続くのだと考えていた。だが旧約聖書は初めて「歴史」という継続した時間の概念を人々に紹介したのである。将来は今よりもよくなっているという希望を人々に初めて与えたのがユダヤ教だとカイルは言う。
我々の行動は将来の社会に影響を与える。未来は現在とは継続しながら変わって行くという概念があるからこそ我々は未来のために今は我慢して頑張ろうと言う気になれるのだ。将来への希望があるからこそ子供を生む。
また宗教は道徳観と切っても切り離せないものがある。私は昔、もし世の中の人々が警察に捕まることだけを恐れて悪いことをしなかったとしたら、今いる警察官の数ではとても治安を守りきれないと言われたことがる。我々が犯罪を犯さないのはそれが違法だからではなくて、それが道徳的に悪いことだと知っているからだ。それを教えてくれるのは誰なのか?それが神ではないだろうか?
だからヨーロッパで起きているようなイスラム教徒への迎合はアメリカでは起こりにくい。無論ここでも何度も紹介したように、アメリカにも世俗主義や多様文化主義のリベラルが大学などにはうようよいるので、全く無いとは言わない。だが、宗教心の強いアメリカではイスラム教の教えが我々のユダヤ・キリスト教の価値観よりも優れているなどという考えは拒絶される。
宗教こそが宗教の横暴に対抗できるのである。世俗主義に勝ち目はない。


1 response to 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その2

In the Strawberry Field17 years ago

目覚めるヨーロッパ

さて、今日はマーク・スタイン著のアメリカ・アローン感想文の最終回として、なぜ私がヨーロッパがイスラム教の侵略によって滅びるなどということはないと希望を持っているのかその話をしたいと思う。これまでのお話は下記参照。 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その1 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その2 滅び行く欧州、栄えるイスラムの脅威 その3 復活するキリスト教 マーク・スタインのほぼ絶望的ヨーロッパ論の最大の間違いはヨーロッパが今のまま全く変化なくイスラム教による侵略に滅ぼされてしまうと結論付けて…

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