北朝鮮の核実験の文脈で日本の核武装が話題になっている。 私もこのことについては北朝鮮核兵器実験と日本の核開発ええ~? 日本の核がアジアを救うって?でちょっと触れてきた。
実は私は日本が核武装をすべきなのかどうか、という問題に関してはまだはっきりとした結論を出していない。双方の意見を聞くたびに、「なるほど~、そうか~」と考えがあっちへいったりこっちへいったりするので、まだまだなんともいえないのである。そこで今回は賛成意見も反対意見も両方紹介して読者の皆さんと一緒にこの問題を考えてみたい。多分この問題は今後も何度も訪れることになるだろう。
先ずアメリカのブッシュ政権は日本の核武装には大反対である。このあいだアメリカのコンデリーザ・ライス国務長官がわざわざ日本へ訪れて、日本は安保条約でアメリカの傘下にあるから核兵器開発の必要はないと暗に日本核武装への釘をさした話は昨日もしたとおり。 どうしてブッシュはこうも日本の核武装を嫌がるのかねえ、とミスター苺と話していたら、「それは君、ブッシュはなんだかんだいっても外交面ではかなり凡人なんだね。昔堅気の気性だから核武装はよくないという先入観から抜けきれないんだろう。」という答え。
これまでにも日本が核兵器を持つべきかという話題が上ったことは何度もある。だが、それは常にアメリカが中国に北朝鮮の核開発をやめさせる圧力のひとつとして使ってきた脅しであった。つまり、もし中国が北朝鮮への財布の紐を締めないなら、日本が核武装して大変なことになるぞ、といういわゆるハッタリ核カードであった。 アメリカも日本も本気で日本を核武装しようなどとは毛頭考えていなかったのである。
しかし北朝鮮が実際に核実験を行ったことで、(いくら失敗とはいえ)この事情は大きく変わってしまった。アメリカでも昨日紹介したチャールズ・クラウトハンマー氏だけでなく、極わずかではあるが、他にも日本の核武装は実際に中国に圧力をかける実態のあるものとして考えるべきときが来ていると語る人たちがいる。
古森 義久氏は10月13日のコラムのなかでそんな意見を紹介している。(カツラギさん紹介)

ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたデービッド・フラム氏がニューヨーク・タイムズ10月10日付に発表した寄稿論文での主張である。フラム氏はこの論文で北朝鮮とその背後にいる中国を厳しく非難していた。北朝鮮が米国をはじめ国際社会をだまして、核実験に踏み切り、しかも中国はその冒険を阻止できる立場にあるのに止めなかった、と糾弾している。だから米国は北朝鮮と中国にそんな危険な挑発行動への代償を払わせるために一連の断固とした措置をとるべきだ、と主張している。

フラム氏はそのなかで日本について次のように述べていた。
「米国は日本に対しNPTを脱退し、独自の核抑止力を築くことを奨励せよ。第二次世界大戦はもうずっと昔に終わったのだ。現在の民主主義の日本が、台頭する中国に対してなお罪の負担を抱えているとするバカげた、見せかけはもうやめるときだ。核武装した日本は中国と北朝鮮が最も恐れる存在である」。
「日本の核武装は中国と北朝鮮への懲罰となるだけでなく、イランに核武装を思いとどまらせるという米国の目標にも合致する。日本の核武装の奨励は、他の無法国家がその地域の核の均衡を崩そうとする場合、米国とその友好諸国がその試みを積極果敢に正そうとすることをイランに知らしめることになる。米国はイスラエルの核攻撃能力を高めることもできるのだ」

日本に関する同氏の主張で注目されるのは、米国にとって日本は核兵器開発を促せるほど信頼できる同盟国だとみなしている点であろう。米国からみて日本が敵に回りかねない不確定、不透明の国家であれば、そんな国の核武装を奨励するはずがない。

無論日本が核武装などとんでもないという意見の方がアメリカでも日本でもまだ大半を占めているようだから、今後これがどういうふうに発展していくのかは定かではない。このトピにもよくコメントを下さるアセアンさんはアメリカが日本の核武装「ブラフ(はったり)」を応援しようなど「ナンセンス以外のなにものでもない」とし、日本とアメリカの双方の国益にも全くプラスにならないと言い切っておられる。

