最初にいっておくが、私は日本国内の政治的な動きや世論というものを正しく把握していない。だからこれから話すことはすべてワシントンポストのSteven Clemons氏の記事をもとにしたものである。
はっきり言って、クレモント氏の書き方には日本の右翼に対する偏見を感じるので、できることならば、日本の保守派の人々から反論を伺いたい。翻訳はChupika Szpinakさんのサイトからお借りしたが、カタカナ表示になっていた人名と英語のままになっていた組織名や肩書きは検索可能な範囲で漢字に変換させてもらった。

8月12日に、古森義久氏(ウルトラ保守派の産経新聞のワシントン駐在論説委員)が、の玉本偉氏による記事を攻撃した(Commentary という日本国際問題研究所のオンラインジャーナル英文編集長)。その記事は、反中国で(中国への)恐怖をあおり、日本の戦没者に敬意を表している神社への公式訪問に表れる、日本の声高な新しい「タカ派的ナショナリズム」の出現に対する懸念を表明していた。古森はその文章を「反日」ときめつけ、その主流派の著者を「過激な左翼知識人」として攻撃した。(カカシ注:産經新聞をウルトラ保守派と呼ぶところに著者の左翼よりの偏見がちらつく)
しかし、古森はそこで止まらなかった。古森は、靖国が第二次大戦の戦犯たちを称賛してるとする中国の抗議に逆らって靖国神社を毎年訪問する小泉純一郎首相に、あえて挑戦するように疑問を呈する著者を、税金を使って支援したことに対して、研究所の理事長である佐藤に謝罪を要求した。
注目すべきことに、佐藤はそれに応じてしまった。24時間以内に、彼はCommentaryを閉鎖し、過去のすべてのコンテンツをサイトから消去してしまった。Commentaryは、日本の外交政策とナショナル・アイデンティティへの挑戦についての率直な議論の場でなければならない、という佐藤自身の声明すらも消してしまった。そしてまた、佐藤は、許しを請い、Commentaryの編集管理の完全なるオーバーホールを約束する手紙を産経論説部に送った。

ワシントンポストはこのようなことは日本の過去の歴史を考えれば驚くべきことでもなく、1930年代の軍国主義が復活しつつあり、意見の違う人間を暴力をつかって威嚇する右翼勢力が台頭しつつあると語る。クレモンズ氏は犬養首相が1932年に右翼活動家によって暗殺されたことを例にあげ、日本にはこのような風潮が昔からあったと書く。

ちょうど先週、それらの過激派の一人が、今年、小泉の靖国訪問の決断を批判してきた、以前は首相候補でもあった加藤紘一の実家を焼き払った。数年前、フジゼロックス重役で会長の小林陽太郎氏の自宅が、小泉は靖国訪問をやめるべきとの意見を表明した後、手製の焼夷弾のターゲットにされた。爆弾は処理されたが、コバヤシは死の脅迫を受けつづけた。その圧力は効果的だった。彼が率いる大きなビジネス団体は、小泉の中国に対するタカ派的姿勢と靖国訪問への批判を撤回した。そして、現在も、小林はボディガードなしでは移動しない。
2003年、当時の副外相の田中ヒトシ氏は、自宅で時限爆弾を発見した。彼は、巷で北朝鮮に対して軟弱だと言われていたのでターゲットにされた。その後、保守派の東京都知事、石原慎太郎氏はスピーチで「田中は『自業自得』だ」と主張した。
自由な思考が脅迫に遭遇する」またの事例は、国際的に尊敬されている慶応大学名誉教授の小岩澄子に関わるもの。去年の二月に、彼女が、日本の大多数は女系天皇を支持する準備ができてると示唆する記事を発表した後、右翼活動家たちは彼女を脅迫した。彼女は撤回を表明し、現在伝えられるところでは、うずくまっている…。

クレモント氏は、ほかにも多数の政治学者や評論家から右翼団体から脅迫を受け自由に意見を発表できないという訴えを聞いたという。
ここではっきり言っておく。私はどんな場合でもテロ行為は絶対に許されないと考える。それがたとえ私の大嫌いな左翼非国民マイケル·ムーア監督にたいして行われたものであったとしても、私は絶対に支持しない。断固非難する。だからこの間の加藤氏の自宅と事務所が放火された件いおいて、一部の右翼ブログなどで犯人の行動を擁護するような意見が述べられたことははなはだ遺憾である。
しかし、日本において右翼団体による暴力的な威嚇がどれだけ行われているのかその実態を私はよく知らない。私は日本の右翼の人たちとはかなり相通ずる気持ちを持っているので、このようなことは極々一部の例で、クレモント氏が大げさにかき立てているのだと思いたい。
だが、もしクレモント氏の書いていることが真実であったとして、私が一番驚くことは、過激派右翼の暴力行為よりも日本の左翼の腰抜けぶりである。これはクレモント氏自身も書いている。

