NATO軍春を待たずしてアキレス作戦

アフガニスタンのNATO軍はタリバンが予告している春の総攻撃を待つまでも無く、すでに対タリバン攻撃を始めている。題してアキレス作戦。
今回の連合軍に参加しているのはアメリカ、イギリス、オランダ、カナダあわせて4000の兵、それに1000のアフガン兵が加わる。
今回の作戦は北側のヘルムランド地区に集中される。タリバンが占拠したと発表しているムサカラ(Musa Qala) とワシア(Washir)そしてナズワドの位置する地域である。ムサカラは去年の暮れ、イギリス軍がタリバンと交渉の末譲り渡した場所だが、タリバンなどと交渉ができると考えたイギリス軍は甘かった。おかげでここを拠点にタリバンが勢力を強め攻撃をしかけてくるという有様である。再びこの土地をとりもどさねばならなくなった。イギリスとアフガンの歴史は19世紀にさかのぼるほど古いのに、何で同じ間違いを何度も繰り返すのだろう。不思議でしょうがない。,
昨日も書いたように、NATO軍はすでにあちこちでタリバンと戦闘を続けており、その度に10人から50人の戦死者がタリバン側から出ている。タリバンが面と向かった攻撃でNATO軍に太刀打ちできるわけはないのである。
去年の総攻撃では役3000人のタリバンが殺されたが、一般市民も1000人巻き添えを食ってしまった。今回も春の攻撃をめざしてタリバンは兵を集めているが、今回も大惨敗で終わること間違いなし。アフガニスタンはこうやって何年も同じことを繰り返し、どっちの辛抱が持つかで最終的な勝ち負けが決まるのだろう。


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慰安婦謝罪議決を止めるために、安倍首相にアドバイス

English version of this entry can be read here at Big Lizards.net/blog.
出張前のごたごたしている時に、日本の保守派の方からアメリカで慰安婦問題を扱った議案が通らないように、日本の立場をアメリカの読者を対象に紹介してもらえないだろうかというお話があった。私はミスター苺と一緒に英語のブログも経営していることでもあり、この話はそちらでも折をみて紹介するつもりでいた。
そうこうしているうちに、先日の安倍首相の「問題発言」が起きてしまい、これはどうしたものかと考えていたところ、ミスター苺がこの話を取り上げたいというので任せることにした。
その内容をここで紹介する前に、ひと言お断りしておかねばならない。私はこのブログにおいて、過去の大日本帝国という旧政権の所業について詳細を語るのを避けてきた。それはたとえ旧日本政府がどのような行いをしたにしろ、現在の我々には無関係であるし、そんなことを蒸し返してもむやみに傷口を開くようなもので害あって益なしだと考えているからだ。
アメリカにおいて、旧日本政府の話をする場合には、旧日本軍による悪行はなかったとか、韓国や北朝鮮や中国が言うほどひどいことはしていないという説明は責任逃れの弁解としか受け入れてもらえない。 南京大虐殺や慰安婦問題を多少なりとも否定すれば、ホロコースト否定論者のごとく扱われかねない。
私もミスター苺も旧日本政府の行いについて現在の日本政府が謝る必要などないと考えている。(特に自国民を何十年に渡って虐待してきた共産主義政府が旧日本政府を道徳上批判できる立場ではない。)だが、日本が謝る必要がないということをアメリカ議会に納得してもらうためには、安倍首相のような細かい事実関係の説明をするのはかえって逆効果である。
そこで我が英語ブログBig Lizardsでは安倍首相に、もっと効果のある作戦をお勧めしたい思う。前置きが長くなったが下記はミスター苺著の安倍首相へのアドバイスである。 ミスター苺は歯に衣を着せずにものを言う人なので、日本の読者の皆さんには納得のいかない部分もあると思うが、これもひとつの意見としてお聞き願いたい。


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何がタリバン春の大攻撃だ!

今日、産経新聞の「タリバン、春に大攻勢へ アフガン駐留外国部隊が標的」という記事を読んでカカシが大学生の、パキスタンの留学生との会話を思い出した。ある時私はパキスタンとインドがカシミアを巡ってまた戦闘を始めたようだねという話をしたら、パキスタン空軍でパイロットをしていたこともある彼は、「あ~春だからね」と退屈そうに答えた。彼に言わせるとカシミアあたりは冬は寒くて雪もつもり山岳地帯での戦闘はほぼ不可能。暖かくなってくるとお互い何発か打ち合って形だけの戦闘をやるのが習慣なんだそうだ。これじゃまるで日本の春闘とおんなじだなとカカシは苦笑いをしてしまった。(今でもあるのかな、春闘って?)

