私はイラク戦争が始まる前から、イラクには大量破壊兵器はある。フセインはアルカエダと深いつながりがあると主張してきた。だからこのような記事を読むと、絶対にそんなはずはない、何かおかしいと思ってしまう。とにかく先ずは今日の読売新聞から読んでみよう。

米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定

 【ワシントン=貞広貴志】米上院情報特別委員会は8日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。
 報告書は「フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない」と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも1996年以降、存在しなかったと結論付けた。
 ブッシュ政権が2003年当時、中央情報局(CIA)などの情報をもとに挙げた開戦理由がことごとく覆された形で、米軍イラク駐留の是非をめぐる論議にも影響を与えるとみられる。
 報告書によると、今年6月に米軍の攻撃で死亡したヨルダン人テロリスト、アブムサブ・ザルカウィ容疑者が02年5月〜11月にバグダッドに滞在していたことは確認されたが、元大統領フセインは保護するのでなく、逆に所在を突き止め、拘束しようとした形跡があるとしている。さらに、フセインはアル・カーイダを警戒し、幹部との会合を拒否していた事実も確認された。
 イラクの大量破壊兵器計画についても、パウエル国務長官(当時)が国連安全保障理事会で説明した移動式の生物兵器製造施設や、ウラン濃縮用とされたアルミ管の疑惑を全面否定した。
 報告書を受け、民主党のカール・レビン上院議員は「ブッシュ・チェイニー政権の民意を欺く偽計が明るみに出た」と政権批判を強めた。
 これに対し、ホワイトハウスのスノー報道官は「新しい事実は何もない」と静観の構えだが、報告書は、イラク戦争を最大の争点とする11月の中間選挙の論議に一石を投じることになりそうだ。
(2006年9月9日10時53分

読売新聞の記事はだいぶ決定的な書き方をしているが、実際の報告書はそこまで『全面否定』などしていない。ミスター苺が、上院の150ページからなる報告書を午後いっぱいかけて読んだとのいうので、彼の分析を借用させてもらおう。
上院の報告書はまるで木を見て森をみずというもので、一歩下がって全体像を見ようという姿勢が全くない。ザルカーウィとフセインの関係に関する部分はその典型である。
サダム·フセインがアルカエダと特にアンサーアルイスラムのムサブ·ザルカーウィがフセイン政権にとって「脅威」であると考えていたことは確かだ。だがそれはフセインがザルカーウィを取り除こうとしたという意味でもなければ、ザルカーウィを匿っていなかったという意味でもないし、ましてや機能的な協力関係がなかったという意味でもない。
1940年代にアメリカ人の多くが共産主義の脅威を感じながら、ルーズベルト大統領がヨセフスターリンの共産政権と手を結んでヒットラーと敵対するのを支援したではないか。友は近くに敵はもっと近くに保てというように、敵を脅威とおもうことと、敵と同盟を結ぶこととは必ずしも矛盾しないのである。
具体的に話そう。
2005年の10月にCIAが「(イラク)政権はザルカーウィやその仲間の行動を黙認したり、擁護していた事実はない」と報告書を提出したのは事実である。だが、だからブッシュ大統領が戦争をする際に国民や世界に嘘をついていたという結論は理論の飛躍も甚だしいというものだ。
この報告で、CIAは2002年に結論付けていたフセインがザルカーウィの北のクルド地方での存在を黙認していたとの自らの報告を覆すことになる。報告書には2002年10月、フセインはある外国政府から(多分アメリカから)ザルカーウィとその側近の4人を逮捕しアメリカに引き渡すようにと要求されたとある。アメリカからの占領をさけようと必死になっていたフセインはイラク諜報部に書面でアンサーアルイスラムのメンバー5人を逮捕するように命令したとある。
だが実際にこの命令が執行されたという記録はない。これはおそらく書類の命令は単に外国政府へのみせかけであって、口頭では真剣に取り扱うなという命令が同時にされたからであろう。低位の工作員が命令を受けたがこの工作員がアンサーアルイスラムのアジトへ行ったかどうかさえ定かではない。
もしフセインがザルカーウィのグループはイラクにとって危険な存在だと感じ全く関係ももっていなかったのだとして、本当にザルカーウィをとらえたかったなら、なぜイラク諜報部の工作員たちをつかってアンサーアルイスラムに潜入していなかったのだ? このような潜入の話は上院報告書でも取り上げられて入るが、ザルカーウィ捕獲になんらかの役目を果たしたことは全く記されていない。
いや、それをいうなら、どうしてフセインはアンサーアルイスラムに軍隊を送ってザルカーウィ探しにとりくまなかったのだ? もしフセインが本当に彼等を脅威とみていたなら、多少の軍事力を使って自国の民にしたように、皆殺しにするなり追放するなりすればよかったではないか?
後にザルカーウィはイラク東北を去りイランへ渡ったが、イラン滞在後、再びイラクの南へとかえってきた。しかし彼の仲間のひとりであるアブ·ヤシン·サイームがイラク政府によって逮捕された。イラクは彼は確かにザルカーウィと同じくアルカエダのメンバーであると判断した。しかし彼はアメリカに引き渡されることなく釈放された。ヤシン釈放はサダムフセインからの勅令だった。
ここで全体像をみてみよう。フセインの行動はザルカーウィとアンサーアルイスラムの連中を本当に取り除きたいと思っている暴虐な独裁者がする行動というよりも、アメリカからの侵略をさけ、お友達であるおふらんすやロシア、中国といった国々からの手助けで経済制裁を終わらせたいと思っている暴虐な独裁者の行動である。
だからフセインは最初から従われないと分かりきった命令をだして、あたかも忠誠な僕の体を装ったのである。
CIAのこのフセインとアルカエダ関係の見直しは逮捕された一人のイラク諜報部工作員の証言と、アンサーアルイスラム基地にいたアルカエダメンバーの証言だけに頼っている。双方共に互いに協力関係にあったこをを否定しているからだ。
しかし常識的に考えて、この結論には疑問が残る。

