昨日のアメリカ情報機関報告書(NIE)が一部漏えいされ、ニューヨークタイムスなどが、イラク戦争がテロを悪化させたと結論付けていたことに対して、私は色々書こうと思っていたのだが、今朝のブッシュ大統領とアフガニスタンのカルザイ大統領との合同記者会見での発言で私がいいたことをすべて聞いたので、二人の大統領の発言をここでご紹介しよう。一般公開されたNIEの内容については後ほど詳しく報告させていただく。

記者:4月のNIE報告書によれば、イラク戦争が世界中でテロ増発の燃料となったと結論付けられていますが、イラク戦争それでもなおかつイラク戦争のせいでわが国がより安全になったと主張されますか?
ブッシュ大統領:私は無論NIEの判断を読みました。そしてその結論に同意しました。なぜならそれは我々の対アルカエダ作戦が成功したことで、敵は弱体化し孤立したとあったからです。敵がイラク情勢を利用してプロパガンダの道具にし人殺しの仲間を勧誘してるときいても特に驚きません。
人によっては報告書の内容を想像してイラク戦争が間違いだったと書いてあるかのように結論付けましたが、それには全く同意できません。 全く甘い考えだと思います。アメリカ国民を殺そうとしている人々を攻めることがアメリカをより危険な状態にしているなどという考えは間違っています。テロリストたちがイラクで戦っているのには理由があるのです。彼等はイラクの民主化が進むのを阻止しようとしているのです。彼等が同じようにアフガニスタンで民主化が育っていくのを阻止しようとしているように。そして彼等はこれらの戦争を勧誘の道具につかっているのです。なぜなら彼等には何がかかっているかがわかっているからです。その大切さが分かっているからです。彼等はイラクで負けければ何が起きるか知っているのです。
いいですか、我々がイラクに侵攻しなければ過激派が過激な運動に参加する可能性が低かったなどというバラ色のシナリオを考えるのは、過去20年の経験を全く無視してるとしかいえません。9月11日の攻撃当時、私たちはイラクにはいませんでした。何千というテロリストが(カルザイ大統領に向かって)あなたの国の訓練キャンプで訓練を受けていた時、我々はイラクにはいませんでした。1993年に貿易センターへの最初の攻撃があった時我々はイラクにいませんでした。 コールが爆撃された時も、ケニヤとタンザニアが爆破された時も、我々はイラクにいませんでした。我々がイラクに行っていなければ、彼等は何かほかの口実を探したでしょう。なぜなら彼等には野望があるからです。彼等は自分達の目的のためには誰でも殺すのです。
過去にオサマビンラデンは、サマリアを口実に使って彼等の聖戦運動に加わるように説得しました。また時にはイスラエルとパレスチナの紛争を口実にしました。彼等は聖戦運動にとって便利なようにあらゆる勧誘手口を使ってきたのです。
我が政府はどのような手段をつかってでも本土を守り抜きます。 我々はわが国の攻撃を阻止するどのような口実をも使わせません。アメリカを守る最善の手段は外国で殺し屋たちと立ち向かうことによって、本土で立ち向かわなくてもすむようにすることです。我々は敵の嘘やプロパガンダに我々の勝利を左右させるようなことはさせません。
さて、NIEについてですが、この報告書は4月に結論が出ていたものです。しかも結論の資料となったのは今年の2月の終わり現在の情報です。それなのにその発表がいままで延ばされて、この時期、中間選挙を目前にして新聞記事の第一面にでかでかと掲載されたというのは興味深いとは思いませんか? 誰かが 政治的な目的でこの情報を漏えいしたのです。
私は本日情報局(DNI)のジョン·ネグラポンテと話ました。政府が秘密情報が漏れる度に情報を公開するのは決して好ましいことではないのですよ。それをやると良い情報を集めにくくなるわけですからね。長年この仕事についてるひとなら分かるでしょうが。しかしまたしても誰かが大切な情報を漏えいしてしまいました。私はこれは選挙運動中にアメリカ市民を混乱させるための故意の漏えいだと判断します。
ですから、私はDNIにこの書類を一般公開するように命じました。どうぞご自分でお読みください。そして政治的な目的で誰かが敵の性質について混乱させようとしている意見や憶測を止めたいと思います。ですからDNIのネグラポンテに言ってなるべく早く秘密書類の指定からはずしてもらいます。氏が大事な点を公開しますからご自分で読んで判断してください。(略)
カルザイ大統領: 我が兄弟ムシャラフ大統領について語る前に申し上げます。テロリズムは9月11日のずっと前から我々を傷つけていました。大統領がいくつか例をあげられた通りです。これらの過激派勢力はアフガニスタンやその近隣で何年も人々を殺していました。彼等は学校を閉鎖し、聖廟を焼き、子供たちを殺し、ぶどうの房がついたまま、ぶどうを根から引き抜き、国民を貧困と悲惨な目にあわせてきました。
彼等は9月11日にアメリカにやってきました。しかしその前から彼等はあなた方を世界のほかの場所で攻撃してきました。 我々はアフガニスタンで彼等が何者で、どのように我々を傷つけるかを見た目撃者です。あなたがたはニューヨークの目撃者です。お忘れですか、飛行機が突入し、80階や70階から人々が飛び下りたのを。 あんな高いところから飛び下るのがどのようなことだったのか想像できますか? それを誰がやったのですか?  そして彼等に立ち向かう以外にどうやって彼等と戦うのですか、どうやって彼等を取り除くのですか。彼等がまた我々を殺しにくるのを待っていろというのですか? だから我々は世界中でもっと行動しなければならないのです。アフガニスタンで、世界中で彼等過激派とその仲間も一緒に敗北に追いやるまで、