五百歩以上譲って(・・・)日本が核武装したとして(その前段階をすっ飛ばしてますが)その核の目標は何処に向けられているのか?ですね

中国?韓国?ロシア?それとも米国?・・・日本の核武装には米国にとって大きなパラドックスを含んでいるんです。
つまり日本が核武装を行えば、当然現在の日米安保による「核の傘」は外されることになる・・・乱暴な言い方をすると米国はハワイ以西に米軍を駐留させる意味が消失する。
日米同盟が日本の核武装後も堅持される保障がそもそもなくなるんですよ。(米英同盟・・・ってのはその意味合いが違いますからね)。 現在の米国の国是でもある「核拡散を防止する」どころの話じゃなくなるのです。
当然、核武装の開発維持には膨大な費用を必要としますから、日本はGDP1%枠なんてことは言ってられなくなる。
(米国の国防予算4,236 億ドル:約42兆円:に対抗する?それとも現行約5兆円の防衛予算をDGP10%枠に拡大して約50兆円にでもする?)
だとするなら、当然、国民負担を軽減しよう、という話になって、日本は武器輸出三原則と非核三原則も廃止して、武器輸出国になる決意をしなくてはならない(日本のお家芸でもある、軽薄短小技術を最大限生かして低価格高性能な核兵器を輸出でもしないことにはね、MHIを筆頭に本音では武器輸出したい企業は五万とある:多分、儲けもあるだろうけど、自社製の戦闘機でもMBTでもが活躍する姿を見たい!ってな技術者の能天気な願望だけかも知れないですけどね)
つまり”世界の超大国であり続け、世界最先端の軍事技術大国であり続ける”という米国の基本が日本の核武装を容認することで崩壊する可能性が高くなるんです・・・許せますか?そんなこと米国が?

実はラムスフェルド国防長官はアメリカ軍の構成をかなり変革しようと努力してきた。これまでのような歩兵重視の物量作戦ではなく、小さな独立した部隊が臨機応変に対応できる軍隊つくりを目指してきた。そしてその一部として、地元同盟軍の大幅な起用がある。ラムスフェルド長官は世界で危機が起きるたびにアメリカ軍が大量に繰り出す昔風の戦争を嫌い、なるべく地元の軍隊を駆使しアメリカ軍は指導及び後方援助に回るというやり方を好んでいるのだ。イラクで圧倒的多数のアメリカ軍を動員してイラクを完全制圧してしまわず、わざわざ面倒くさいイラク軍養成などという回りくどいことをやっているのも、将来中東の安全は中東の国々に任せたいという思惑があるからである。
これは大げさには取りざたされてはいないものの、フィリピンや中南米などでも行われていることなのだ。そして東洋では韓国がいい例だろう。何故、最近アメリカは勧告に軍の総指令権を移譲しようとしているのかといえば、韓国の防衛はいい加減韓国にやってもらおうという考えからである。 
ではその延長として、極東の防衛はそろそろ日本に肩代わりしてもらってもいいのではないか、と考える人がでてもこれは一言でナンセンスとは言い切れないと思う。
アセアンさんがいみじくもおっしゃっているが、「日本が核武装を行えば、当然現在の日米安保による「核の傘」は外されることになる・・・乱暴な言い方をすると米国はハワイ以西に米軍を駐留させる意味が消失する。」というのは果たしてアメリカにとって悪いことなのだろうか?
アメリカが超大国で軍事最強国であるという事実が日本が核兵器を持ったくらいでそう変化するとは思えない。だが、たとえ日本が今よりもずっと経済的にも軍事的にも強国となることが実際に悪いことなのかどうかは、日本がどれだけ世界平和への熱意を真剣に保持しているかにかかっている。日本が昭和初期のような軍事独裁政権をいまだに奨励するような国だというなら話は別だし、共産主義に傾きつつあるというならこれも問題だ。
だが、クラウトハンマー氏やフラム氏が言うように、日本は過去60年にわたってもっとも安定した民主主義を保ち、太平洋戦争の壊滅状態から世界にほこる経済大国へと発展した。(その間諸外国を占領しようなどとは微塵も考えず。) アメリカが日本の核武装を容認するかどうか、それはアメリカがどれほど日本を信頼しているかにかかってくるだろう。
ただ、ひとつ心配なのは核武装が与える中国以外のアジア諸国への影響である。
アセアンさんは日本が核武装した場合の東南アジアへの悪影響は多大だとおっしゃる。中国を威嚇するどころかかえって彼らの危機意識を激化させる。またベトナムやタイなどのアジア諸国は太平洋戦争時代の日本への不信感と脅威がよみがえり、東南アジアに進出している日系企業を対象にテロ行為にでないとも限らない。そうなった場合、日本は海外の日本人や企業を守るために自衛隊を海外派遣するなどという軍事力などない。核兵器では正体のわからないテロリストを威嚇などできないのだと。
日本が核武装をするとなると、核兵器開発だけではことは収まらない。それに付随する政治的軍事的な影響も考えて、日本は日本の軍事を根底から覆して考え直さなければならなくなる。 もし日本が本気で核開発に挑むなら、日本もアメリカもその影響を充分に覚悟の上で始めなければならない。


