March 9, 2014

宮崎監督の飛行機への愛が政治を超えた風立ちぬ

日本ではすごい人気だったという宮崎駿監督の「風立ちぬ」が近所の映画館に来ていたので観て来た。私は昔から「隣のトトロ」の大ファンでお風呂場はすべてトトロモチーフにしているくらい。ただ、監督の宮崎氏はかなり左寄りの思考で「もののけ姫」とか「千と千尋の神隠し」などは彼の左翼リベラル特有の環境保全思想が全面的に出過ぎていて、映画全体がお説教ぶっていて嫌だった。また宮崎氏が護憲法9条派であることも有名なので、零戦の設計者である堀越二郎の人生を描くとなると、やたら反戦のプロパガンダを聞かされるのかなと心配だった。しかし映画では堀越二郎は戦争に加担した悪人としてではなく、単に航空科学に熱烈な情熱を注いだエンジニアだということだったので観に行くことにした。

宮崎の映画では、背景描写の細やかな美しさにはいつも心を打たれる。特に監督が育った昔の日本を描写する時、実際その時代を生き、その場を愛した監督の気持ちがひしひしと伝わってくる。この映画も例外ではない。堀越二郎が育った大正時代の田舎町。泥道を行く馬車や川を行く小舟の数々。風ぞよめく広大な草原。確かにここなら、美しい飛行機を作りたい少年が夢を見られるかもしれないと思う。この草原で少年二郎は尊敬するイタリアの設計技師カプローニに白昼夢のなかで出会う。実際に二郎がカプローニにあったことがあったのかは解らないが、カプローニは映画のところどころで二郎の幻想として登場する。

人気映画なのでいまさらあらすじをご説明するまでもないと思うが、特に説明するような筋というものもない。堀越二郎という大正時代から昭和の戦争前夜に活躍した天才的な航空科学技師の少年から青年期を描いたもので、あちこちで二郎がスライドルールを使って(計算機など無い時代)飛行機の設計に没頭している姿が全体的にまったりなペースで描かれる。

愛妻奈緒子とのラブストーリーも二郎の飛行機への愛とだぶる。二郎と奈緒子が紙飛行機を投げ合って遊びながら二人の愛は深まる。結核に病む病弱な奈緒子との明日をもしれない短い愛の暮らし。横たわる奈緒子の手をつなぎながら夜遅くまで設計に励む二郎。

これを普通のアニメを期待していた子供が観ていたらかなり退屈してしまうだろう。この映画が日本で大人気だったというのはちょっと不思議だ。観客層はかなり高年層の人たちだったのだろうか。もし日本の若者がこの映画を本気で好きだったのなら、日本の若者はアメリカの若者達よりかなり集中力があるのだなと感心してしまう。なにせハリウッド得意の手に汗握るアクションの連続とはほど遠い映画だからである。

映画を通じて感じるのは宮崎の古い日本への懐かしい想いと飛行機への愛情である。自分の設計が戦争の道具に使われるという葛藤は二郎にはない。ナチスの台頭を目前にしたドイツへの訪問や国内で特高警察に睨まれたことなども割とさりげなく扱われ、二郎自身には全く政治色はない。戦争に加担した主人公の罪を無視しているという批判もあるらしいが、宮崎が堀越二郎の伝記を反戦プロパガンダに使わないでくれたことに私は感謝している。その誘惑は多いにあったはずだから。

だいたい世界恐慌まっただなかの日本で飛行機設計技師が勤められる分野といえば防衛関係なのは当たり前。旅客機など無い時代だ、お得意さまが軍隊なのは自然の成り行き。第一、日本人技師が自分の設計が日本の国防のために使われることに誇りこそ感じるにしても、違和感を持つ方がおかしい。

ただ政治色云々より映画としては今ひとつかなという気はする。二郎が東京で関東大震災に出会うとか戦争を目前にするという背景はあるが、二郎自身の人生はそれほど波瀾万丈ではなく、これといった出来事が起きない。愛妻の奈緒子をはじめ、幻想の世界のカプロー二、三菱の上司黒川や同僚の本庄、妹の佳代やドイツ人のカストルプなど、面白い登場人物に囲まれてはいるが、二郎自身が秘密警察に逮捕されたわけでもないし、偉大なる設計士との感動的な出会いもない。ドイツでの研修旅行もエンジニアの一行として同行したような気分になった。

さて、面白い効果として、何故か関東大震災や飛行機のエンジンやプロペラの音響効果がすべて人の声でされている。また背景描写が非常に現実的であるにも拘らず、登場人物の描写は漫画的な質素さがあり、ところどころぎくしゃくとしていて、これにもちょっと違和感がある。

英語版で観たので英語の声優については、二郎役のジョセフ・ゴードン・レビットの淡々とした口調はエンジニアの二郎にはぴったりだ。黒川を演じたマーティン・ショートが択一。ロード・オブ・ザ・リングスでフロドを演じたイライジャ・ウッドが曽根という役で登場したらしいが、全く印象になかった。二郎は奈保子とフランス語を話したりドイツではドイツ語を話したりしているが、日本語版ではどのようにしたのだろう?またカプロー二のイタリア語訛りはどんなふうに演じたのか興味あるところだ。

「隣のトトロ」や「魔女の宅急便」には及ばないが、説教じみずに飛行機への愛を語ったと言う点でまずまずの出来といったところか。

英語版声優一覧:

Joseph Gordon-Levitt – Jiro Horikoshi[7]
Emily Blunt – Naoko Satomi (spelled "Nahoko" in the end credits)
John Krasinski – Honjo
Martin Short – Kurokawa
Werner Herzog – Castorp
William H. Macy – Satomi
Darren Criss – Katayama
Mae Whitman – Kayo
Mandy Patinkin – Hattori
Jennifer Grey – Mrs. Kurokawa
Stanley Tucci – Giovanni Battista Caproni
Elijah Wood – Sone
Ronan Farrow – Mitsubishi Employee
Zach Callison – Young Jirô

March 9, 2014, 現時間 10:21 AM

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