3月3日8時0分配信 産経新聞
 【バンコク=岩田智雄】イスラム武装勢力タリバンが、アフガニスタンに駐留する米軍など外国部隊に対し、春の大攻勢に向けて戦力を整えつつある。米国やアフガン政府は、テロの司令塔はパキスタン国内に潜伏しているとしており、米軍による直接攻撃の可能性も示唆し始めた。
 アフガンでは昨年だけで139件の自爆テロが発生。一昨年の21件から急増した。
 現地からの報道によると、タリバンのダドゥラー司令官は先月21日、新型の対空火器を入手したと明らかにするとともに、現在6000人のタリバン兵が、間もなく1万人になると主張。ゲリラ活動が容易になる雪解け後の攻勢が始まると宣言した。別のタリバンのカーン司令官も先月28日、アフガンで自爆要員2000人を確保し、うち1000人を、治安が比較的安定している同国北部へ移動させたと述べた。

実はアフガニスタンでタリバンはすでに何度もNATOへの総攻撃を試みており、今年にはいって200人からのタリバン武装勢力がカナダ・イギリス軍を中心にしたNATO軍に殺されている。
実は先月、ニューヨークタイムスは2006年にアフガニスタンでは4000人が殺されたと報道した 。しかしこの記事では殺された「人々」が一般市民だったのか敵側のタリバンだったのかはっきりされていなかった。 もし殺されたほとんどがタリバンだったとしたらタリバンの総攻撃は大失敗だったということになる。これは調べてみる価値があると思った。 その結果驚くべき事実がはっきりした。
タリバンの戦死者数を調べるにあたり、カカシはCounterTerrorism blogThreatsWatch に載せられたアフガニスタンに関する記事からタリバンの死者数を月別に数えてみた。9月の数はNATOの公式発表の数を使った。
2006年月別タリバン戦死者数は書きの通り。

2006年、タリバン戦死者数
戦死者数
一月 16
二月 (No data)
三月 43
四月 45
五月 412
六月 515
七月 708
八月 122
九月 900
十月 105
十一月 20
十二月 165
2006 合計 3051


これで解るように去年一年間でアフガニスタンでの戦死者4000人のうちなんと四分の三はタリバンだったことがはっきりしたのである。
これらの数は公式発表ではない。私が記事に書かれた戦死者数をいちいち数えたもので多分実際にはもっと多いはずだと考える。たとえば9月は私の勘定だと319人だったが、公式発表では900人となている。
どういうわけかイラクでのアメリカ兵の戦死者やイラク市民の犠牲者の数には異常なほど興味を示す主流メディアはアフガニスタンでどれだけ悪者が退治されても全く興味がないらしい。
ここでメディアが全く認識しないカナダ、フランス、イギリス軍の英雄たちに拍手と声援を送ろう。また9月に勇敢な戦いをしたアメリカ陸軍特別部隊にも脱帽!
確かにタリバンは完全に崩壊したわけではない。まだまだ残党がいる。しかしこれまでの何百回という戦闘でもわかるように、タリバンはNATO軍に総攻撃をかけるたびに大惨敗しているのである。去年の死者のうち2000人はタリバンが攻撃を激化させた後半の四ヶ月で出た数だ。 であるから春先のアメリカ軍への攻撃においても突然タリバンが圧倒的な勝利を得るなどという可能性は低い。
ただ問題なのはタリバンがアフガニスタンでままならぬ勢力をパキスタンに伸ばしていることである。前出の産経新聞によると、

米軍、パキスタンで直接攻撃を示唆
 イスラマバードの消息筋によると、タリバンは、最高指導者オマル師の指揮下にあり、同師の周辺にはダドゥラー氏ら30人の司令官がいる。タリバンのほかにも10以上のテロ組織があり、かつてタリバンと敵対した反米イスラム原理主義者、ヘクマティアル元首相らのグループが活動している。
 米国はこれまで、タリバンの指導者がパキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域などに潜伏し、国際テロ組織アルカーイダが訓練キャンプを再構築していると指摘してきた。
 消息筋によると、チェイニー米副大統領は先月、パキスタンのムシャラフ大統領との会談で、アルカーイダナンバー2のザワヒリ容疑者とタリバンのダドゥラー司令官の殺害あるいは拘束を具体的に求めたという。米国は、2人が春の大攻勢を主導し、現在パキスタンとアフガニスタンの間を自由に往来しているとの情報を得ているといい、チェイニー副大統領はテロリストの動きが止まらない場合、米軍がパキスタンで直接、武力行使する可能性を示唆したとされる。
 ムシャラフ大統領としては、パキスタン軍がタリバンを攻撃すれば、同政権がテロの標的になりかねないため、対応に苦慮しているもようだ。

