英語の表現で、どうしてもきちんとした日本語に訳せないものがある。それは “suffer the consequences” という表現だ。consequence とは「結果」という意味だが、ただの結果ではなく大抵が悪影響という意味で使われる。子供が門限までにかえてこなければそのconsequenceは以後一週間テレビを見られないという罰を受ける、といったように。
この概念を理解するためには、自分の行動が将来どのような結果をもたらし、それによって自分がどのような影響を受けるかということをはっきり理解していないければならない。しかしパレスチナのテロリスト達の行動をみていると、彼等には全くそのような概念は持ち合わせていないとみえる。
今回、ハマスがイスラエル兵を拉致したことに対するイスラエルの反応はまれに見る激しいものであり、パレスチナの連中は「過剰反応だ」と大慌てする姿は、はっきりいって滑稽であった。彼等はイスラエルへの攻撃は全く反撃されずに好き勝手にやる権利があるとでも思っているようだ。それでその悪行が阻止されたり反撃されたりすると激怒して国際社会に訴えるというのがいつものパターンである。
しかしなぜか今回はそれがうまくいかなかった。ヒズボラのナスララなどは完全にうろたえていた。だがもし彼等が一年前からのイスラエルの行動にきちんと注意をはらっていたならば、今回の事件は十分予想できたはずなのである。
一年前にそれまでブルドーザーとまで言われた鷹派のシャロン前首相がガザ撤退を強行した時は、イスラエル内部からも外部のイスラエル支持派からもかなり批判の声があがった。パレスチナの暴力に屈して逃げるのか、とずいぶん批判を浴びたものである。だがシャロンはガザから遁走したのではない。彼は最初からガザ撤退が永久的なものでないことくらい分かっていたのである。パレスチナのテロリストと戦うためには、一旦ガザから引き上げる必要があったのだ。
ガザ撤退が必要だった理由
1) イスラエル軍とパレスチナ庶民の接触をなくす
イスラエルの入植者を守るため、イスラエル軍はガザ内部にあちこちに関門をもうけ、イスラエル住居地域に出入りするパレスチナ庶民は何時間も列にならんで屈辱的な取り調べを受けなければならなかった。これが毎日数回に渡って行われるのであるから、パレスチナ庶民にしてみれば、占領軍であるイスラエルの存在を毎日思いしらされるはめになり、イスラエルへの憎しみも増幅する。防御壁にあわせ、ガザからイスラエル軍がいなくなれば、パレスチナ庶民はイスラエル軍と顔をあわせなくなり、自然とイスラエルに対する関心が薄れ、自治問題へと注意をむけざるおえなくなる。
2) パレスチナ庶民に指導者の不能を思い知らせる
イスラエルが撤退した後、ガザの統治はパレスチナ庶民自身で行われなければならない。だがシャロンはパレスチナの指導層にそのような実力がないことくらい百も承知だった。イスラエルが占領している間は、ガザが不安定でもそれはすべてイスラエルのせいにされたが、パレスチナが自治に失敗すれば、それがイスラエルのせいでないことがパレスチナ庶民にも世界にも明らかにされる。その時点でパレスチナ庶民がテロリズムを拒絶することができれば、パレスチナにも希望がもてる。
3) ガザから攻撃を受けたら遠慮なく反撃できる。
実を言えばこれが一番大切な理由だった。つまり、ガザにイスラエルの入植者たちが多く居住していれば、イスラエルはガザ地域からパレスチナによる攻撃をうけても、イスラエル市民の安全を考えて思うような反撃ができない。テロリストから拉致される可能性も大いにあったし、イスラエル側からの攻撃の巻き添えになる可能性もあった。つまりガザ入植者たちは、はからずもパレスチナの人質になっていたのである。
イスラエル軍がガザを撤退して以来、パレスチナでは「民主的」な選挙によりテロ軍団のハマスが政権を握った。ガザのインフラは崩壊し、あちこちの武装勢力が陣地争いで小競り合いをはじめ、経済は破たん。公務員は半年以上も給料をもらえない、下水は溢れ、町は完全に無法状態。これはすべてイスラエルの助けを借りずパレスチナ庶民が自分達の手でしたことである。
そのくせ撤退後のイスラエルに何千というロケット弾を打ち込むことには余念がない。挙げ句の果てにイスラエル兵を拉致。これでイスラエルが攻めて来ないと思っていたのだとしたら、愚かとしかいいようがない。
反ユダヤ主義の国際社会が口ではどれだけイスラエルを批難しようとも、イスラエルの行動は誰にでも理解できたはずだ。だからオルメルト首相がウエストバンク(西の丘)からの撤退を無期延期すると発表したことも決して不思議な展開ではない。
行動には結果がともなう。パレスチナ庶民は今度こそその意味がわかっただろうか? 主権国家として歩むべき道をまた踏み外したことを彼等はどのくらい意識しているのだろう。