6 responses to 日本の核武装とアメリカの思惑

sou18 years ago

一応、事実関係の確認をば
まずアメリカは自らの世界覇権戦略として日本などの同盟国へ積極的な軍事的な役割も担わせるよう戦略変更しようとしている(なんてずうずうしい奴らだ!)。
イラクでもこうした戦略を進めたが、軍人たちも予想した通り失敗しつつあるようだ。こうした戦略が本当にアメリカの国益にかなうのかも疑問ではある。
日本の核武装までも含む軍事力強化も当然、この戦略上にある。
それとは全く別に最近、頭の悪い安倍新政権とその取り巻きたち(産経新聞、古森義久氏など)が突然、表面上は親米派を装いながら勝手にアメリカの意を無視した外交を展開しようと考え始めた(バカ)。
アメリカはそれに気づき、日本の新政権は危険な極右政権であり暴走しかねないなどとレッテルをつけられそうになった(靖国バッシング、核武装バッシングなど)。
安倍首相はアメリカから「中国と(今んとこは)仲良くしなさい!」と叱られてしまい、すっかりおびえあがって訪中訪韓してこれらの国々に謝って回った(ほんとバカ)。
これらの経緯でアメリカ(のメディア上)における日本核武装論への評価も分かれることになった。
一方、日本でも必死な「アメリカを裏切っちゃいませんよ」というアピールと、「必要とあらばアメリカのためにアジアでの軍事的役割を担いますよ」というアピールが同時に必要となった。そのため「私は非核三原則論者だが核武装の検討は必要だと思う」などという意味不明な発言をする閣僚まで現れることとなりました(こんなのまともな民主主義国家じゃない!)とさ。

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Sachi18 years ago

souさん
私はイラク戦争は失敗しつつあるとは考えていません。難しい状況にあることは確かですが、少しづづ進展はあるので。ここではあまりイラクの話をしていないので、そのうち折をみてイラクからのいいニュースも紹介します。

まずアメリカは自らの世界覇権戦略として日本などの同盟国へ積極的な軍事的な役割も担わせるよう戦略変更しようとしている(なんてずうずうしい奴らだ!)。

私にはこの意味が全く解りません。北朝鮮の脅威は本物なわけで、北朝鮮の暴走で迷惑するのは何もアメリカだけじゃありません。だったらいざというときに被害が大きい日本や韓国、それに中国にしたって北朝鮮からの防衛に対しそれなりの荷をおったからといってどこがおかしいのでしょう?
世界で問題が起きるたびにアメリカだけが世界の警察みたいにのこのこ出て来るのはsouさんだって嫌じゃないですか? ラムスフェルド長官は、地元のことは地元が面倒みられるように、と考えているだけです。
私は安部総理の訪中と訪韓で得たものはかなりあり、決して謝るために行ったとは思いません。
カカシ