ムシャラフ大統領はアメリカ政府に協力したいのはやまやまだが、自分も何度も暗殺の対象になった身でもあり、厳しい取締りをしたくてもそれだけの権力がないというつらさがある。だが、テロリストと妥協は出来ない。
ムシャラフ政権が倒れた後のことも見越して、アメリカ政府がパキスタンにある核兵器がテロリストの手に渡らないようにすでに手を打ってあることを祈るのみである。
関連記事:
NATO軍春を待たずしてアキレス作戦
アフガニスタン:どうなったのタリバン春の大攻撃?


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米共和党の大統領候補はいかに?

アップデートあり: アメリカ全国の世論調査ではジュリアーニ氏がダントツで大人気。詳細は後部参照。
2008年の大統領選挙を前にカカシはなぜか民主党候補の話ばかりをしてきたが、ここでちょっと共和党の候補者の話もしておこう。
先日毎年恒例の保守派集会(Conservative Political Action Conference、CPAC)があり、最後の日に共和党候補者の人気投票があったので、先ずその結果から。

  • ミット・ラムニー(Mitt Romney)、マサチューセッツ州知事、21%
  • ルーディー・ジュリアーニ(Rudy Giuliani)元ニューヨーク市長、 17%
  • サム・ブラウンバック(Sam Brownback)カンザス州代表上院議員、15%
  • ニュート・ギングリッチ、(Newt Gingrich)ジョージア州代表、元下院議長、14%
  • ジョン・マケイン(John McCain)、アリゾナ州代表上院議員、12%

日本の皆さんは多分元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏くらいしかご存じないだろう。正直な話アメリカ人の間でも知名度が高いのはジュリアーニ氏とマケイン議員くらいだ。実を言えば私もこのリストに載っている候補者に関してそれほど詳しいというわけではないので、ここで読者の皆さんと一緒にお勉強したいと思う。
ミット・ラムニー: ラムニー候補が他の候補者より有利な点は候補者のなかで州知事なのはこの人だけだということだ。ジョン・F・ケネディが上院議員から大統領になったのを最後に、その後の大統領はすべて州知事から出ている。アメリカは連邦政府であるから各州が言ってみれば国家のようなものだ。各州にはそれぞれの憲法があり、それぞれの議会がある。だから州知事は規模は小さいが大統領と同じような仕事をしていると言える。
しかし、ラムニー知事にはいくつか問題点がある。先ず知事はモルモン教徒だ。モルモン教はアメリカでは暴力的なカルト集団として始まり、最近まで一夫多妻制を実施しており、違法になっても一部の宗派が時々重婚罪に問われているような宗教である。 また知事は同性愛結婚や人工中絶に関しても数年前までのリベラルな姿勢から、大統領を目指すようになって保守的な姿勢に変えたご都合主義だという批判もある。
ルーディー・ジュリアーニ: アメリカ市民の間では今のところ共和党の候補として一番人気なのがジュリアーニ元ニューヨーク市長だろう。彼のニューヨーク市長としての活躍は世界中でも評判が高い。なにしろ彼の画期的な政策でニューヨークの犯罪率は半減するという快挙を成し遂げたし、911直後に彼が見せたリーダーシップはニューヨーカーのみならずアメリカ中の市民を勇気付けた。ヒラリーやオバマ相手でも常に高い評価を受けているひとで、有力な候補である。
問題なのは、ジュリアーニは保守派ではなく比較的リベラルだということだろう。同性愛結婚にも賛成だし、人工中絶の合法性も守るべきだと言う考えであり、自分も二回も離婚をして三度目の奥さんは二番目の奥さんと結婚している間に不倫をしていた相手だ。二度目の離婚はタレントの離婚のようにマスコミが大騒ぎをしたほどだった。
サム・ブラウンバック: 宗教右翼に人気のある候補者である。実は私はこの人のことを全然知らない。氏自身のウェブサイトでは結婚は一人の男性と一人の女性のみのものであると強調し、同性愛結婚には真っ向から反対な姿勢をみせている。税金の面や小さい政府など保守派の優等生が言いそうなことが並べられている。 今はあまり話題になっていないが、今後に注目というところだろうか。
ニュート・ギングリッチ: 1994年に彼のリーダーシップによって40年に渡る民主党独占から議会を奪い取った改革派である。彼は正式には候補者として名乗りを上げていないが、保守派の間では人気があるようだ。
ただ、当時も今も彼に対する民主党の憎しみは非常に大きい。ブッシュ大統領が民主党にどれだけ毛嫌いされているかを考えたら、ニュートの場合はその何十倍もひどいことになるだろう。民主党はまだ1994年のニュート革命を許していないからだ。
ジョン・マケイン: アリゾナ州代表のマケイン上院議員は一般的に反保守派のアメリカメディアからは好かれており、彼の言動は常に好意的に取りざたされる。それというのもマケイン議員は共和党議員でありながらブッシュ大統領の政策を遠慮なく批判するからだ。彼はイラク戦争では兵が足りないと最初からブッシュ大統領やラムスフェルド前防衛長官を批判していた。ベトナム戦争中にパイロットで北ベトナムで捕虜になった経験もある。
問題なのは彼の行動は予測がつかないということだろう。時として奇想天外な行動をするし、突然ぶっちぎれる節がある。大事なときに民主党と手を組んだりするので、保守派としては信用できないと考えている人も多い。今回の大会にも欠場するという保守派に対して失礼な態度を取ったことも人気投票で下位になった原因かもしれない。
アップデート: 保守派の間ではラムニー候補が人気があるが、一般市民の間ではジュリアーニ候補が人気ダントツ。下記は時事通信の記事より。