3 responses to イスラエル、ウエストバンク撤退は見送り

田舎のダンディ18 years ago

苺畑カカシさん、勉強になるので、いつも読ませていただいております。正直、こちらのサイトのようなテーマは、日本人にとって誠に苦手で、マスコミも、どう反応したらいいか分からないので、いいかげんな報道が多いと思います。だから、無難な論調で、強者であるイスラエルが悪い、アメリカが悪いという姿勢で解説します。
確かに、イスラエル建国の経緯は、日本人の感覚から言ってなかなか理解できないものがあります。しかし、現在の状態は誰にとっても不幸ですから、もっと現実的に、より良い解決を目指して日本ももっと貢献すべきだと考えます。
それが何故出来ないかというと、似非平和主義が日本を支配しているからです。例えば、中国や韓国が、明らかに日本の国内問題と思われることに介入しても、毅然とした対応は平和を損なうという、異常な精神状態に陥っております。
もちろん、経済にとってマイナスだからということなのですが、そうすれば、当然、利害が絡んでがんじがらめになった問題に対して、世界の世論に影響を与える行動が出来るはずはありません。無難に、無難にと言いながら経済利益だけは確保する利己主義者です。
しかし、仏教思想や多神教的な考えを基盤にした東洋精神のようなものが本当は必要だと思います。日本の底流にもあるのですが、いまは弱腰の形で表れています。勝ち負け、優劣、損得、正義と悪、宗教、人種、価値観の殆んどが、二元論的な発想だけでなく、全く別な視点からの考え方を相互に学ぶ姿勢が出てきたらどんなにか素晴しいだろうと思います。
もちろん、今は夢物語です。しかし、何かのきっかけで、ドラマティックに国際情勢が変化する日を期待します。それまで、国際的視点からの情報をどんどん続けて欲しいと思います。

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Sachi18 years ago

田舎のダンディさん
コメントありがとうございます。これは日本だけでなく、アメリカのメディアでもそうなのですが、ニュース報道の時に話の背景やそのニュースの意味するものをきちんと説明しないことに問題があります。
例えば同じ戦闘の報道でも、味方兵2人死亡、とだけ報道していったい何の戦闘だったのか、敵の損害はどんなものだったのか、味方の作戦は成功したのか、そういう説明が全くされなければ、読者はなんだか味方が死んでばかりいる戦争だなあという印象をもってしまいます。
イスラエルとパレスチナの問題にしても、イスラエルがパレスチナを攻撃する話ばかりで、何故イスラエルがそのような攻撃をはじめたのかという背景が正しく報道されないため、何か一方的に強いものが弱いものいじめをしているように受け取れるわけです。
最近出てきたブログというのはそうした主流メディアの片手落ちな報道を補うメディアムとして大事だと思います。私がそのほんの一端でも担っていれば幸いです。
カカシ

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asean18 years ago

おはようございます、カカシさん
>公務員が半年も給料貰ってない・・・
の関連話なんですけどね、実はマレーシアにはパレスチナ暫定自治政府の出先があるんですけどね
その代表(マレーにあるパレスチナの在外公館代表・・身分的には大使扱い)が帰国もせずに居座り続けている
ってな話があるんですよ(・・・)
当然、給料も無い(って、意外と第三世界の大使ってのは給料をキッチリ貰っている訳じゃないんですけどね、
現地に赴任したら後は勝手に稼げ!ってな体制の場合が結構あるんで・・外交特権使った不正な商売に加担するみたいなことが案外多いんです)っと言うか
現在のパレスチナは在外公館を構っている暇が無い上に、下手に帰国してハマスに吊るし上げられても・・という恐怖感が先に立ってしまって居座るより他に道が無い・・らしい。
マレーシア政府も対処のしようがないので、静観しているしかない・・・
内政、外交八方塞なのが現状ですね。

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