November 12, 2007

反戦映画が不入りなのはなぜか?

私が好きな映画のひとつに第二次世界大戦中につくられたフォロー・ザ・ボーイズという映画がある。これはユニバーサルスタジオのオールスターキャストの映画だ。筋自体は非常に単純で、戦争当時に兵士慰問の目的で組織されたUSOの成り立ちの話だ。主役の興行師がどうやってハリウッドのスター達を集めて慰問公演を実現するに至ったかという話に沿って戦地での慰問公演に積極的にスター達がボランティア活動をしたという筋立てになっている。主な役柄以外の出演者達はすべて本人として出演し、スターが出てくるたびに歌ったり踊ったり手品をやったりする。当時はハリウッドスタジオはどこもこういう映画を作ったが、要するに戦地で慰問公演を直接見られない兵士らのために、人気スターたちを集めたもので、筋そのものはどうでもいいようなものである。

とはいうものの、それはさすがに昔のハリウッドだけあって、そんな映画でも結構まともな筋になっている。それに人気スターたちが自分らの身の危険も顧みずに戦地への慰問を積極的におこなった姿勢が出ていて、ハリウッドがこんなに戦争に協力してくれるとは本当にいい時代だったなあとつくづく感じるような映画である。

それに比べて現在のハリウッドときたら、戦争に協力して軍人を慰めるどころか、反戦が講じてアメリカ軍人やアメリカ政府を悪く描く映画しか撮らない。

ここ最近、連続してイラク戦争や911以後のアメリカの対テロ政策に関する映画が公開されたが、どれもこれも不入りで映画評論家からも映画の娯楽価値としても厳しい批判を浴びている。下記はAFPの記事より。

CIAの外国へテロ容疑者の尋問を外注する政策を描いたリース・ウィザースプーンとジェイク・ギレンハール(Reese Witherspoon and Jake Gyllenhaal)主演の「レンディション( "Rendition")」は売り上げ1000万ドルという悲劇的な不入りである。

オスカー受賞者ポール・ハギス監督のイラクで死んだ息子の死について捜査する父親を描いた「インザ・バレーオブエラ("In the Valley of Elah")は、 いくつか好評を得たが9月公開以来売り上げが9百万ドルにも満たない。

アクションを満載したジェイミー・フォックスとジェニファー・ガーナー(Jamie Foxx and Jennifer Garner)主役の「ザ・キングダム("The Kingdom") ですら、4千7百万の予算をかけたにもかかわらず、売り上げが7千万を切るという結果になっている。

こうした映画の不人気は公開予定のロバート・レッドフォード監督の「ライオン・フォー・ラムス」やアメリカ兵によるイラク少女強姦を描いた「リダクテド」の売り上げも心配されている。どうしてイラク戦争や対テロ戦争関連の映画は人気がないのかという理由についてAFPはムービードットコムの編集者ルー・ハリスにインタビューをしている。

「映画には娯楽性がなくちゃいけません」とハリスはAFPに語った。「反戦だとか反拷問だというだけの映画をつくって人があつまるわけがありません。」

ハリスはまたイラク戦争そのものが人気がないので、人々の関心を集めることが出来ないとも語っている。AFPはさらに、イラク戦争や対テロ戦争は第二次世界大戦と違って凶悪な敵がはっきりしないため、人々が興味をもって映画を見ようという気にならないのではないなどと書いている。(テロリストが悪いという判断が出来ないのはハリウッドとリベラルだけだろうと私はおもうが。)テレビニュースで戦争の話をいやというほど聞かされている観客は映画でまで戦争について観たくないのではないかなどと色々な理由をあげて分析している。

しかしAFPが無視している一番大事な点は、これらの映画がすべて反米だということだ。ハリウッドのリベラルたちの反戦感情は必ずしもアメリカの観客の感情とは一致していない。映画の観客の多くは自分が軍人だったり家族や親戚や友達に軍人がいるなど、軍隊に関係のある人が多いのである。そうした人々が、アメリカは悪い、アメリカ軍人は屑だ、イラク戦争も対テロ戦争も不当だという内容の映画をみて面白いはずがない。これはイラク戦争や対テロ戦争が国民の支持を得ているかどうかということとは全く別問題だ。また、戦争に反対だったり戦争の状況に不満を持っている人々でも、彼らはアメリカ人なのである。アメリカ人が金を払ってまで侮辱されるのが嫌なのは当たり前だ。しかしハリウッドの連中は自分らの殻のなかに閉じこもって外の世界を観ようとしないため、これらの映画がどれほど不公平で理不尽なものかなどという考えは全く浮かばないのだろう。

