ハディーサ事件については私はここここに意見を書いてきた。
今日になって毎日新聞の独自の調査による報道があったので、この記事をちょっと分析してみたい。
この「<イラク虐殺疑惑>民間人の遺体から米海兵隊装備の銃弾』と題する見出しで始まる記事では:

…ハディサ病院のワヒード院長はこのほど、「被害者(民間人)の遺体から海兵隊が装備する銃弾が見つかった」と証言した。毎日新聞の依頼で現地入りしたイラクの「アルシャルキヤ・テレビ」のアフサン記者に語った。また別の医師は、海兵隊が医師らに「かん口令」を敷いていたことを明らかにした。

ワヒード院長は「米軍とトラブルを起こしたくない」と当初は証言を拒んだ。しかし「これだけは言っておきたい」とした上で、複数の遺体から海兵隊装備のM4カービン銃の銃弾が発見されたと明らかにし、「これは事故ではなく犯罪だ」と強調した。
米軍は昨年11月、海兵隊車両近くで路肩爆弾が爆発し、海兵隊員1人とイラク人15人が死亡、交戦で武装勢力8人を殺害したと発表した。その後疑惑が表面化し、現在海軍犯罪調査局が調査を続けている。
米軍発表は武装勢力を殺害したとしているが、民間人の複数の遺体からもM4カービン銃の銃弾が発見されたとの証言は、米軍の虐殺を裏付けるものだ。同院長は米タイム誌に「ほとんどの被害者は至近距離から頭や胸を撃たれていた」と述べている…

まずこの記事を読んでいて一番最初にしなければならない質問は、この医師の証言がどれだけ信用できるものなのかということだろう。彼はが反米のテロリストの仲間であったり、そうでなくてもおどかされたりして嘘をいっている可能性はないのだろうか?
次の質問は医者は遺体から取り除いた銃弾はどうしたのだろうかということだ。米軍はこの件について今も調査中だが、このような物的証拠は非常に大切なものだ。調査官にきちんと渡したのだろうか。ジャーナリストたるもの、医者が銃弾をもっているなら、見せてくれと頼んで写真くらいとるべきだが、この記者はそれをしていない。つまり、本当にこの銃弾があったのかどうかさえ確認できないわけだ。
それからこの医者は銃弾はM4カービン銃だと断定しているが、M4でもM16でも銃弾の型は全く同じ。それをあえてM4と特定する根拠は何なのだろうか。一介の田舎医者にこの銃弾がM16ではなくてM4から発砲されたものだなどということが判断できるのか? 海兵隊がもっているのがM4と知った上で想像でいっているだけなのでは? 
この記事のなかで一番気になる点は、『民間人の複数の遺体からもM4カービン銃の銃弾が発見されたとの証言は、米軍の虐殺を裏付けるものだ』というところだ。この文章のひとつまえに毎日新聞は『(海兵隊は)交戦で武装勢力8人を殺害したと発表した』と記述している。海兵隊の報告では海兵隊との銃撃戦で犠牲者が出たということは明記されているわけで、この医者が検査した遺体が米兵と銃撃した武装勢力であった可能性は十分にある。また、現場にいた海兵隊員の証言では、武装勢力との交戦で一般市民が巻き添えになったとあり、この遺体は巻き添えになった市民のものであるという可能性もある。つまりこれだけでは毎日新聞が言うような『虐殺を裏付ける』ものとは決していえないのである。
それから記事のあとのほうで、同病院の医師たちは海兵隊員2人から事件について口止めされたとあるが、その指示をされたという医師たちは匿名だし、指示を出したのが当事者のキロ中隊なのか、別の部隊なのかさえ確認できていない。
はっきりいって、この毎日新聞の記事には、全く内容がない。ただ単に病院の医師が確認できない証言をしているだけで、物的証拠も状況証拠も全くそろっていないのである。
これが普通の犯罪取り調べならば、一番簡単で確実なやりかたは、遺体を掘り起こし遺体の何人が爆弾によって殺され何人が銃殺されたのかを確認し、銃殺された遺体の傷口を調べそれが至近距離からうたれたものなのか遠くから流れ弾にあたったものなのか、交戦の巻き添えになったものなのか確認することだ。傷口への角度などからそのような調査は容易にできるはずなのである。
そして実際に医師が取り出した銃弾が犠牲者の体から出たものなのかどうかDNAで鑑定し、それが本当に海兵隊員が所持する特定のM4から至近距離で発砲されたものであるということが確認できたら、そこで初めて海兵隊員による虐殺が裏付けられるのである。
そのくらいの常識を毎日新聞が分からないはずがない。にも関わらず疑わしい医師の証言だけをもとにして、米軍兵を有罪扱いする毎日新聞の報道のしかたには強く憤りを感じる。


