最近よく、「イラク戦争には反対だがアメリカ軍は支持する」と言う人がリベラルの、特に政治家の中で増えている。民主党のジョン・ケリー議員が「勉強にしないとイラクへいくはめになる」とアメリカ軍人をバカにした発言をして以来、人気急下降で希望していた大統領選挙への出馬を断念せざるおえなくなったのでも分かるように、アメリカ人はアメリカ軍人をバカにされるのが大嫌いである。
アメリカリベラルの間では軍人を嫌うのが日常茶飯事になっている。自分達の内輪ジョークではしょっちゅう軍人の悪口を言っているから、つい公式の場でもうっかり軍人の悪口をいってしまうのだろう。だが、賢い政治家になってくるとそんなへまはやらない。下院議長のナンシー・ペロシもことあるごとにイラク戦争の批判をしながら、演説の最後にアメリカ軍を支持すると付け加えることを忘れない。2008年の大統領選挙希望の星、ヒラリー・クリントンもアメリカ軍への予算を削ってはならない、とアメリカ軍への支持を強調している。
しかしアメリカ軍人がやっていることを真っ向から反対し、現場の軍人が必要だと訴えている援軍の出動に異議を唱え、アメリカ軍人の仕事がやりにくくなるような決議案を通し、アメリカ軍人をより危険な状況に陥らせるような行為ばかりをとるリベラル政治家の口先だけの「軍隊支持」にはいい加減アメリカ軍人もうんざりしている。
この間アメリカのテレビ局NBCで、リチャード・エンゲル特派員がそうした軍人へのインタビューをし、戦地で戦う兵隊さんたちが祖国の偽善者たちに口々に不満を漏らす映像が放送された。

エンゲル:新しい兵士らが慣れなければならないのは新しい任務だけではありません。彼等には他に心配なことがあります。それは祖国において高まっている戦争討論です。ここにいる兵士らは口々にアメリカ市民の戦争批判に関して不満がつのっているといいます。兵士の多くが自分達が戦っていることへの批判は自分達への個人攻撃であると受け取っています。21歳の技術者、タイラー・ジョンソン兵は今回初めてのイラク任務です。彼は戦争に猜疑心のある人たちは批判する前にここへきて現場を自分の目で確かめてみてはどうかといいます。
タイラー・ジョンソン兵(Specialist Tyler Johnson):..人が死んでんですよ。分かります? 俺のいってること? あんたたちは軍隊を支持するとかいうかもしれないけど、軍隊が汗水たらして血流して命落としてがんばってることを支持しないっていってるわけですよ。そんなの俺に言わしたらおかしいっすよ。
エンゲル:マヌエル・サハガン伍長はアフガニスタンでも勤務し、イラクは4回目の任務です。彼は祖国の人々は両方を支持することはできないといいます。
マヌエル・サハガン伍長:(Staff Sergeant Manuel Sahagun): ひとつ私が一番嫌いなのは軍隊を支持するといいながら戦争を支持していないということです。支持するなら全て支持してほしいです。
エンゲル:ピーター・マナ兵は人々は戦争がどれだけ大変なものか忘れているといいます。
ピーター・マナ兵(Specialist Peter Manna): もし人々がおれたちがちゃんとした仕事をしてないって思うなら、おれたちがやってきた全てが無駄だったっていってることになる。
リチャード・エンゲル:アパッチ隊は二人の兵士を失いました。兵士たちは同士が命を捧げた任務を捨てざる終えなくなるのではないかと心配しています。NBCニュース、リチャード・エンゲルがバグダッドからお伝えしました。

この番組を見ていて腹がたったのはワシントンポストのコラムニスト、ウィリアム・アーキン(William Arkin)だ。彼は早速翌日のコラムにアメリカ軍人は文句をいうどころか、『反戦でありながらアメリカ軍を支持しているアメリカ市民に感謝すべきだ、アメリカ軍人は志願者だけの傭兵のようなもので、市民から唾を吐きかけられないだけでもありがたいと思え』という内容のコラムを書いた。リンクはすでにつながらないので私が保存しておいた元記事から抜粋する。

これらの兵士らは、世論調査では圧倒的にブッシュ大統領のイラク戦争のやり方を支持していないアメリカ市民が、それでも軍隊を支持し尊敬していることに感謝すべきである。
アルグレーブだの、ハディーサだの、強姦や殺人が起きる度にアメリカ市民は一部の不届きものによるしわざだとか、政権や司令部の責任だといって軍事を赦免してきた。
そりゃ確かに下っ端兵隊は監獄送りになる。だが反戦運動ですらその焦点はホワイトハウスの方針だ。近頃では制服組のひとりとして「赤ん坊殺し!」などといわれて唾を吐きかけられるなんてことはめったに聞かない。
そのうえ我々は兵士にまともな給料を払い、家族の面倒をみて、家裁だの医療費だの社会保障をし、戦地で必要とされる訳の分からない必需品まで供給している。我々は軍隊をできる限りのやり方で援助しているというのに、彼等はその上にさらに、我々に地べたにはいつくばって死んだふりをしろというのだ。軍人たちは自分達が社会の掟を超越しているのだから軍隊に道を譲り将軍たちに戦争をさせろ、そして我々の権利や言論の責任を放棄しろというのである。