私はアフガニスタンやイラク戦争について現地からのニュースをかなり詳しくおってきたが、これは映画の題材としては完璧だなと感じる記事をいくつも読んできた。アメリカの観客がみて胸がすっとしたり、ジーンと来るような話はいくらでもある。たとえば先日も紹介した「ローンサバイバー」などがいい例だ。これはアメリカのアフガニスタン政策の落ち度を指摘する傍ら、アメリカ兵の勇敢さを描いた話になっている。他にもアメリカ兵が地元イラク人と協力してつくった病院とか学校が残虐なテロリストに爆破される話とか、テロリストによって苦しめられてきた地元イラク人がアメリカ兵の勇敢な姿に打たれてアメリカ軍と協力してテロリストと戦うようになった話とか、イラク兵養成学校でイラク兵を育てるアメリカ兵の話とか、いくらでも説教抜きでイラク戦争やアフガニスタン戦争をテーマにした愛国主義の映画を作ることは可能なはずだ。

ところでローンサバイバーは映画化される予定になっている。監督がキングダムのピーター・バーグなのでどういうことになるか、かなり心配なのだが、もしもバーグが原作の精神に乗っ取った映画をつくることができたとしたら、この映画の人気次第でアメリカの観客が戦争映画に興味があるのかないのかがはっきりするはずだ。もしもハリウッドの評論家たちがいうように、最近の戦争映画に人が入らない理由がイラク戦争に人気がないからだとか、ニュースでみてるから観客があきあきしているというような理由だとしたら、ローンサバイバーも不人気かもしれない。だがもしもこのアメリカの英雄や親米なアフガニスタン人の話が売り上げ好調だったら、観客は反米映画が嫌いなだけで、戦争映画がきらいなのではないということがはっきりするだろう。

なんにしても、この映画の出来具合と人気次第でハリウッドもなにか学ぶことが出来るはずだ。

November 12, 2007, 現時間 2:39 AM

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コメント

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下記投稿者名: アラメイン伯

「フライボーイズ」って第1次世界大戦のラファイエット飛行隊を描いた映画が評判良いですね。

「24」が人気あるところをみるとアメリカ社会は健全だと思います。

上記投稿者名: アラメイン伯 Author Profile Page 日付 November 14, 2007 6:17 AM

下記投稿者名: hatch

>観客は反米映画が嫌いなだけで、戦争映画がきらいなのではないということがはっきりするだろう。


というより、どこの国民だろうと自国が勝った戦争映画が好きで、負けた戦争映画が嫌いなだけでしょう。それにプラス、勝って自分たちが正義と思えるのならより人気が出ると思います。
少なくとも、娯楽映画ならそうでしょう。
後は、日本の例でいえば、「日本の一番長い日」のように、国を壊滅的な内乱状態ではなく、とにもかくにも秩序を保ったまま敗戦を受け入れられたから、今こうして復興できたのだと実感できる映画ならそれなりに人気が出ます。少なくとも、復興できればですけど。俗に言う、「負けてよかった」と国民が思うことができればです。アメリカ人には「負けてよかった」なんてのはありえませんかね。カカシさんにお聞きしたいところです。
あ、付け加えれば映画そのものの出来不出来がその前に合ってのことです。勝ったからって、どうしようもない映画は、やっぱり不入りになると思います。

上記投稿者名: hatch Author Profile Page 日付 November 16, 2007 10:38 PM

下記投稿者名: scarecrowstrawberryfield

hatchさん、

どこの国民だろうと自国が勝った戦争映画が好きで、負けた戦争映画が嫌いなだけでしょう。

でもアメリカはアフガニスタンでもイラクでも負けていません。戦争はまだ継続中です。その間にいかにもアメリカがこれらの場所で悪行の限りを尽くしているという映画をアメリカで作ることの「悪」がハッチさんにはご理解できませんか?戦争中に自国で敵側を応援するプロパガンダを作るバカがどこにいます?

負けた戦争でも、自分らは正義を貫こうとしたが力がおよばなかったという悲劇なら観客の同情を買うこともできるでしょう。勝った戦争でも自分らが弱い国を侵略して征服し、他国民を苦しめたなどという映画が人気を得るとは思えません。

ハッチさんは、日本の悪口だらけの日本映画を見る気がしますか?

どこの国民だって自国の悪口を言われて気分がいいはずありません。これは戦争に勝った負けた以前の問題ですよ。

カカシ

上記投稿者名: scarecrowstrawberryfield Author Profile Page 日付 November 19, 2007 3:07 PM

下記投稿者名: dust_speculator

お初に、dust_speculatorと申します。
古森さんの所から、辿ってまいりました。

以後、お見知りおきを。【--

>どこの国民だって自国の悪口を言われて気分がいいはずありません。これは戦争に勝った負けた以前の問題ですよ。

今から28年前に、知り合いのアメリカ人が、コッポラの「地獄の黙示録」について、「ヴィエトナムに行った父親から、あれは全く違うと」と言っていたことを、カカシさんのコメントを聞いて思い出しました。

上記投稿者名: dust_speculator Author Profile Page 日付 January 7, 2008 10:58 PM

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