April 10, 2011

カカシにもの申す! ウィスコンシン州教員の立場から抗議

本日、ウィスコンシンで公立学校で夫婦で教員をしているというアメリカ生活はもう長いとおっしゃる日系アメリカ人女性からメールを頂いた。非常に丁寧にご自分たちの立場をご説明いただいたので、こちらもきちんとお答えする必要があると思う。お返事はせっかくなのでメールではなくブログにて書かせてもらう。ただし、メールからの直接の引用は止めてほしいとのことだったので、私の文章でまとめたものを掲載する。

彼女は私が以前に書いた一連のウィスコンシン騒動について異論を述べている。関連記事はこちら。

ウィスコンシン州知事全面勝利、明るみに出た民主党と労組の腐敗ぶり
何故団体交渉はいけないのか?
民間企業の組合よりたちが悪い州公務員労働組合

さて、ではコメンターさんのクレームを順を追って分析してみよう。

ウォーカー知事は州の財政を建て直すために労働組合を廃止しようとしているが、州の経済は組合をつぶさなければならないほどひどい状態ではない。

これは非常に事実を歪曲した言い方だ。先ず第一に、ウォーカー知事は労働組合を廃止したいなどとは一度も言っていない。組合による団体交渉権の一部を限定したいと述べたに過ぎない。知事が財政を建て直すために州公務員に提案した内容は下記の三項目、知事が州公務員にあてて書いた手紙よりまとめると、、

  1. 年金への自己負担について、ウィスコンシン年金システムへの振込の毎月自己負担を50%に引き上げる。これには知事を含む州従業員全体が対象となる。この金額は2011年の年収の5.8%程度であり、民間企業に勤務する人々のほぼ全国平均である。
  2. 健康保険料の負担について、現在州従業員は毎月の健康保険料の6%を負担しているが、これを少なくとも12%に引き上げる。これでも民間従業員の負担よりずっと少ない。(後略)
  3. 団体交渉権について、基本給料の率に関しての交渉権を制限する。昇給の額はthe Consumer Price Index (CPI)を上回ってはならない。契約は一年ごととし新しい契約がむすばれるまで給料は凍結される。組合は一年ごとに選挙をおこない組合としての資格を維持しなければならない。経営者側が組合費を集めることは禁じる。団体交渉の対象となる従業員でも組合費を支払う義務はない。 この法律からは地方警察や消防署及び州パトロール隊の従業員は除外される。

ウォーカー知事が組合の権力を弱めようとしていることは確かだが、組合の存在そのものをつぶそうという意図は明らかにされていない。組合が実際に従業員の労働条件を良くしているというのであれば、特に政府が会費を無理矢理とりたてなくても自主的に従業員から組合費を集めることは可能なはずだし、組合が人気があれば、組合の存在自体を承認するかを投票で一年ごとに取り決めることにも問題はないはず。こうしたことが組合をつぶすことになるというのは変な理屈だ。

また、警察や消防などが予算削減の対象から除外されている点についても、コメンターさんは彼らが前の選挙でウォーカー知事にたくさん献金したからだという。だが私から言わせれば、州の安全に直接関わる機関を対象外にするのは当然のことだと思う。少なくとも予算削減は他の部分で決着が着いてからにするというのは懸命だ。最初から警察官や消防官や州警備隊を予算削減の対象にしたりしてそれらの組合にストでもやられた日には教育組合との話合いどころではなくなるからだ。

団体交渉権がなくなると、劣悪な労働条件を強制されても従わなければならなくなる。

以前にも書いたが、民間企業の場合には組合が団体で経営者と交渉する権利が保証されることに問題はない。なぜなら民間の場合、雇用主が従業員に直接給料を払う立場にあるからだ。しかし公務員の場合は、交渉の相手である州政府は公務員の雇用主とはいえ直接給料を払う立場ではない。実際に公務員の給料を払うのは一般の納税者である。ところが、その当の納税者にはこの「交渉」における発言権がない。言ってみれば、公務員労働組合の団体交渉は組合と州政府が組んでいかに納税者から税金を巻き上げるかという相談でしかなく、納税者には異論をとなえるすべがないのである。(こういうのを代表のない課税という)

これまで、ウィスコンシン議会で多数議席を占めていた民主党議員たちは組合に都合のいい条件を通す事によって自分たちは組合から政治献金という見返り金をもらってきた。そうやって州公務員は民間従業員よりずっと良い労働条件を得て来たのである。それが現在の州の財政難のひとつの要因となっているのだ。

ウォーカー知事が団体交渉権の制限を主張し続けている理由は、交渉権さえあれば、共和党が多数議席を持っている間だけ妥協しても、民主党が多数を握った時点で再び公務員優遇体制が舞い戻り、現在の財政難を作った状況が繰り返されるだけだからだ。

ウォーカー知事は公立学校の予算を減らしておきながら、私立学校へ通う生徒にバウチャーという形で授業料を援助しようとしている。

私立へ通う生徒へのバウチャーだが、州は公立学校に生徒の頭数によって資金を供給している。無論学校の資金は税金で賄われているわけだから、子供を私立の学校へ送る家庭は自分の子供が行かない公立学校に行く子供達の授業料を一部負担し、さらに自分の子供が行く私立学校の授業料を払うという二重の負担をしていることになる。