ジュリアーニ氏が支持伸ばす=次期大統領選の共和党候補争い-米誌
3月5日7時0分配信 時事通信
 【ニューヨーク4日時事】米誌ニューズウィーク(電子版)が4日までに公表した世論調査結果によると、2008年の次期大統領選挙をめぐる共和党内の候補者争いで、ジュリアーニ前ニューヨーク市長が、マケイン上院議員やロムニー前マサチューセッツ州知事を抑え、支持を伸ばしていることが分かった。
 共和党の有力候補同士の対決では、ジュリアーニ氏とマケイン氏の支持率は59%対34%となり、その差は1月の前回調査(48%対44%)から拡大した。ジュリアーニ氏とロムニー氏では70%対20%だった。

共和党の予選で勝っても一般選挙で勝たなければ意味がない。 共和党は民主党のヒラリーやオバマ、もしくはエドワードなどに対抗できる候補者を選ぶ必要がある。となれば保守派としてはちょっと支持しにくいルーディでもその人気を考慮に入れておく必要がある。


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安倍首相の慰安婦強制性否認発言、米各誌が批判

アップデート:オオニシ記者の邦訳の一部を掲載しました。後部参照。
アメリカでは旧日本軍の俗に言う慰安婦問題が取りざたされることはめったにない。普通のヘッドラインニュースという主なニュースを集めているニュースフィードでは先ず見かけないので私などは常に見逃している。今回も親日オーストラリア人のマットとアメリカ人のゲーリーが経営している英語ブログOccidentalism(オクシデンタリズム)が旧日本軍の慰安婦問題について特集しているのを読んで初めてアメリカで阿部首相の発言が報道されていた事実を知った。全く灯台下暗しというかお恥かしい限りである。
先ずここで私ははっきり言っておくが、私は慰安婦問題の事実関係がどうであれ、旧日本政府がしたことを現在の日本政府が現在の朝鮮や中国に謝る義理はないと考えている。ましてや部外者のアメリカ議会が議決など通して日本に責任を問うなどお門違いもはなはだしい。
安倍総理の慰安婦に関する発言は私が観る限りアメリカの各新聞が批判的な書き方をしている。しかし阿部氏の発言が誤って翻訳され、実際よりも衝撃的な発言として報道されたのではないかとマットは指摘している。元記事になったと思われるニューヨークタイムスの記事を書いたのがあの反日で悪名たかい日系カナダ人のオオニシ記者であるからこの誤訳は意図的なものなのではないかという気もしないではない。 では先ず米各誌が問題にしている安倍総理の発言とは何か。
先ずこれがAPの記事だが、英語を日本語に訳してみると、、(著者はコーゾー・ミゾグチ記者)

