April 29, 2011

不気味に現在の社会と重なる映画『肩をすくめるアトラス』

リバタリアンのカリスマ、ロシア出身のアイン・ランド原作のAtlas Shrugged (『アトラス、肩をすくめる』の意。)が映画化され公開された。

アイン・ランドは共産圏のロシアからアメリカに亡命して作家となった女性で、利己主義の美徳を説いた人だ。彼女の伝記はヘレン・ミレン主演でアイン・ランドの情熱というテレビ映画にもなっているので、「アトラス、、、」と二本立てで観るのも悪くない。

原作は一種のSF小説なのだが、ジョージ・オーウェルの「アニマルファーム」や「1984」と同じように、社会主義の恐ろしさを描いた小説だ。読者がリバタリアン系保守派なら一読の価値ある小説だが、いかんせん長いので、アイン・ランドが誰か彼女の思想はどのようなものなのか、全く知らない人はこの映画から入って行くのも悪くない。小説の精神を誠実に保った非常に素直な映画だ。

原作が書かれたのは1957年なので、アメリカの主流な交通機関が鉄道という設定は現在のアメリカ社会を舞台にするには無理があるのではないかと思ったのだが、アラブ諸国での紛争で原油の値段が暴騰し飛行機や自家用車での移動や輸送が不可能になったという説明があり、「うまい」と思わずうなってしまった。この映画の撮影中にはまだエジプトやリビアの紛争が起きていなかったはずだが、この映画がSFとして設定した未来像が実際にそのまま起きていることは非常に不気味だ。

しかも、冒頭でテレビの政治討論番組で実業家と政治家が言い争いをするなか、実業家が「アメリカにはいくらも資源があるのに、国が発掘を拒んでいる」と政府の方針に文句をいうあたりなど、まさに去年の原油漏れ以来海洋原油発掘を事実上差し止めにしているオバマ王や、アラスカのアンワーの原油発掘を自然保護を理由にかたくなに拒む民主党議員達の政策をそのまま批判しているかのようだ。

もっともアイン・ランドの原作は、誰が何時の時代に読んでも、私にもそんな経験があると思わせる部分がいくつも出てくる。特に左翼リベラルとしょっちゅうやりあってる人間なら、小説のところどころで主人公に浴びせられる批判は、そっくりそのままの語彙で浴びせられた経験があるはずで、作家は私の人生を何故知っているのかと不思議に思う場面が数々ある。

映画の設定は2016年という近い未来。世界はアラブ諸国の原油生産国での紛争がもとで資源不足。交通や輸送手段は鉄道が主な手段として残っているだけ。政府の社会主義的な悪政策のせいでアメリカの中小企業は大打撃を得ており、社会は非常な不景気で1930年代の大恐慌のような失業率は25%以上。

日に日に政府による産業への官制が厳しくなっていくなか、父親から受け継いだ鉄道会社タガートトランスコンティネンタルの副社長として、なんとか会社を保もっていこうとしているのが主人公のダグニー・タガート(Taylor Schilling)。長男として社長の座を引き継いだ弟のジェームス(Matthew Marsden)は社長とは肩書きだけの理想家。ジェームスは政治家に取り入るしか能がないビジネスの才能はゼロの男。実際の経営にたずさわっているのは姉のダグニーで、彼女がいなければ、とっくの昔に倒産していただろう会社経営だが、利益のためなら容赦なく無駄を切り捨てるダグニーの経営姿勢に対して「姉さんは冷酷だ、他人の気持ちなど一度も考えたことがないんだろう」とことあるごとに批判的な態度をとるジェームス・タガート。

100年も修復されていない線路を長距離に渡って新しくし、新幹線のような高速列車を通そうと野心を燃やすダグニーは、最新の鉄を生産しているリアドンメタル製鉄会社の社長ヘンリー(ハンク)・リアドン(Grant Bowler)と契約を結ぶ。

リアドンはこの不況時において非常な成功を収めている数少ない実業家であるが、その家庭には恵まれていない。30も過ぎて仕事もせずに兄の脛かじりの実弟フィリップ(Grant Bowler)はリアドンから自分が支持する左翼団体への10万ドルという寄付金をせびりとっておきながら、大企業主からの寄付金だとわかると左翼団体として恥かしいので小切手ではなく銀行へ直接振り込んで欲しいなどという。実母(Christina Pickles)も妻のリリアン(Rebecca Wisocky)もリアドンの経済力のおかげで贅沢な暮らしをさせてもらっているにもかかわらず、金儲けのために働く実業家としてのリアドンに対し軽蔑心を隠す事が出来ない。

特に妻のリリアンは冷たい美女で、豪華なドレスや高価な宝石を身にまとい高級社会の妻としての世間体にしか興味がなく、そんな生活を可能にしているハンクへの愛情などひとかけらも感じていない。ハンクは妻と寝室も別々で、時折性行為のためだけに妻の寝室を訪問する以外には、二人の間に精神的なつながりは全くない。

そんなハンクが自分と同じように事業に情熱をそそぐダグニーと出会い、二人の仲が急速に進展するのは当然のこと。だが、二人が力を合わせて高速列車を走らせようとする間にも、二人を取り囲む世界はファシズムへの道を猛烈な勢いで進んで行く。

政府が次々に提案する法律は、労働者を守るとか平等や公平を保つためという名目のもとに通されるが、実際には才能と実力のある企業を競争相手の企業や政府が結託して気に入らない企業をつぶしたり食い物にするのが目的な理不尽な法律ばかり。

映画はディストピアを描いた架空小説ではあるが、そのなかに出てくる逸話は現代社会と不気味に重なる部分がある。

労働組合が企業を乗っ取り、組合が経営者に給料を能力別ではなく必要に応じて金額を決めるやり方を強制してつぶれてしまった企業などは、労働組合に食い物にされて労働組合のオバマ政府に乗っ取られたジェネラルモーターズを思い出させるし、企業が勝手に本社を移転しないように規制する法律は、ワシントン州のシアトル市にあるボーイング社が労働組合の力から逃れるために他州に移転しようとしてオバマ政権の労働省からクレームがついた例などを思い出させる。

能力と実行力のある人々が支えて来た社会を、何の能力もなく自分では何も生産しない腐敗した政治家や理想主義の社会主義者たちがどんどん蝕んで行く。そんななかで、ダグニーの回りでは才能ある人々が次々に姿を消して行く。それぞれに「ジョン・ガルトって誰だ?」という不思議な言葉を残して。

この映画は三部作の第一作なのだそうだ。すでに三部まで制作が済んでいるのかどうか解らないが、こんな反社会主義映画が政策されたということ自体奇跡に近い。無論ハリウッドでは非難囂々。公開している映画館の数も限られているし、宣伝も派手にはされていない。

だが、保守派ブロガーやトークラジオなどの紹介で、結構地味な人気が出て来ているようだ。2012年の選挙を前に、オバマ王や民主党が幅を利かせると社会がどういうことになるかを知ってもらうためにも、アイン・ランドなど聞いたこともないという普通の人に観てもらいたい映画だ。

April 29, 2011, 現時間 12:15 PM

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