我々の行動がテロリストの行動に影響を与えるのは当たり前だ。だが、だからといってなにもしないという姿勢が得策などであるはずがない。第一、テロリストの反応に踊らされて文明社会がびくびくと脅えながら暮らしていくなど私はまっぴらごめんである。
さてこれについてワシントンポストでロバート·ケーガンが良いことをいってる。(Mike Rossさん紹介)
ケーガン氏は、我々の行動が将来誰かをテロに追い込むとわかっていたとして、我々はどうすべきなのかと問いかける。そういう場合我々は常に行動を自制するべきなのだろうか、それともそのまま行動を進めるべきなのだろうかと。例えば1991年の湾岸戦争後アメリカ軍がサウジに駐留したことでオサマビンラデンがかなり怒ったことはよく知られている。それが彼のアルカエダを使ったアメリカへの攻撃につながったことは確かだろう。だが、だからといって我々はイラクのクエート侵略をみすみす指をくわえて見ているべきだったのだろうか? 1970年代から80年代にかけてアフガニスタンのムジャハディーンがソ連と戦うのを援助したことで、イスラムテロリスト勢力の土台を強化したことも無視できない。
しかしだからといって、これらの我々の行動は間違っていたといえるのだろうか。もし我々がソビエトをアフガニスタンから追い出す手伝いをしなかったら、世の中はより平和だったといえるのだろうか? フセインのクエート侵略を阻止しなかったならばどうだろう。
第一、どの行動が我々をより安全にするかという質問には単に新しいテロリストの数を数えるだけでは答えられないと氏は語る。

私はアメリカの外交が我々の行動がどのように怒りや過激化や暴力を促進するかという恐怖によって左右されることを恐れる。過去にそうであったように、我々が判断する際計算にいれるべきことは、何が我々をそして世界をより安全にするのかしないのか、それだけのはずだ。

ケーガン氏も述べている通り、イラク戦争によって多くの人がテロに走ったからといって、それが世界をより危険な状態にしたと結論付けることはできない。確かにイラクの戦場で経験を積んだテロリストがその技術を生かして自国で悪さをするという可能性はあり得る。だが、イラク戦争で技術を磨いているのはなにもテロリストだけではない。2003年の時点で世界最強といわれたアメリカ軍だが、2006年のアメリカ軍には到底およばないのである。
それにテロリストたちがイラクで成功したなら別だが、イラクで大敗したならば、自国へ帰るまえに多くのテロリストが殺されてしまうということのほかに、失敗した作戦をそのまま持ち帰ってテロを続行するかどうかも疑問である。イラクでの敗北に士気を失うという可能性も十分にあり得る。
単にテロに走る若者が増えたから世の中がより危険になったという考え方はあまりにも短絡的すぎる。もっとも公開された報告書の内容はそんな単純なものではないようだ。
次回は問題の報告書の内容について語りたい。


4 responses to 「イラク戦争の勝利が決め手」ブッシュの反撃記者会見!