東京 – 日本の国粋主義総理大臣は木曜日、日本軍が第二次世界大戦中に女性を強制的に性奴隷としていた事実を否認し、同国歴代政府の謝罪に疑いの影を投げかけアジア近隣諸国とのもろい関係に危惧を及ぼしている。

1993年の性奴隷に関する謝罪を撤回しようとしている政治家のメンバーである阿部新造の発言は「慰安所」といわれた軍売春宿に関して首相としてこれまでにない明確なものであった。
歴史学者たちによると1930年代から1940年代にかけて20万人に及ぶ女性たちが、主に朝鮮と中国から日本軍の売春宿で勤めたという。 犠牲者の多くが日本兵に拉致されたうえ強制的に性奴隷にさせられたと証言している。
しかし9月に首相に就任して以来日本の学校において愛国心を促進する積極的な外交政策を取り入れてきた安倍総理は女性たちが強制的に売春行為をさせられたという証拠はないと語った。
「事実として強制があったことをを裏付ける証拠がない。」と安倍氏は語った。(“The fact is, there is no evidence to prove there was coercion,” Abe said.)
氏の発言は1992年に歴史学者たちが発掘した日本軍が直接仲買人を使って強制的に女性たちを調達していたことを示す書類の示す証拠と矛盾することになる。
これらの書類は、売春宿は東アジアにおいて広がっていた占領軍による無制御な強姦に対応するため日本政府によって設置されたという犠牲者や兵士らの証言にと一致している。.

マットはこの安倍氏の発言は意図的に誤訳されたのではないかと言う。ここでも以前に右翼が日本で言論の自由を奪おうとしていると書いた日系カナダ人のノリミツ・オーニシ記者は安倍氏の発言をこのように訳している。

“There is no evidence to prove there was coercion, nothing to support it,” Mr. Abe told reporters. “So, in respect to this declaration, you have to keep in mind that things have changed greatly.”
強制があったことを裏付ける証拠がない。(強制性を)支えるものが全くない。」と安倍氏は記者団に語った。「であるからこの宣言に関しては、事が大きく変わったのだということを考慮せねばならない。」

二つの記事で私が強調した部分が全く同じ文章であることに注意。普通翻訳をする場合、同じ発言でも翻訳をする個人によって多少言い回しが変わるものだが、APもニューヨークタイムスも全く同じ言い回しを使っているというのが興味深い。 マットによると安倍首相の元の発言は

「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」 そして「定義が大きく変わったことを前提に考えなければならない」

だったのだという。ここで「定義されていた強制性」という言葉が抜けているため、安倍氏の発言がまるで慰安婦問題そのものを否定するかのように表現されてしまったわけだ。
マットが提供している安倍氏のインタビューから解釈すると、安倍氏は「強制」という定義には狭い意味と広い意味があると考えているようで、狭い意味とは日本軍やその手先が婦女子を拉致し連行して無理やり性行為をさせたという意味と、広い意味では貧しい環境にあって売春を余儀なくされたという場合が含まれるというものだ。安倍氏が「証拠がない」と言っているのはこの狭い意味での「強制性」なのである。
私は1992年に公開されたという書類の内容を呼んでいないので、ここにこの強制性がどのように表現されているのか知らない。以前にも坂さんが慰安婦はいわゆる身売りという形でおきたもので強制ではないと書いていたが、同ブログでゲーリーが張っている慰安婦募集の新聞記事が本物だとすれば、日本軍が慰安所を設置していたというのが事実だとしても、そこで働いていた女性たちが(安倍氏のいう狭い意味で)強制されて働いていたという説は弱まる。
日本の歴史上恥かしいことではあるが、身売りによる売春は当時日本でもごく普通であったので、朝鮮や中国でもそのようなことがあったとしても不思議でもなんでもない。私が昔読んだパールバックの「大地」でも日本軍の侵攻前の中国で、主役のワンルンが貧しさのなかで子供を売るかどうか妻と話す場面が出てくる。正直言って家計を支えるために我が子を売り飛ばすなどという習慣は今でも東南アジアでは日常茶飯事なことであり、なにも戦時中の日本に限ったことではない。
確かに女衒に騙されて売春宿に売られた婦女子も多々いたことだろう。なかには金儲け主義の女衒が無理やり若い女性を誘拐したこともあったかもしれない。日本でもサンダカン八番娼館などでも描かれているように、自分の意思に反して売られた子供はいくらでもいる。だが、それを旧日本軍が組織的に奨励していたという証拠はないと安倍氏は言っているのだ。
つまり、このように何処の国でも普通に行われていた身売りの習慣が、単にその働き場所が日本軍専用の宿だったというだけで日本がわざわざ国際的にその「罪」を認めて謝る必要があるのかという疑問が生まれるわけだ。 特に私としては慰安施設の設置が地元の婦女子への暴行を防ぐためというものだったとしたら、それほど悪いこととも思えないのである。
アップデート:
下記オオニシ記者の記事より抜粋(木走まさみずさん訳):