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asean18 years ago

こんにちは、カカシさん
ちょっと訂正願いますです。後段以下の部分
>ベトナムやタイなどのアジア諸国は太平洋戦争時代の日本への不信感と脅威がよみがえり、東南アジアに進出している日系企業を対象にテロ行為にでないとも限らない。そうなった場合、日本は海外の日本人や企業を守るために自衛隊を海外派遣するなどという軍事力などない。核兵器では正体のわからないテロリストを威嚇などできないのだと。
ちょっとMSN-BBSで書いた内容と違います。正確には
日本の核武装の目標が中国、DPRK(その時点で存在しているかは別にして)ということが明確になれば
(目標が何処かを明確には戦略上しませんが、誰でも容易に想像が付く訳で)中国の日本への脅威意識は跳ね上がるのは当然ですが、同時にヴェトナムの対日本脅威意識も跳ね上がる。
戦略、戦術的に日本国内でのテロ行為は余り効果がないので、インドシナ域内での日系企業、在留邦人に対するテロ行為の方が効果は高いと当然考えます。
首謀者、実行犯が誰かを隠蔽する為に、ヴェトナム対タイの底にある「相互不信感」を利用して「タイ国内の日系企業、在留邦人に対するテロ」を実施する可能性が高くなる。
余程の軍備増強を行わない限り日本の兵力をASEAN域内に邦人保護の名目で派遣することは難しいでしょうし、実施した場合完全な兵力分断が成功する。
それを避ける為にせっかく核武装したのですから、その核兵器で中国、ベトナムを威嚇しても相手には「やっぱり、日本は」っと得心させるだけのモノしかないですし、内政的に不安定要素を抱えている地域でのテロ行為は本当に日系企業だけを狙ったモノなのか、それとも現在もある分離独立運動の延長なのか、それともイスラムテロ組織なのかの区別も出来ない。
(言いがかりだ!とUN等で非難されるのは日本ですよ)
っというものですね。
核拡散の問題は、情勢不安要素を数多く抱える第三世界において現実的な問題として現れることなんです。
抑止力になるだろう・・・なんて考えは先進国のそれこそ平和ボケした人達の楽観論でしかないのです。
ASEAN域内で最も民主化しているはずのタイで「軍事クーデター」が発生したことをしっかりと認識してもらいたいものです。
(クーデター発生後のCDR議長がタイ初のイスラム教徒であるにも関わらず、南部のテロ騒動は一向に収まる気配を見せてもいません・・・)
隣国、他国との戦争が民衆の支持なしでは出来ない・・等と呆けた理屈は先進国”だけ”でしか通じない呪いでしかないのです。
持てば抑止になる等と言う阿呆な理屈は、闇雲に反対するのと同じレベルの話なのです。

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asean18 years ago

こんにちは、カカシさん。
米国のプレゼンスが低下することとは、米国が世界の超大国として認められなくなること同義になってしまうのです。
つまり、ラムズフェルドのやり方だと、米国は恐れることはない存在として認識されてしまう可能性が高いと思いますね。
世界で唯一の超大国であり続けたいのであれば・・・
それと、日本の核武装化と米国のプレゼンスの低下で想定されるASEANでのシミュレーションをご参考迄に
A scenario to isolation:Indochina crisis-1
Fictionではありますが、登場人物の思惑は(多分)事実だと思います・・・
問題大きいんですよ、ホント

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sou17 years ago

今更お返事を…
そうですねー。イラクで何人のアメリカ人が死のうとイラク戦争の成否とは関係ないとブッシュも言ってますから「イラク戦争は失敗」することなどありえないですねー。
ま、どうでもいいですけど。
そうですかー。「地元のことは地元が面倒みられるように、と考えているだけ」ですかー。
そういえばパレオコン(反ネオコン)パットもそんなこと言ってたなー。
とか思い出して調べてみると、パット・ブキャナン氏も日本核武装に賛成って言ってるじゃないですか…。
パレオコンとネオコンはいつから同じになっちゃったの?
僕は今んとこアメリカの世界覇権戦略(「世界の警察みたいにのこのこ出て来る」こと)こそが日本にとってもっとも必要だと考えてますよ(くやしいけどっ)。
それは今の世界自由貿易体制こそが日本の生命線だからです。これは単純に世界覇権国家アメリカの意志によって成り立っている。
国際社会などというものがフィクションでしかないことは国連を信じていないとおっしゃるblog主さんならお分かりでしょう。これは北朝鮮の脅威に対してでも同じです。中国には中国の、アメリカにはアメリカの、ロシアにはロシアの思惑がそれぞれある(日本にはない!)。敵味方と簡単に呼ぶことはできても、現実にはそのようには機能しないのです。外交によってその中から何とか一致する点を探っていくしかない(いくらアメリカでもどこでも何でもできるわけではなくなってきている)。
さて、このようにアメリカによって維持されている自由貿易体制こそが日本の生命線なのですが、逆に資源も内需もあるアメリカ自身にとっては、必ずしもそれは必要でないかもしれない(パレオコン・パットも言ってるように)。それなのに日本はいつまでもアメリカの空母と原潜だけに頼ってていいのか?頼っていられるのか?独自の外交力(特にアメリカに対する)さえ持つべきでないのか?
一ついえることは、日本の軍事力強化は絶対にこの問題を解決できないし、そういう方向に向けたものでもない、ということです。
核についてはよく分かりませんが、こうした意味で少なくとも過大評価は禁物だとは思います。

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sou17 years ago

必死な古森サンがコチラで動画で拝めるようですよ(今現在)。
日本とアメリカでは別人格になるようだ。

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