私は以前に停戦は誰がするのかにおいてイスラエルの勝利条件を下記のように提示した。

1)ヒズボラがレバノン各地の民家に隠した一万二千のミサイル、および他の武器弾薬を摘発破壊もしくは中和する。
2)何万からいるヒズボラ戦闘員を殺すか、シリアへ追い出すかして、レバノンからヒズボラを完全駆除する。
3)南レバノンを再び占拠する。

だから、この間アメリカとフランスが国連安保理に提案した停戦条件が通り、実際に履行されるならイスラエルはこのラウンドでは一応勝ったといえるだろう。

一、安保理はレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの攻撃と、イスラエル軍の攻撃的軍事作戦の即時中止に基づく「戦闘の全面中止」を要求(イスラエルの自衛的作戦による反撃は容認)。国連レバノン暫定軍に戦闘中止の履行監視を要求。
 一、イスラエルとレバノンに対し、以下の原則や事項に基づく恒久停戦や長期的解決に同意するよう要求。
   ▽国連が設定した両国の境界線「ブルーライン」の尊重
   ▽係争地「シェバ農場」一帯を含む国境画定
   ▽ブルーラインとリタニ川の間のレバノン南部にレバノン軍と国際部隊だけが活動する緩衝地帯を設置
   ▽ヒズボラの武装解除などを求めた2004年の安保理決議1559の完全履行—など。
 一、イスラエルとレバノンがこれらに原則合意した後、別の決議案で国連憲章7章に基づく国際部隊の展開を承認。
 一、採択から1週間以内に決議の履行状況を安保理に報告するようアナン事務総長に要求。

ヒズボラもそしてレバノンもこの停戦条件を飲むとは思えない。といえばおのずと出てくる疑問はヒズボラにとっての勝利条件とはなんなのだろうかということだ。
ヒズボラだけではないが、アラブ諸国においては西洋社会へ立ち向かうという行為そのものがすでに勝利という観念がある。例え国のインフラが破壊され経済的に圧迫され軍隊の大半が破壊され同胞が大量に殺されても、自分と自分の政権/勢力が生き残りさえすれば、それは彼等にとって十分に勝利なのである。
だから湾岸戦争において、先代のブッシュ大統領が軍事的には勝利をおさめながら、バグダッドまで乗り込まずフセインを殺しもせず、フセイン政権をたおさなかったことは非常な失態であったといえる。アメリカを相手取ってたった一国で立ち向かい生き延びたフセイン政権はアラブ諸国では英雄としてたたえられた。情報操作など簡単にできる軍事独裁政権下では、湾岸戦争の終戦記念日は勝利の日として祭日とまでなったという話だ。フセインが国民に課された国連による経済制裁など屁とも思っていなかったのは言うまでもない。食料のための石油交換を悪用していくらでも裏取り引きで二枚舌のフランスやロシアを通じてフセインの私利私欲を肥やすことができたからである。
そういう背景があるので、パレスチナのハマスが兵法としては全く意味がない自爆テロや民家へのロケット弾発砲をいつまでも続けても、イスラエルに対して抵抗しているという行為そのものがすでに勝っているとして讃えられるわけだ。戦闘としては特に領土を増やすわけでもなく、戦況が有利になるというわけでもないのに、イラクでアルカイダが訳の分からない血みどろの攻撃を執拗に続けているのも、まさに同じ理屈なのである。
明らかにテロリストたちが考える勝利とは伝統的な国と国との戦争で勝ち得るものとは全く別ものなのだ。
今回の戦争においてもヒズボラの勝利条件とは非常に簡単だ。単に7月12日の状態に戻りさえすればいいのである。イスラエルがレバノンから完全に撤退し、再びヒズボラが南レバノンを占拠する。この場合、国連の連合軍やレバノン軍がこのあたりの警備にあたるという形でもかまわない。イスラエル軍さえ撤退してしまえば、ヒズボラは国連軍やレバノン軍を簡単に味方につけることができる。そうすればこれまで通り、イスラエルにロケット弾を打ち込んだりイスラエル市民を拉致したりすることが続けられる。
国連が無条件の停戦をイスラエルに飲ませ、イスラエルが撤退したら、ヒズボラは大勝利宣言をする。アラブのメディアは反イスラエルだから必然的にヒズボラには同情的な報道がされる。事実はどうあれヒズボラはイスラエルの暴虐からレバノンをすくった英雄として讃えらえるというわけだ。実際にレバノンが受けた被害や損害などどうでもいいのである。
ヒズボラのようなテロ軍団は停戦を単なる再編成としか考えていない。だから、自分らの組織の再編成が整ったところで再びイスラエルへの攻撃をはじめ、怒ったイスラエルが反撃したら、イスラエルが停戦をやぶったと国際社会に訴え、反イスラエル意識のつよい国連にイスラエルの自制を求めさせるという、いつものパターンがくりかえされる。めでたし、めでたし、なのである。
だからアメリカのライス官房長官がこの前の中東訪問の時にいったように現状維持の状態での停戦をイスラエルはうけいれることは絶対にできないわけだ。今度限りはいつもどおりのイスラエルだけが攻撃を停止しテロリストが再編成するという停戦はおき得ない。
となるとこの戦争の拡大はもはや避けられないのかもしれない。


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