今日の右翼による脅迫について、何が危険信号を発して(alarming)て問題かというと、それが効果的だということと、そして、右翼を相互補完するようなもの(mutualism)がメディアに存在すること。

脅迫者は弱い相手を標的にする。テロリストに妥協をすればテロはより激しくなるだけである。小森氏に謝罪をもとめられた程度でオンラインジャーナルを廃止してしまうなど、佐藤氏の腰抜けぶりにはあきれる。自分の書いたことに信念をもっているなら、コメントを書いた玉本さんも抗議の声明文くらい出すべきだ。
たとえ命の危険を感じても正しいことは貫き通さねばならない。もし脅迫状をもらったのなら警察に届け出てボディガードを雇うくらいのことはすべきであるし、脅迫状をもらった事実を公表すべきであろう。もし日本で学者が政治評論家が暴力的報復をおそれて自由にものをいえない状況になっているのだとしたら、これは由々しき事態である。
そして良識ある右翼の人々は、このようなけしからん過激派が暴力行為に出た場合、石原さんがいったような「自業自得」などといってないで、断じてテロ行為を批難すべきだ。日本の右翼は軍国主義などめざしていない、暴力で他人を威嚇するやり方は支持しないと国民に訴えるべきである。
ところで片方だけのいい分を載せるのは不公平なので、ここで小森氏の声明ものせておこう。

外務省管轄下の日本国際問題研究所(JIIA)が今春から始めた英文での「JIIAコメンタリー」は時宜を得た発信だと思った…
ところがその論文のいくつかを読んで、びっくり仰天した。日本の政府与党や多数派の考え方を危険として一方的に断罪し、中国などの日本攻撃をそのまま正しいかのように位置づける論旨なのだ。
5月記載分の「日本はいかに中国を想像し、自国を見るか」という題の論文をみよう。冒頭に以下の記述がある。

(外国の)日本ウオッチャーたちはますます日本の対中政策を愚かで挑発的、独善、不当だとみなし、中日関係の悪化を日本のせいだと非難している。しかし日本国内では日本がナショナリスティックで軍国主義的でタカ派的だと(諸外国で)認識されていることへの意識がほとんどない

この論文はいまの日本で多数派の意見といえる日本の安全保障面での「普通の国」らしい方向への動きを「タカ派的ナショナリスト」の危険な策動と断じ、非難することが主眼となっている。
その英語の文章は靖国神社の参拝支持を「靖国カルト」と評するような偏向言語に満ちている。カルトとはオウム真理教のような狂信的宗教集団を意味する断罪言葉である。
同論文には日本の現実派の思考を「反歴史的想像」と呼び、戦後の日本国民の戦争観を「記憶喪失症」と断ずるなど、全体として米欧の左派系や中国の日本たたきに頻繁に使われる扇情的、情緒的なののしり言葉があまりに多い。この点では「反日」と呼べる論文なのである。
元国連大使の外務官僚だった佐藤行雄氏を理事長とする日本国際問題研究所は日本政府の補助金で運営される公的機関である。その対外発信は日本の政府や与党、さらには国民多数派の公式見解とみなされがちである。
この論文の筆者の名をみて、さらに仰天すると同時に、ある面、納得した。国際問題研究所の英文編集長の玉本偉氏だというのだ。玉本氏は在住の長い米国のその筋では知る人ぞ知る、日本政府の対外政策をたたいてきた過激な左派学者である。
2003年のワシントンでのセミナーで「北朝鮮の拉致問題というのはすでに解決ずみであり、日本側は対外強攻策の口実にしているだけだ」とか「日本の自衛隊はイラクに派遣されるべきでなく、また派遣は絶対に実現しない」などと断言するのを私もまのあたりに聞いた。

この声明文を読む限り、小森氏のいってることがそれほどおかしいとは思えない。クレモント氏も小森氏が直接佐藤氏を脅迫したなどとは書いていない。だが小森氏の言葉が過激派を元気づけるというのである。はっきりいってそういういい方そのものが右翼を黙らせようという左翼の陰謀のようにも聞こえるがね。
アメリカの左翼の手口にかなりならされてる私なので、この記事はかなり眉唾だと私は考える。だが、事実を知らない以上いまはなんともいえない。できれば読者の皆様からのご意見でこの疑問に光をあてていただきたいものだ。
付け足し: ミスター苺によると、左翼はなにかと右翼から「脅迫状」をもらったと言い張るのが常套手段なので、実際に脅迫状が公開され警察の取り調べが行われているという証拠でもない限り信じないそうだ。だからこの新聞記事にかかれている右翼による脅迫もどこまで本当か疑問である。
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4 responses to 『言論弾圧をする危険な日本右翼の台頭』