東京、3月1日: 木曜日、安倍晋三首相は、日本の政府の長年の公的立場に逆らって、第二次世界大戦中の日本軍が性的奴隷制度を外国人女性に強制してきたことを否定した。
安倍氏の声明は、政府が否認する準備をしている、売春宿を設置し性的な奴隷制度に女性を強制したことに直接もしくは間接的に軍の関与を認めた1993年の政府声明からは、最も明確に遠いものとなった。 当時の宣言は遠回しに「従軍慰安婦」と呼ばれた女性たちへの謝罪も言及していた。
 「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」と、安倍氏は報道陣に発言。 「定義が大きく変わったことを前提に考えなければならない」(カカシ注:木走さんには申し訳ないが、英語の原文には「当初定義されていた」とは書かれていない。これはカカシが本文中で指摘した通り。)
アメリカ議会下院では、日本政府が戦時の性奴隷制度における軍の役割を「謝罪しかつ認める」ように呼びかける決議について審議を始めている。
しかし、同時期、日本の戦時の歴史を改訂しようとする最近の傾向が保たれている中で、与党自由民主党内の保守派は、1993年の宣言を無効にせよとの主張を促進させている。  安倍氏は、一連のスキャンダルにより支持率が急降下し、リーダーシップが無いと認識されはじめているが、このグループ(保守派)に同調するようだ。 (以下略)

つまりオオニシ記者は安倍首相が下がってきた支持率を上げるために日本の右翼に迎合していると言いたいらしい。


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カカシまた長旅に出る

先週からまた長期出張に入っている。 今回は去年のようにハワイや東海岸ではないので、週末など暇があれば車で実家に帰ることもできると思ってハワイ出張をサンディエゴ出張の同僚と代わって貰ったのだが、こちらの仕事はきついのなんのって。 もう毎日15時間の勤務は普通である。 土日もうかうか休んでいられないとあって、こんなことならいっそハワイへ行けばよかったと後悔している。
とにかく忙しいのでブログを書く暇がない。この週末にはなんとか色々書き溜めて読者の皆さんにご迷惑をかけないようにしたいと思う。
もし更新の頻度が衰えたらそういうことなのでご了承願いたい。


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ブッシュのイラク新作戦-三週目の成績はまずまず

イラクにおけるブッシュの新作戦の経過を折々ご報告しているが、今回もそのシリーズを続けて行きたい。過去の関連記事は次の通り。イラク関係に興味のある方は右側の帯にあるカテゴリーからイラク関係を選んでいただければ、これまでの私のイラクに関するエントリーを読むことが出来るのでよろしく。
効果をあげるブッシュのイラク新作戦
イラクでの殺人減少の兆し、ブッシュ新作戦の効果か?
さて、この三週間のイラクでのイラク・アメリカ連合軍による警備活動は非常に大きな効果を挙げている。jules Crittendenがその総まとめをしているので、英語に自身のある方はそちらを読んでいただければ手っ取り早い. しかしそれでは私が日本語で書いている意味がないので、ここでそのいくつかをご紹介しておこう。
まずは三月一日付けロイターのこの記事によるとアンバー地区にてイラク軍は何十人ものテロリストを退治したとある。