  • 下っ端のちんぴらメンバーがイラク諜報部にしろアンサーアルイスラムにしろフセインやザルカーウィの秘密関係を知っているだろうか?いったい仲間の何人がそんな情報持っていたのだろうか。

    ザルカーウィは熱狂的なワハビ派の仲間に世俗主義でワハビ教を禁止した悪魔と手を組んだなどと教えるだろうか。またフセインは諜報部の下っ端将校にそれでなくてもアメリカから戦争の口実として使われている世界一のテロリストと実は協力しているなどと言うだろうか? これは馬鹿げている。その程度の地位の人間は必要なこと以外何も知らされていなかったと考えるべきである。

  • たとえCIAが詰問した囚人のうち何人かが高位の人間だとしてフセインやザルカーウィに十分に信頼されていて情報を持っていたとしてもどうして真実をCIAに白状する必要があるのだ? そんなことをして熱狂的なバース党員やアルカエダのジハーディストに何の得があるというのだ?
  • ほとんどの囚人は事実関係を知らないだろうし、知っていても白状する理由がない。だからCIAがフセインイラクとアルカエダの関係はなかったと結論付ける情報源としては囚人の証言など頼りなさ過ぎる。それよりもフセインが真剣にザルカーウィをとらえようとしなかったことや、ザルカーウィの仲間を一旦はとらえながら釈放したという行動のほうがよっぽども意味を持つ。
    すくなくとも、フセインがザルカーウィらを「黙認」していたことになり、それは「擁護」や「協力」とほとんど同じ意味を持つ。CIAは潔く表にでてブッシュを責めず
    なんとなくやんわりと「ブッシュが嘘をついていた」と暗に示唆しているのである。
    この報告によって新しい情報などひとつも明らかにされていない。フセインとアルカエダの協力関係はあったようだが確たる証拠はないという今までの状態と何の変わりもない。だが、わざわざこうやって選挙前に意味のない報告書を提出することで、CIAがブッシュ大統領と共和党の選挙に悪影響を与えようとした作為は丸見えである。


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