先日歴史家のドナルド・ストカー氏が書いた「ゲリラはめったに勝たない」(“Insurgencies Rarely Win – And Iraq Won’t Be Any Different (Maybe) By Donald Stoker)という記事を読んで、イラク戦争も多いに歴史に学ぶことがあるなと思って感心した。
ゲリラ戦というとアメリカではどうしてもベトナム戦争の記憶が新しい。しかしストカー氏はアメリカはベトナム戦争からゲリラには勝てないという間違った教訓を学んだという。氏はゲリラは常に勝つどころか、めったに勝たないと断言する。だから、イラクでもアメリカ軍を増派し作戦を変更することで十分に勝利をおさめることが可能だというのである。しかし、イラクでアメリカが勝とうというのであれば、アメリカは過去の間違いから学ばなければならない。なぜならゲリラ撲滅は辛抱強く時間をかけてやる必要があるのだが、ブッシュにはあまり時間がないからである。

ゲリラや反乱軍は不滅であるという神話はアメリカの南ベトナム敗退についてアメリカ人が集団的に誤解したことからはじまる。この敗北は一般にパジャマ姿のベトコンによる卓抜さと軍事力によるものだと思われている。ベトナム人はタフで辛抱強かったかもしれないが、彼等は卓抜ではなかった。というより彼等は単にアメリカという自らの間違いから学ぼうとしない敵に面するという幸運に恵まれただけなのである。ベトコンが面と向かってアメリカ軍と戦った1968年のテット襲撃ではベトコンは惨敗した。1975年に南ベトナムが遂に墜ちた時も、南ベトナムはベトコンによっておとされたのではなく、北ベトナムの正規軍の侵略によっておとされたのである。ベトコンのゲリラはアメリカ民衆の戦う意志を崩壊させる要因となったが、それをいうならリンドン・ジョンソン大統領の戦争のやり方も民衆の士気を弱めた。 ハノイ勝利の鍵は北ベトナムの意志とアメリカの失敗にあるのであり、ゲリラの戦略にあるのではない。

氏はソビエトのアフガニスタンでの敗北についても同じような誤解があるという。これにしてもムジャハディーン(アフガニスタンの反ソビエト反乱軍)がソビエトを追い出したというよりも、ソビエト内部の経済および内政の混乱が原因だったのだと言う。
カカシはここでもうひとつアフガニスタンの反乱軍が勝った理由を付け加えておきたい。それはアメリカや諸外国が反乱軍に武器供給を惜しみなく与えたということだ。
ストカー氏も書いているが、反乱軍が一般的に成功しない理由は、組織力と資源に乏しいからである。あっちで一発、こっちで一発、といった散発的な攻撃をいつまでもやっていれば、いずれは弾も人間も乏しくなり戦闘は尻つぼみとなる。資源も人員も豊富な一国を相手にこのような方法ではいずれ負ける。だから反乱軍が勝つためにはこの二つの点をどうにかして確保する必要がある。
であるからイラクでの問題はイラクの反乱軍を倒すことができるかどうかということではなく、アメリカがその機会を逃してしまったかどうかにかかっている、とストカー氏は語る。
私はもうずいぶん前から、アメリカ軍がスンニ派反乱軍のアジトなどで何百という武器を発見したとか、フセインがイラク各地に隠しておいた爆弾だの銃器だのをトン単位で破壊してきたことでもあり、もうそろそろ反乱軍は人も弾も足りなくなっているはずだと考えていた。
現に2005年くらいには、テロリスト攻撃はかなり弱体化しており、アメリカ軍や保守派の間でも希望的な気持ちが高まっていたのである。それが2006年になって再びおかしな状態になってきた。私はいったいイラクの反乱軍はどこから武器弾薬や人員を補給しているのだろうと不思議に思ったものである。
最近になってその原因がイランにあることが明らかになってきた。アメリカがイラクで勝つためにはこのイランからの供給ラインを切断することが最優先されなければならない。まずイラクとイランの国境を固めること、そしてイランに政治的、経済的、軍事的な圧力をかけ、イラクの反乱軍を援助することがイランのためにならないことを思い知らせることが大切だろう。
ストカー氏はイランの話はしていないが、増派による新作戦はゲリラ反乱軍を倒す可能性を非常に高めたと語る。だが氏が一番心配しているのはアメリカがすでに反乱軍を倒す機会をのがしてしまったのではないかということだ。