snoozy18 years ago

> それなのにその発表がいままで延ばされて、この時期、中間選挙を目前にして新聞記事の第一面にでかでかと掲載されたというのは興味深いとは思いませんか? 誰かが 政治的な目的でこの情報を漏えいしたのです。
極東の某国でも似たようなことがありましたね(笑
何たらメモの一部が突然報道され、政局や国政に影響を与えようとしたことが・・・
決定的に違うのは、アメリカでNIEを把握しているのはブッシュ大統領なのに対し、日本で何たらメモを把握しているのは、国政を壟断しようと画策している一部マスゴミなのだということです。
日本版NSCの必要性が強く叫ばれる所以でしょう。
ただ心配なのは、情報の集中によるリスク/利益と情報の分散によるリスク/利益とのバランスをどうするのかという議論が聞こえてこないことです。“右手の行いを左手に教えない”という金言をどう捉えているのか、今後の議論を注視していきたいところです。
そういえば、地球温暖化対策に関しても気になるニュースがありました:
> ブッシュ政権、科学者に圧力? 温暖化報告書めぐり(朝日新聞)
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/kokusai/20060928/K2006092801330.html
日本語の記事だけ読むと、ブッシュ政権の非科学的なごり押しという印象が強いのですが・・・
背景には、MikeRossTkyさんがご自身のブログで指摘されているような、環境問題の分析方法に対する議論がありそうに思うのですが、どうなのでしょうか?
(参考)http://mikerosstky.spaces.live.com/PersonalSpace.aspx?_c02_owner=1

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アラメイン伯18 years ago

僕もブッシュ大統領の会見と同じ意見です。
アメリカが行動をおこさなければもっと酷い事態になっていたと思います。
少なくとも今のところは9.11ほどのテロはないのですから。

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asean18 years ago

おはようございます、カカシさん
僕はこの会見のカルザイ大統領には大変に同情しますね。
確かに米国”国内(本土)”でのテロによる危険は減少したのは確かだろうとは思いますが
アフガン、イラク”国内”での危険性は逆に増加したのではないでしょうか?
つまり、米国内ではテロの危険性を減じるということはアフガンやイラク国内にそうした危険性を”押し込めた”だけに過ぎないんじゃないでしょうかね?
(いいんですよ、別にブッシュ大統領は米国の大統領であって世界の大統領ではありませんから・・・)
僕は米国が採った行動が間違っていたのではなく、その行動の”方法(中身)”が間違っていたと思います。
理屈としては「米国の安全保障上先制攻撃を行う」これはこれで筋が通っているのですから何も取って付けたように
「自由・民主主義を広める」的な理屈を追加をしたことが間違いの元なんですよ。
もう少し簡単に言うと「米国に災いをもたらす悪人を始末する!」ってだけで良かったはずが
妙に自由・民主主義の確立なんてことを言うから、アフガンでもイラクでも米国にとっては本来不必要な
治安維持やら復興支援なんて領域に迄関わらなくてはならなくなった。
(現実にはイラクでもアフガンでも未だに戦争状態であって、アフガンでNATOが手を焼いているのはNATO軍の能力の問題じゃないですよ)
カルザイ大統領のあの英語の流暢さにはアフガン人を全く感じませんが(苦笑)、アフガンを米国(欧州も)関与の成功事例と”しなくてはならない”という意味で
欧米に今更手を引かれたんじゃたまらない・・・という政治的配慮からであってアフガン国内で治安が回復し
長年の紛争が終わり、人々が平和に暮らし始め、自由と民主主義が動き始めている・・とは流石に言っていません。
(言える訳もないのですが)
ラムズフェルドが大好きな米軍のEBOドクトリンは確かに、米国に悪さをする悪人を始末する手法としては自軍の損害、民間人及び民間施設への被害の軽減を元にしているのですから
米国国内(議会、国民、メディア)からはそんなに非難されることはないかも知れませんが、一旦その範囲を超えてしまうと(治安回復、復興支援領域etc)EBOでは完全に賄い切れなくなっている事実が証明しています。
最近の米国内でのイスラエルに関する一部の論調と同様にですね(イスラエルを支援して何が悪い!ってヤツですが)
米国国内に於けるテロの危険性を減少させ、米国に敵意と悪さをしようとする悪人を始末して何が悪い!
てな論陣を張った方がダブルスタンダードとか言われなくて済むんじゃないですか?
民主党は端から何をか況やですが共和党にしても結局は米国国内だけの話なのかい?ってな気がしますけど・・・
参考迄に
External pressure named the reconstruction aid:Chosen justice
US military transformation to the wild geese?:Effect Based Operation

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In the Strawberry Field18 years ago

公開された米機密報告書、本当の内容はいかに?

この間漏えいされたイラクに関する情報をまとめた機密報告書「国家情報評価」(NIE)の一部が昨日公開された。漏えい記事を書いたニューヨークタイムスは、この報告書がいかにも…

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