アーキンは911以後のアメリカ政府の対テロ戦争の意味が理解できないという。本当にイスラムテロリストによる脅威などあるのだろうかとさえ問いかける。

NBCのこの放送はアメリカが傭兵、おっと失礼、志願兵軍、を持つことの代償を思い知らされる。汚い仕事というのは、洗濯と同じで誰もやりたがらない。しかしイラクは汚い洗濯物を洗うのとは違って誰かがやらなければならない仕事ではない。もう誰もそんなことは信じていない。
兵士らが仕事をするためには、自分らが大事な防御壁を守っているのだと信じなければならないというのは分かる。そこから彼等の不満が生まれるのだということも理解できる。彼等は若く無垢で自分らの仕事が全く成果をあげず、何の変化もない状況に不満を持っているのも理解できる。世間から遮断され常に誰もが彼等を支持すると聞かされてるのに祖国での討論で混乱するのも無理はない。

アーキンは、アメリカ兵は世間知らずの教養のないバカばっかりで、自分らの戦っている戦争が意味のないものであることすら知らずに戦争を批判する人間に八つ当たりをしている、とでも言いたげだ。実際にはアメリカ兵はイラクでもインターネットで世界のニュースを知ることができるし、その上に現場の状況を把握しており、アメリカでパジャマを来たままソファに座ってパソコンたたいてる我々なんかよりよっぽども正しい判断のできる立場にいるのだ。
これを読んで怒ったのは現役軍人だけではない。記事は軍人の家族、親戚一同はもとより、保守派ブロガーや軍隊を支持している一般市民の逆鱗に触れた。ワシントンポストへはよっぽど大量の苦情が寄せられたとみえ、元記事はオンラインからは削除され、本日アーキンはネット上で謝罪を余儀なくされた。(元のリンクへいってみるとたちまちのうちに600以上のコメントが寄せられたため、サイトは一時閉鎖されたと注意書きがあるほどだ。)
もっとも昨日ラジオのインタビューで彼は『発言を撤回するつもりはない、アメリカは負けている、アメリカ軍は教養が低い』などと息巻いていたから、謝罪文は編集部に言われて仕方なく書いたもので心のこもったものでないことは明白である。
アーキンのように軍人は黙って戦争やってろというような奴に限って自分が批判されると言論の自由を迫害しているといってごねるのは常だ。しかしアーキンは決して軍人が文句を言う権利がないとか、唾をはきかけられるべきだとか言ったのではなく、軍人も反戦でありながら軍隊を支持しているアメリカ市民に感謝すべきだといいたかっただけだと強調している。私には全くそうは読めないけどね。とにかくこの謝罪文の一部を読んでもらいたい。

私が今日のアメリカ兵を傭兵と表現したことは明かに誤りであった。
(軍隊の)男女はお金のために国家おざなりに働いているのではない。現状はもっとひどい。制服を着ている非常に多くの人々が自分らこそが本当の国家だと思い込んでいる。彼等は憲法と国旗の影に隠れ反民主的、反リベラル、反ジャーナリズム、不寛容、多少でもアメリカに反する考えを否定する姿勢をとっている。
私が「軍隊もアメリカ市民を支持すべきだ』が火曜日に掲載されて以来、多くの人々から私は黙って他者が私のために犠牲になっていることに感謝しろと言われた。

これが謝罪?謝罪どころかアメリカ軍人を傭兵などといったのは生易しすぎた、アメリカ軍人は自由も民主主義も信じない暴君だと言い直しただけではないか、なんというごう慢さだろう。
私は戦争そのものを支持できなくても軍隊を支持することは可能だと考える。私はクリントン大統領政権下で行われたコソボ・ボスニアの戦争には大反対だった。しかし出動した軍人たちの任務が失敗すればいいなどとは思ったこともないし、戦地へ行った人々には「がんばってね、無事にかえってきて下さい」と激励の声をかけた。戦争そのものが間違っているとしても戦っている兵士らに責任はないではないか、彼等に八つ当たりしてどうなる?
アメリカ軍人が文句をいっているのは、アーキンのように戦争に反対なだけでなく、その戦争で戦っている軍人を軽蔑している人間が、社会からつまはじきにされるのを恐れるばかりに口先だけで軍隊を支持しているなどとでまかせを言っている人間に対してのものだ。家族と別れて危険な場所で感謝もされない仕事をしている兵隊さんたちのことを一度でも真剣に考えたならば、こんな下らない記事はかけないはずだ。アーキンのようなバカが自由にものがいえるのも、我々の勇敢な軍人たちが命がけで戦ってくれているからだ。
すこしは感謝しろ!


