今日の映画はパンズ・ラビリンス(牧羊神の迷宮Pan’s Labyrinth )というスペイン映画。監督と脚本はギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)。日本公開は今年の秋。(映画情報はこちら)
牧羊神が出てくるというから、ナルニア物語みたいな子供用の幻想映画だと思って観にいったらもっと暗くて悲劇的な大人の映画で非常に驚いた。小さい子供には残酷なシーンもありちょっと恐い映画かもしれない。ファンタジー映画のファンだけではなく一般のひとたちにもぜひ見てほしい美しくも悲しい物語である。
例によって映画好きな友達はこの映画がスペイン語で字幕付きだとは全然教えてくれなかったので、突然英語の字幕が現れてかなりカカシはうろたえた。それというのもアメリカではあまり外国語の映画というのは公開されないからで、カカシは画面の下に現れる字幕を読むのに慣れていない。最初の配役紹介の部分では文字を追うのにかなり苦労したが、実際に映画が始まってみると、すぐに幻想の世界に引き込まれ字幕を読んでいるということをすっかり忘れてしまった。
物語は1944年、スペイン戦争後のファシスト政権下のスペインが舞台となっている。主役の少女オフェーリア(Ivana Baquero)は、再婚して身重の母親と一緒にファシスト側の軍人である継父が勤務する森林基地へと車で向かう途中で昆虫の姿をした不思議な妖精に出会う。
母子を迎えた継父のビダル大佐(Sergi López)はゲリラ勢力の強い僻地でゲリラと戦う任務に当たっている冷酷非常な男だ。ゲリラの疑いのある人間は証拠があろうとなかろうと拷問したり殴り殺すことなどなんとも思っていない。妊娠中毒で容態の悪い妻カーメン(Ariadna Gil)をわざわざ危険な戦地に呼び出したのも息子は父親のそばで生まれるべきだという身勝手な考えからだった。ビダル大佐は跡継ぎを守るためカーメンに基地の医者をあてがうが、奥方は絶対安静が必要だというファレイロ医師(Álex Angulo)にいざとなったら母親はいいから息子を救えと命令する。
この寂しい基地でオフぇーリアは妖精に導かれ基地のすぐそばにある遺跡のなかに入り込む。オフェーリアはそこで羊と人間の間の子のような牧羊神に出会い、自分がいにしえの昔別の世界で悲劇の死を遂げた地下の国の姫であることを知る。牧羊神はオフェーリアが姫としての位を取り戻し、地下の国で再び君臨するためには満月までに三つの試練を全うしなければならないと語る。
牧羊神から指示を受けるオフェーリア
オフェーリアの冒険はまるでおとぎ話なのだが、その背景にあるファシストとゲリラの戦いは決して子供だましではなく非情で残酷な戦争である。映画ではオフェーリアの幻想の世界と、現実の世界が交互に境目なく描写される。
オフェーリアは現実社会の基地で親しくなった賄い女のメルセデスが(Maribel Verdú)実は弟のペドロ(Roger Casamajor)がいるゲリラ集団と内通しており、基地の医者ファレイロ医師もゲリラに協力していることを早くから学ぶが、オフェーリアは残酷で非情な大佐とは対照的にやさしいメルセデスやファレイロ医師に同情して秘密を守る。
映画はどちらかというとゲリラに同情的な立場をとってはいるが、政治的なことよりもこれは個人の描写に重点がおかれている。命令されたというだけでどのような非人道的な行為でも盲目的に従うビダル大差と、たとえ命令でもそれが正しいかどうか常に自分の意志で判断するオフェーリアの対照的な姿に注目すべきだろう。
映像は怪しく美しく現実と幻想が交わって最後のほうでは何が現実で何が幻想なのかわからなくなる。おとぎ話の結末は観客の見方次第でハッピーエンドとも悲劇とも言えるが、私はハッピーエンドのほうを選ぶことにした。
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