一つ確かなことは時間が迫っていることだ。ゲリラとの戦いは普通8年から11年はかかる。だがブッシュ政権はアメリカ民衆の世論にあまりにも無関心であったため、このような戦争に関する説明を全くしてこなかった。それで市民の戦争を支持する気持ちはほとんど使い果たされてしまったのである。イラクでの一つの悲劇は反乱軍に対する勝利をおさめるには作戦変更がおそすぎたかもしれないということにある。

アメリカはアメリカとイラクのためだけでなく、自由を愛するすべての社会の安定のためにもこの戦争には勝たねばならない。なぜならこの戦争に負ければ戦争が終わるのではなく、新たな戦争が始まることになるからだ。その時はアメリカもそして欧州も日本も恐ろしい戦争に巻き込まれることだろう。
新作戦の成功を切に願うものである。


2 responses to ゲリラには勝てないという神話

asean15 years ago

こんちは、カカシさん
う~~ん、このストーカーさんだかは何を言ってるんですかね?
イラクがヴェトナムと同じとは僕でさえも思いませんが、似ていることがあるとするなばですね
アメリカこそが学習能力が無い!ことですよ。
確かにヴェトナムでは個々の戦闘で米軍が壊滅的な負けを喫したことはありませんが
結局、米軍(米国)はヴェトナムからほぼ負けに近い格好で”撤退”してしまったのです。
ヴェトコンとそれを隠れ蓑にした北ヴェトナム軍のゲリラ戦法は十分にその効果を発揮しましたよ。
米軍をヴェトナムから追い出したのですから(その後の南ヴェトナム軍との戦いは旧来型の正面決戦型でしたから
敵方の兵力を縮減させるという意味では効果絶大だった)
つまり、ゲリラ戦も現代のテロ攻撃も(特にイスラム原理主義型のテロの場合は顕著ですが)個別の攻撃自体で
”勝利する必要性は無い”のです。
何せ自爆型ですよ、実行部隊の生存を無視した攻撃を仕掛けるのです。
その効果は今回の米国中間選挙の結果として十分に現れているのではありませんか?
それに装備が底をついて来た、なんてのもちょいとナイーブ過ぎますね。
農薬を使用した強化型爆薬で連邦ビルが崩壊し、タンクローリーを使った自家製の燃料気化爆弾で海兵隊基地が
用を成さなくなった。
個々の攻撃に勝ったの負けたのという言説が出てくるようでは、先が知れているのじゃないですか?
(苦し紛れにも感じますね)
現在の米軍がしなくてはならないことは、自殺型のテロリストやその攻撃と”戦う”ことではありません。
如何にして、そうした自爆型テロ攻撃を「周辺化」してイラクの一般的な国民の生活にそうしたテロの被害を
小さくしていくか!(完全に阻止することが出来ませんから)なんです。
イラク国民が米軍と新しいイラク国軍が十分ではないにしろ自分達の生活を護ろうとしている!っと
具体的に認識することが出来て初めて米軍の最終的な撤退の再にヴェトナムのように
母国へ逃げ帰らずに済む・・・はずなんですが。

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In the Strawberry Field15 years ago

フランス軍に学ぶイラク戦争に勝つ方法

過去から学ばない者は必然的に過去の過ちを繰り返す、とはどっかの有名な歴史家が言ったのだろうか、今は誰とは思い出せないが。 以前にイランをどう攻めるかという話をした時にもちょっと紹介した歴史家アーサー・ハーマン氏がHow to Win in Iraq. And how to lose.(イラクで勝つ方法、そして負ける方法)というエッセーでアメリカはフランスとアルジェリアとの戦いから多いに学ぶことがあると語っている。 以前に私は別の歴史家、ドナルド・ストカー氏の『ゲリラはめったに勝たない』という意見を紹…

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