ウォーカー知事が提案していることは、私立学校に子供を通わせる親にも、自分の払った税金の一部が自分の子供の授業料にバウチャーという形であてがわれるようにしただけだ。しかも私立に行く子供に与えられるバウチャーは州が公立学校に支払う一人頭の生徒の金額よりも少ない。つまり、州としては私立に行く生徒にバウチャーを払った方が同じ生徒が公立学校へいくための授業料を払うより安上がりなのだ。公立学校の生徒への資金を減らして私立学校の生徒にあてがったという考え方は正しくない。

州が経済難であるにも関わらず、利益をあげている銀行や大手企業には税金控除がされ、公立学校や生活保護や保険などの公共機関の予算が削られるのは理に合わない。なぜ民営企業にばかり恩恵をあたえ、公共機関を縮小しようとするのか。何故公務員ばかりがリストラされたり減俸を強いられるのか。予算がないのなら税金をあげて州全体で不況を乗り切ればいいではないか。景気のいい時は民営企業の社員は公務員よりずっと高給をもらってその恩恵を受けて来たのだから、不景気の時くらい犠牲を払ってもいいはずだ。

この部分を読んで、教育界というバブルの中で生きていると、こうも世間知らずになるものなのかと感心してしまった。

コメンターさんは自分の夫の給料が民間企業の同じ学歴の人と比べてそれほど高くはないと言い張る。ウィスコンシンの一般市民の平均年収がどのようなものか私は知らないので何ともいえないが、借りに民間企業の従業員が景気のいい時に公務員より高級取りで優遇されていたとしよう。コメンターさんは不景気になった今、こうした民営企業の社員たちがそれまでと同じように優遇されていると本気で思っているのだろうか?

一昔前までは民営企業の給料の方が公務員のそれより高いというのが普通だった。それでも公務員が低い給料で甘んじたのは公務員には安定性があるからだ。一般企業は企業が経営不審になれば従業員を簡単にリストラするし、減俸するにしても特に知事が法律を通したりして全国ニュースになどなったりはしない。民間企業で高給をもらっていた社員たちは、景気が傾いた時点で、もうすでにリストラされたり減俸されたりしているはずだ。民営企業に努める納税者たちはもうとっくの昔に不景気のあおりを食って十分に犠牲を払っているのだ。

ウォーカー知事が民間企業の税金を控除したりしているのは、そうした企業の負担を少しでも和らげ、企業の経営維持がされることで、失業者の数を減らそうという考えからだろう。そして、知事は公務員だけを責め立てているのではなく、こういう時だからこそ民営企業の人々と同じように公務員も犠牲を払うべきだと要求しているにすぎない。

公務員の給料が民営のそれより低かったというのは昔の話。それだけではない。組合の団体交渉のおかげで健康保険料の負担や年金への積み立て負担など、一般企業の人々では想像も出来ないような優遇がされていたことが今回のウォーカー知事の法案で明らかにされたのだ。州公務員のコメンターさんは、すでに不景気でリストラされたり減俸されたりしている民営企業の納税者たちに、さらに公務員の恵まれた生活を守るためにもっと税金を払え犠牲を払えと要求しているのである。

自分らの要求がいかに理不尽であるか、彼女たちは全く気がついていないのだ。

次回に続く、、

April 10, 2011, 現時間 8:37 PM

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コメント

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下記投稿者名: mhgt

久しぶりにコメントします。(お元気でしたか?)

私が住むアリゾナの土地では、組合企業がかなり少ないです。
親会社が他州ならユニオン組織の会社もありますが、アリゾナでは稀な方じゃないでしょうかね?
とは言いましても、普通の企業の労働条件がさらに悪くなる、なんてタブーとなってますし、労働側が労働条件に見合わない仕事をさせられてたら、訴える事も出来ます。

確かに、企業のマネージメントは、多少時間帯を要求されるかもしれませんが、それが嫌なら管理職にならなきゃ良い。

大昔の組合の必要性と今の組合の組織は全く違っています。
組合に加入しなけりゃ、労働条件が悪くなるという錯覚は、アリゾナが証明してると思います。(仕事探しに移住してくる人も居ますからね~)。組合の力が凄い州から移住して来たって、不通に働いてますよ。= 何のために組合に金払ってたんでしょう?? って(笑)。

組合だと約束されてると錯覚してる年金、恐らく錯覚で終わると思いますよ。簡単な掛け算が出来る大人なら、絶対計算が合わない事、分かると思うんですけどね~。

上記投稿者名: mhgt Author Profile Page 日付 April 11, 2011 12:48 PM

下記投稿者名: Sachi

マックさん、お久しぶりです。日本のご家族の皆さんは大丈夫でしたか?

大昔の組合の必要性と今の組合の組織は全く違っています。 組合に加入しなけりゃ、労働条件が悪くなるという錯覚は、アリゾナが証明してると思います。

まったくその通りですね。だから組合は組合員に組合がなくちゃひどいことになるぞと日夜脅しを書けているんでしょう。

まるで暴力団の所場代取りと同じです。

カカシ

上記投稿者名: Sachi Author Profile Page 日付 April 13, 2011 6:25 PM

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