バグダッド (ロイター) – イラク警備隊は水曜日、西アンバー地区の村を襲撃したアルカエダとの丸一日に渡る激しい戦いで、アルカエダの武装勢力を何十人と殺害したと警察当局は木曜日に発表した。
スンニの種族長たちによる同じスンニ派であるアルカエダとアンバー地区の統括を巡って勢力争いは激しくなるいっぽうだ。アンバーは膨大な砂漠地域でスンニアラブ反乱軍の本拠地である….
イラク内政省の報道官アブドゥール・カリム・カーラフ氏は地元民がアルカエダに反抗していたアミリヤットアルファルージャというアンバー地区の村での衝突でアフガニスンや他のアラブ人を含む外国人戦闘員を混ぜた武装勢力80名が殺され50名が拘束されたと発表した。
地元警察のアクメッド・アルファルージ氏は殺された武装勢力は70人で警察菅が三人殺されたと語っている。正確な数の確認はまだ出来ていない。
「あんまり多くの(テロリスト)が殺されたので、確実な死亡者数をお伝えできないのです」と警察はロイターに語った。
目撃者の話によると何十人というアルカエダのメンバーが村を襲撃したため、逃げた村民がイラク競売に助けを求めたことが警察とイラク兵士の動員となった。

この間から地元スンニイラク人と外国人テロリストであるアルカエダとの分裂が激しくなっているという話をここでも何度かしてきたが、スンニイラク人対スンニ外国人との戦いは今後ももっと激しくなると思われる。アルカエダがイラクで勢力を失ってきている証拠である。またイラク軍のお手柄にも拍手を送りたい。
昨日も産経新聞がバグダッドではシーア民兵を温存しているという批判的な記事が載ったのとは裏腹に、実際にはイラク・アメリカ軍の連合軍がシーア民兵マフディ軍の本拠地に徹底的な取り締まりを続けている。
サドルシティでは検問所をあちこちに設け、町の家々を一軒づつ捜索してまわる作戦が取られている。サドルシティ内部での厳しい取り締まり作戦はこれまでシーア派の政治家による反対が強く実施できないでいたが、今回はこれまでとは全く違った徹底したものになるという話である。
さて、問題のバグダッド市内だが、バグダッドはあまりにも静かなため、いつもイラク反戦の主流メディアですら静かだというニュースしか報道できないでいりう。jules Crittendenはそれ自体良いニュースに違いないとして、これまでイラク戦争についていい話しなどめったに書いたことがないAPの記事を紹介している。
バグダッド-(AP) バグダッドは木曜日、ここ数ヶ月において一番暴力事件の少ない日を経験した。二つの爆発で一人が死亡したと報告されている。

アメリカ・イラク連合のバグダッド警向上作戦三週目にしてバグダッドは比較的暴力の少ない日を迎えた。ブッシュ大統領は首都において個々の家々を回って捜索し民兵の非武装化にあたる警備に17,500人の米兵をあてがるよう命令した。

米軍は月曜日路肩爆弾の数も警備作戦が始まってから20%減ったと発表した。また、宗派間の殺人件数もここ一年間で最低の数になったという。

昨日ミスター苺がローカルニュースをテレビで観ていたら、イラクに関しては悪いニュースしか報道しないローカルニュースですらも、ブッシュの新作戦を評価する報道をしていたという。「増派といわずに警備作戦と呼ぶようになったみたいだ。」とミスター苺。そういえば、ロイターでもAPでも「増派」という言葉が聞かれなくなった。
無論アルカエダは今後もあの手この手で攻めてくるに違いない。自動車爆弾テロは成功すれば50人~60人といっぺんに殺すことが出来るので、まだまだ油断は許されない。だが、今のところ新作戦の成績はまずまずといったところだろう。


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イラク掃蕩作戦に悲観的な産経新聞

同じ状況をみていてもこれだけ見解の差があるのかという記事を読んだので、ちょっとコメントしたい。産経といえど主流メディアであることに変わりはないし、何とかブッシュの新作戦のあら捜しがしたいようだ。
「掃討作戦」開始から2週間 シーア派、民兵温存と題して村上大介記者はイラクでの掃蕩は殺人の数なども減り、一見うまくいっているかのように見えるが、これはサドルとマリキ首相が事前に打ち合わせておいた「一時的潜伏」作戦の結果であり、アメリカの作戦がうまく言っているという意味ではないとしている。

イラクのイスラム教シーア派民兵組織とスンニ派武装勢力を標的とした駐留米軍とイラク治安部隊の大規模掃討作戦開始から2週間たった。最大の目標とされていた宗派抗争による無差別殺人は激減したものの、これは宗派殺人の中心となっていたシーア派民兵が事前に潜伏したためだ。シーア派側にうまくかわされた形の今回の作戦では、宗派抗争の実行部隊は温存される一方、スンニ派武装勢力の仕業とみられるテロも続いている。…

