外交官で作家の佐藤優氏が書いた興味深いエッセーをみつけた。(妹之山商店街さん紹介)
佐藤氏は、今回のヒズボラによるイスラエル兵拉致は、イランによる揺動作戦だと語る。だが、その理由は最近ヨーロッパ諸国から圧力のかかっているイラン自身の核開発から話題をそらすためというより、イランに長距離ミサイル技術を提供している北朝鮮がミサイル発射によって受け取っている圧力から目をそらすための揺動作戦だったというのである。

レバノン情勢が緊迫している。多くの日本人は遠い中東の出来事と捉えがちだが、実は北朝鮮情勢と深く連動している。

7月5日、北朝鮮のミサイル発射から数日後、中東の友人から「ノドンミサイルの発射場にイランのミサイル専門家が同席していました。イラン人の武器商人もいました。人数は現在までに確認されたところで最低11人です」という連絡があった。7月20日の米上院外交委員会で証言したヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は…『北朝鮮はミサイルに関して、中東諸国と通商関係を持っている』と述べ、北朝鮮からイランなどへのミサイル拡散に懸念を表明した」「同次官補は終了後、記者団に対し、『(情報は)北朝鮮がミサイルを商品化しようとしていることを示すものだ』と強調した」…。
イランのシャハブ3というミサイルが北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」のコピーであることはインテリジェンス専門家の世界では常識だ…

佐藤氏はイランの手先であるヒズボラが、イスラエルのどんな拉致も許さないという性質を見抜いてわざとイスラエルを挑発し、世界の注目をレバノンに集めたというのである。

事実、7月15〜17日のG8サミットでは当初北朝鮮に関する討議が集中して行なわれていたが、情勢緊迫化に伴いサミット後半ではレバノン情勢に関心がシフトしていった。それがなければ、G8は北朝鮮に対してより厳しい姿勢をとったと思われる。結果的に、北朝鮮、イラン、レバノンのシーア派のインテリジェンスが見事な連携を見せたといえる。

私はイランが自分らの核開発に関して国連安保理から経済制裁の条例を言い渡される時間切れが近付いていたことから話をそらそうと、ヒズボラにイスラエルにちょっかいをださせたのではないかとは考えたが、北朝鮮との関係は考えていなかった。
佐藤氏は、イスラエルのどのような拉致も許さないという姿勢を日本も見習って、ヒズボラに対するイスラエルの行動を支持すべきだとし、その理由を二つあげている。

レバノン情勢に関して、日本のマスコミでは、軍事力でレバノンを圧倒するイスラエルに批判的な記事が主流だが、筆者はあえて異論を唱える。本件に関し、所与の条件下で日本の国益を中心に据えて考えるならば、イスラエルを支持すべきである。主な理由は2点だ。

第1に、本件はヒズボラがイスラエル兵士を拉致したことにより生じた。ヒズボラはレバノン国会に議席を有する有力な政党でもある。そのような組織が、拉致に関与したことをレバノン国家が放置していることは許されない。北朝鮮による日本人拉致問題の解決は、日本政府にとっての最優先課題である。いかなる国家による拉致も許さないという毅然たる姿勢を日本政府はとるべきと考える。
第2は、国際社会の基本的な「ゲームのルール」から見てイスラエルの姿勢が正当だからである。イスラエルが、レバノン国家、イラン国家の存在を否定したことはない。これに対して、ヒズボラもイランもイスラエル国家の存在を否定し、その解体を政治目的に掲げている。対等の主権国家によって国際社会が構成されるという国連憲章で定められたゲームのルールに照らした場合、ヒズボラとその背後に控えるイランのイスラエルに対する姿勢は、到底容認できるものでない。

私は特に中東の石油に頼っている日本にとって、イスラエル対イランの戦いにおいて、中立、無関与などといっている余裕はないと語る。

2005年10月26日、アフマディネジャード・イラン大統領は「イスラエルは地図上から抹消されなければならない」と発言している。イラン大統領は公約を着実に履行しているのだ。今回の越境攻撃によって、ヒズボラのナスラッラ書記長はイスラーム世界の英雄になった。

イスラーム過激派が「イスラエル国家を抹消したい」という内在的論理をもつこと自体は、彼らの自由である。しかし、日本がそのような論理に付き合う必要はない…日本では外交官や国際政治専門家の中でも、純正中立が成立すると勘違いしている人がいるが、それは幻想だ…中東の石油資源、(アメリカを通じての)国際政治に与えるイスラエルの影響力を考えるならば、日本はイスラエルか、ヒズボラ+イランのどちらかを選ばなくてはならない。

私はもっと人道的な立場から、テロリストとの戦いに中立はありえないといってほしかったのだが、それでも佐藤氏の見解は一読の価値ありである。是非全文をお読みになることをおすすめする。
イスラエルのヒズボラ攻撃を日本が断固支持すべき 「2つの理由」=佐藤優


2 responses to 日本がイスラエルを支持すべき「二つの理由」

田舎のダンディ18 years ago

日本人にとって理解困難な中東のイスラエルを巡る問題で、考え方は違うが、真摯な報道姿勢で解説してくれるあるブログにコメントを書き込んだばかりだった。
(http://web.chokugen.jp/tahara/)
が、北朝鮮が絡むイランの陽動作戦となると、その複雑さに、日本人にはますます理解不能になる。
でも、よく考えると確かに理屈は通っている。しかし日本人は、
>イスラエルが、レバノン国家、イラン国家の存在を否定したことはない。これに対して、ヒズボラもイランもイスラエル国家の存在を否定し、その解体を政治目的に掲げている。対等の主権国家によって国際社会が構成されるという国連憲章で定められたゲームのルールに照らした場合、ヒズボラとその背後に控えるイランのイスラエルに対する姿勢は、到底容認できるものでない。
という考え方をなかなか取れないでいる。イスラエル建国のいきさつに、満州国建設などの、いわゆる「自虐史観」に通ずるアンフェアな思いを抱いているのではないか。パレスチナを中国に、イスラエルを日本に擬して、パレスチナを哀れむことで自らの心理的葛藤を癒しているのではないかとさえ思う。
だから、
>純正中立が成立すると勘違いしている人がいるが、それは幻想だ…中東の石油資源、(アメリカを通じての)国際政治に与えるイスラエルの影響力を考えるならば、日本はイスラエルか、ヒズボラ+イランのどちらかを選ばなくてはならない。
ということで、これを直ぐ実行に移せなどと責め立てたら、日本の軟弱外交官や平和主義者や偏向マスコミは卒倒しかねない。

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アラメイン伯18 years ago

佐藤氏のエッセー。当然だと思います。賛成です。
日本のマスコミは何故にイスラエルと日本が拉致に関しては同じ立場ということを理解できないのでしょうか?僕には不思議でなりません。
イスラエルは、ちゃんとして政党があって選挙もあって市民の意思により政権交代がある国です。何故にイラクのような独裁国家やイランのような政教一致の国に同情的なのか?
イスラエルとイラン・ヒスボラ。日本としてはどちらを支持すべきか小学生にもわかることだと思います。

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