3 responses to 戦争を反対して軍隊を支持できるのか?

アラメイン伯17 years ago

軍務にたずさわるのは尊い任務なのです。
英国では高貴の人の義務とされています。
命を的にして祖国のために戦っている兵士達をおとしめるような言動は品格のない行為です。
アメリカも日本も、幸せに暮らせるのはイラクで戦っている人達がいるからです。
コラムニストなどという他人の批判ばかりする卑しい職業の人には解らないだろうけど。

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asean17 years ago

おはようございます、カカシさん
(システムダウンしていたんですかぁ、どおりで繋がらなかった訳ですね・・)
ところでコラムの内容はともかく「米軍が”傭兵化”している」というのは事実だと思いますね。
(傭兵=野蛮、能無しetc・・っと言う意味ではありませんが)
民主党でのオバナなんかは多分悩んでいると思います、米軍の予算を削ったすると、イラクに駐留している部隊の行動に
迄影響が出る恐れがありますから、そうなると
米国の上院が自国の軍隊を見捨てた!っとなってしまう。
(旧欧州帝政時代は傭兵しか持っていなかったので、国王が給与の支払いを渋ったりが茶飯事だったので
傭兵は自活するしか方法が無かった:貴族が参戦した昔の英国でも無給だった:故に略奪をしないとならなかった
・・・事実が何時の間にやら傭兵=残酷、非道みたいな印象になちゃったんですが
つまり、海外へ派遣した自国軍に自分達で何とか喰って行け!ってな政策は征服、占領しろ!っと同じなんで、非常に不味い訳で)
しかし、問題なのは米国が大衆政治型の民主主義である為に、国民が嫌がることを議会は決定出来ない。
RMA型のコンパクトな軍隊は効率が良いだけに(多分)”使いやすい(大規模な旧タイプと違って)”
しかし、WWII迄のように
国家を挙げての総力戦”型”(国民の圧倒的な支持を取り付けて、っと言う意味ですが)の
軍事行動はなかなか出来なくなっている。
軍隊は生産性とは無縁の存在ですからその維持には国民の税金だけで運用される。
つまり、戦闘継続派(拡大派とは言いませんが)、即時撤退派双方にとって「傭兵」みたいな存在でしか
なくなっているのが現在の米軍の立場ではないでしょうかね?
(僕が以前、傍観者~的なことを書いたのはその為なんですが、米軍自身も実はそういう認識になりつつあることを知っていますよ、知っているからそれを
無責任に正面から言われると怒るんですけどね・・・)
とにかくイラク攻撃に関しては、アフガン攻撃とはちょっと性格が違いますんで、
(アフガンは完全に9.11への報復攻撃であって、イラクは懲罰的意味合いの強い攻撃)旧フセイン政権を崩壊させた時点で
「ヘン!ざまぁ~見ろっ!」ってな感じで手を引いちゃえば良かったんですけどね・・・
それを民主主義の確立とか何とか言う理屈を捏ねるから「税金を支払って”オーナー”でもある大衆」からは
「何をしておるんじゃっ!」ってなことになってしまう。
かと言ってブッシュ政権は今更「サウジとの間で、安全保障する代わりの見返りがある」やらは言える訳もない。
(アルカイダの連中にしても、イラク人でもイラン人でもなくサウジやエイジプト国籍の人間が中心ですし
湾岸戦争で米軍の支払いで底をついたサウジの外貨準備高も原油価格の高騰で何とか元に戻った・・が故に
原油価格の高騰も一段落したんじゃないですか?)
まぁ~いずれにしろ、立ち入ってしまった訳なんで、最後迄面倒見見ることが米国の誇りと尊敬を取り戻す
方法でしかないのは事実です(故にクリントンの理屈は成り立たないですね)。
何度も言いますが、自軍の損害を最小限にしたいのなら戦略核兵器を躊躇無く使ってしまうことです。

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scarecrowstrawberryfield17 years ago

アセアンさん、
イランのイラク関与についても書きましたので、ぜひ読んでみて下さい。イランの話はこれからもどんどん出てくると思いますよ。

自軍の損害を最小限にしたいのなら戦略核兵器を躊躇無く使ってしまうことです。

アセアンさんは本当に恐いことをいうなあ。(笑)イラクではあり得ませんが、イランではあり得るシナリオでしょうね。
カカシ

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