汎アラブ紙アルハヤートなどによると、サドル師は、マリキ首相の密使として派遣されたジャアファリ元首相(シーア派)との会談で「マフディー軍潜伏」を決断したという。「掃討作戦の対象はシーア派、スンニ派を問わない」との公式な立場を取るマリキ首相も、マフディー軍の「一時的潜伏」により大規模掃討作戦の目標の半分が、実質的に空振りに終わることを、暗黙のうちに認めていることになる。
 イラクの多数派として政府、議会の主導権を握るシーア派勢力にとって、コミュニティー内部の権力闘争や思惑の食い違いはある。しかし、米軍の段階的撤退が視野に入ってきた現状で、その後も“シーア派覇権”を維持するために独自の軍事力の温存は宗派全体としての中・長期的な“戦略的利益”にかなう。

敵が攻めてくると、さあ~と退いて身の潜め、敵がいなくなったら再び浮上するというやり方は、アラブ人特有の戦闘方法である。 アラブ戦闘員はおよそ踏ん張って守りの戦をするということをしない。このやり方は相手の数が少なく侵攻した領土を相手側が守るだけの人員が足りない場合には成功する。だが、一旦明け渡した領土に敵が居座ってしまったらどうなるのか。以前にもサドルの計算違いで書いたようにサドルはアメリカ軍2万1千の増派の意味をきちんと把握していないように思う。
サドルはこの機を利用して自分が気に入らなかった部下を連合軍に売り渡したりしているが、拘束されていつまでも釈放されずにいるマフディ軍の連中がサドルの裏切り行為を悟るのは時間の問題だ。そうなったとき、彼らは自分らの知っている情報をアメリカ軍にどんどんしゃべり始める可能性がある。どこで路肩爆弾を製作しているとか、どこにアジトが集中してるとか、イランとどのように連絡を取っているとか、エトセトラ、エトセトラ。
また、カカシが予測した次のような可能性も考えていただきたい。

最後にここが一番の問題だが、アルカエダの勢力は昔に比べたら大幅に衰えている。シーア派民兵が抵抗しなければバグダッドの治安はあっという間に安定する。つまり、サドルの思惑はどうでも傍目にはブッシュの新作戦が大成功をしたように見えるのである。アメリカ議会が新作戦に反対しているのはこの作戦が失敗すると思っているからで、失敗した作戦に加担したと投票者に思われるのを恐れた臆病者議員たちが騒いでいるに過ぎない。だが、新作戦が大成功となったなら、奴らは手のひらを返したようにブッシュにこびへつらうだろう。そして勝ってる戦争なら予算を削ったりなど出来なくなる。そんなことをすればそれこそアメリカ市民の怒りを買うからだ。
結果アメリカ軍は早期撤退どころか、イラクが完全に自治ができるまで長々と居座ることになるだろう。

しかし産経新聞はアルカエダとの戦いもそう簡単にはいかないと悲観的である。

米軍とイラク治安部隊は、自動車爆弾の取り締まりに力を入れ、バグダッド市内の通行が不自由になっている。このため、米軍は、武装勢力側が従来以上に「自爆テロ」の手法を多用してくると予測しており、スンニ派武装勢力に限っても、掃討作戦成功へのカギはみえていないのが現状だ。

「掃討作戦成功のカギはみえていない」などと断言できるのは村上大介記者に想像力が無いからである。村上記者自身がイラクでの自爆テロは20%ほど減っていると書いている。これはいったい何が原因だと村上記者は考えるのか。まさかアルカエダまでが潜伏作戦を取っているわけではあるまい。
では何故アルカエダからの攻撃が減っているのか。その理由は簡単だ。イラク・アメリカ軍の対応が向上し、多くのテロが未然に防げるようになったからである。確かにアルカエダの連中はこれからも新しい方法でアメリカ軍やイラク人を攻撃してくるだろう。だがこれまでにも敵の動きにあわせて順応してきた連合軍が、これからも敵の作戦変更に順応できないという理由はない。それを全く考慮にいれずに作戦成功へのカギがみえていない」などとよく言えたものだ。
成功している作戦ですらここまでこき下ろす主流メディア。イラク新作戦の成功は文章の行間から読まなければならないようである。


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