田舎のダンディ18 years ago

日本にも非難される状況はあると思うが、私は、このエントリーを読んで以下のように言いたい気持ちです。
先の大戦後の、アメリカGHQによる日本占領政策が功を奏したのか、日本は世界で一番アメリカを好み、アメリカに従順で、そして客観的に見てもアメリカの価値観のよき理解者であった。これは驚くべき事で、日本は世界から孤立した地勢にあり、長い鎖国政策によっても世界との交流を制限し、独自の価値観を育ててきた。にもかかわらず、敗戦を境に、一夜にして様相を変え、欧米の文化を賛美し歓迎した。
そして、押し付けられたにも関わらず、新たな基準を平和憲法として受け入れ、日本の都合もあったが遵守してきた。数十年を経て、すべてをアメリカに委ね、従順にしてきた姿勢に疑義が生じ、検証し直そうとする動きもないではない。しかし、少なくとも日本の政府とその政策は、いわゆる自由世界の思想と価値観に沿い、とりわけアメリカの意に反する選択しなかった。いや出来なかったといって良い。
いまやっと、本来の日本人としてのアイデンティティを取り戻し、敗戦のくびきから脱しようとしている日本の前に、何故に見えないヴェールを張ろうとするのだろうか。これまでの日本は自立自尊の政策も主張もあまり行なわず、世界に対し日本の理解者を増やす努力もしなかったか。戦略的対応も、情報や機密保持の対策も脆弱だった。それは、世界に対するオープンな姿勢こそが誠意の証だという勝手な思い込みがあったからだ。そのため、永遠に眠りから覚めない猫が、急に眼を開けたようにでも映るのだろうか。
これまでの日本の姿勢は、日本人の心に、誠意は通じるという伝統的な心情があることと無縁ではない。だから、そうした姿勢を貫く事が、日本が日本人として普通に行動することで、ことさら他国から指弾される事はないだろうと信じてきた。しかし、そうではなかったのだ。同じアジアの国の中に、そうした日本の姿勢を全く評価しない国があったのである。
多くの日本人にとっては、戦争の問題はあったとしても、そこまで日本の心情やこれまで営々と積み重ねてきた努力や誠意を全く無視されるとは信じがたい思いだろう。反政府、反権力志向の人やメディアは、ここぞとばかり自国の政策を攻撃する。そのために、永久に恭順な姿勢以外選択肢がないと思い込む国民もまた少なくない。
これはいかなる国、いかなる歴史にも例を見ない異常さだと思う。戦争に対する自制をここまで徹底しながら、なお世界に多くの貢献をし、いっぽうで、ここまで貶められながら耐えている国家は、かつでどこに存在しただろうか。あまつさえ、唯々諾々と従い、信じてきた同盟国アメリカの中からまで、日本固有の文化を理解されずに非難される。ここまで、世界とは、人間とは、客観性を持ち得ないものなのか。
もちろん、日本が今なお貧しければ違っていただろう。しかし、今の興隆は他国の支援や幸運もあったかもしれないが、日本人自身の努力がなさしめたものでもある。なんら恥じることなくわが道を進むことが許されていいはずだ。自らの意思と判断と努力で世界に貢献する道を進みたいと少し思っただけで、戦争への道に進む日本と非難する方々は、まず自らの国のあり方、自らの行動の基準、自らの価値観を顧みて、一つひとつを検証して欲しい。そして、少しは想像力を働かせ、日本人の心情に思いを巡らして欲しい。

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Sachi18 years ago

田舎のダンディさん、
この記事を書いた記者のくちぶりからいって、かなりの左翼でしょう。私はアメリカの左翼の書き方には結構敏感ですからよくわかる。(笑)
日本がアジアでおかれている立場は、結構アメリカが世界でおかれている立場の縮小版だという気がします。つまり日米共に世界平和に大いなる貢献をし、他国へのボランティアや人道資金援助などをしているにも関わらず、まったくその好意が評価されず、ただただ戦争をやりたがっていると批判される。
いくらイメージを好転させようとして、日本が中国や韓国などに気を使って靖国神社参詣の日をずらすようなことをやってみても、後から後から苦情がでる。
日本の保守派が我慢しきれなくなって文句をいうと左翼系メディアやこの記事でも書かれている「専門家」なるひとが外国人を対象にしたジャーナルに日本は右傾化しているなどと日本の税金をつかって書きまくる。
私は思うんですが、この際だから日本は憲法を改正して武装すべきです。どうせ平和憲法を守っても評価されないなら、日本が国連などで発言力をもってばかにされないためにも、その背中を武力でささえるべきでしょう。そうすれば恐れられてもここまでばかにされることはないと思います。
カカシ

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In the Strawberry Field18 years ago

米左翼による言論弾圧手法

この間私は『言論弾圧をする危険な日本右翼の台頭』で、外務省の日本国際問題研究所の英文編集長の玉本偉氏のオンラインジャーナルの内容について抗議した産経新聞の古森義久氏の行…

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In the Strawberry Field18 years ago

米左翼による言論弾圧手法

この間私は『言論弾圧をする危険な日本右翼の台頭』で、外務省の日本国際問題研究所の英文編集長の玉本偉氏のオンラインジャーナルの内容について抗議した産経新聞の古森義久氏の行…

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