6 responses to ハディーサ疑惑: 怪しげな証言続く

asean18 years ago

苺さん、どうもMSNブログはフィルター設定してあるwebログからはトラックバック出来ないみたいなんで(?)
固定リンクを貼っておきますです・・・ヤレヤレ
どうもねぇ、この問題は・・・軍事行動の本質ってのは何か?ってことを肝心の一般的な米国人が理解していない
・・・が故に、付け込まれる・・・そうした結果でもあるんじゃないかなぁ?
とにもかくにも真偽を明らかにすることですけど、難しいだろうなぁ
関連記事(固定リンク)
http://aseanlethualook.spaces.msn.com/blog/cns!121141892351AD6C!496.entry
http://aseanlethualook.spaces.msn.com/blog/cns!121141892351AD6C!497.entry

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In the Strawberry Field18 years ago

眉唾なイラク米兵による悪事報道

イラクにおいて、アメリカ兵がなにか悪さをしたという話が持ち上がると、事の是非を確かめもせずセンセーショナルにすぐ報道するアメリカを含め世界の主流メディアの無責任ぶりには…

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In the Strawberry Field17 years ago

ハディーサで殺人事件はなかった! 米兵容疑者二人目も起訴却下決定!

2005年にイラクはハディーサで路肩爆弾での攻撃の後、復習のため近所の民家に住む無関係な民間人を24人虐殺し、上官たちもその事実の報告を怠ったとして、8人の海兵隊員が起訴されている事件で、先日三人の民間人を殺害した容疑で起訴されていたジャスティン・シャーラット兵長(Lance Corporal Justin Sharratt)が物的証拠が検事側の主張とは完全に矛盾するとして、証拠不十分で起訴取り下げとなった。これでこの事件で起訴が却下されたのは先のこれで、この事件で起訴却下になったのはサニック・デラ…

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In the Strawberry Field16 years ago

最初の無罪! ハディーサ虐殺事件隠蔽はなかった!

2005年のイラクはハディーサで、米海兵隊員が24人のイラク市民を虐殺したとされた事件で、その証拠を隠蔽した罪に問われていた海兵隊中尉が、今回この事件では初めての軍法会議ですべての件で無罪となった。 無罪になったのはアンドリュー・グレイソン中尉、27歳。グレイソン中尉は事件について虚偽の報告書を提出した罪、また捜査を妨害した罪などに問われていたが、そのすべての罪が無罪であるという判決が火曜日に出た。 この事件に関連して8人の米兵が殺人罪や隠蔽罪に問われていたが、すでに5人の罪が棄却されている。残って…

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In the Strawberry Field16 years ago

ハディーサ裁判、7人目の罪も棄却

2005年11月、イラクのハディーサで24人の一般市民を海兵隊が虐殺したとして8人が殺人や証拠隠蔽の罪に問われている所謂(いわゆる)ハディーサ裁判だが、この間の無罪判決に続いて今回罪に問われていた隊員としては一番位の高いジェフェリー・チェサーニ大佐の罪状も棄却された。これで罪に問われていた8人中7人の罪が棄却されるか無罪になるかしたことになる。 残るは過失致死に問われているフランク・ウーテリック隊長の裁判を残すのみとなった。 私はこのことについてはもう何度も書いてきたし、これ以上言うことはないのだが…

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In the Strawberry Field8 years ago

ハディーサ事件:それぞれの思惑

アップデート: 2012年1月24日:2005年11月、イラクのハディーサで24人の一般市民を海兵隊が虐殺したとして8人が殺人や証拠隠蔽の罪に問われていた所謂(いわゆる)ハディーサ裁判。実際に犯罪が起きたという事自体が疑惑とされ、すでに8人の被告中7人までが無罪もしくは起訴棄却で全く罪に問われずに終わっている。最後に残った8人目の被告、フランク・ウーテリック一等兵曹(Staff Sgt.Frank Wuterich)がこの度「職務怠慢」の罪を認めることによりアメリカ軍人に対する最長の裁判の終幕となっ…

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