November 3, 2007

イスラムの危機:アメリカが「偉大なる悪魔」といわれる理由

引き続き、バーナード・ルイス著の「イスラムの危機」について話をしよう。

アメリカが「偉大なる悪魔」といわれる理由

よくイランの大統領をはじめ、イスラム過激派の連中はアメリカのことを「偉大なる悪魔」と言って忌み嫌う。歴史的にみて、別にアメリカはイスラム教諸国の伝統的な敵というわけではない。アルカエダが好んで我々を呼ぶ「十字軍」も正しくはヨーロッパのキリスト教徒であり、アメリカが生まれるずっと以前の歴史であるし、スペインからムーアが追い出されたことにしても、オトマン帝国の衰退にしても、トルコをはじめ中東を牛耳っていたのはイギリスやフランスであり、アメリカは無関係だ。イスラエル建国の経過にしたところで、アメリカ政府はまったく関知していなかったばかりでなく、建国後のイスラエルとの外交にも非常に消極的だった。イスラエルがアラブ諸国から攻められたときはイスラエルへの武器輸出を禁止したりしていたくらいである。

アメリカはイスラム教にとって敵であるどころか、サウジアラビアやクエートを世俗主義のサダム・フセインの手から救ったこともあるし、キリスト教のサルビアからイスラム教のアルベニアを守ったこともあるではないか?何故そのような善行はまったく感謝されるどころか認識すらされず、他の西洋諸国の過去の行いの責任を何故まだ建国もされていなかったアメリカにおしつけられるのであろうか?

ルイス教授は実はこの反米意識ははじめはドイツ、そして後にソ連によって広められた意図的な意識であったことを指摘する。先ず1930年代のRainer Maria Rilke, Oswarld Spengler, Ernst Junger, Martin Heideggerといったドイツのインテリ作家たちによる歪んだアメリカ像が当時のアラブのインテリを感化した。無論ナチスの思想はシリアのバース党といったファシスト達の間で人気を呼んだ。ドイツはイラクに親ナチスの政権を作ろうと努力していた時期もあったほどだ。イラクやシリアのバース党の基盤はこの頃に始まる。当時ドイツの思想家たちが広めた「アメリカには独自の文化がない何もかも人工的だ」という思想はいまだにバース党の間ではよく口にされる。

ナチスドイツが滅びた後、反米思想を取って代わったのはソ連である。ソ連は決してアラブの友人ではない。だが何故かソ連が親共産主義の政権を作ろうと広めた反米プロパガンダだけはソ連が滅んだ後も根強くアラブ諸国に残ったのである。

無論アメリカにまったくなんの責めもないのかといえばそうとは言えない。1970年代から冷戦が終わった1990年初期に至るまで、アメリカの方針はソ連牽制優先だった。だからソ連に敵対している国であれば、その国がどのような独裁者によって支配されていようともアメリカは協力関係にあった。そのいい例が革命戦争以前のシャー国王であり、イラク・イラン戦争当時のサダム・フセイン大統領である。小さいところではフィリピンのマルコスやパナマのノリエガなどがある。今となれば、この方針は大失敗だった。

イスラム教徒が近代化を拒む理由のひとつに、イスラム教諸国を支配した世俗主義の独裁政権がある。これらの独裁政権は近代化と世俗主義をうたい文句に国民を弾圧した。アメリカ及び西側諸国は彼らが共産主義ではないというだけで援助したため、イスラム諸国の人々にしてみれば、アメリカこそが極悪な独裁政権の大本なのであり、近代化こそが自分らの不幸の原因なのだと考えたとしても理解できないことはない。このことについてはまた後ほど詳しく話したい。

しかしなんといってもイスラム教過激派がアメリカを嫌う一番の理由はアメリカ人が生活の根本として持っている西洋文化そのものであり、それのもたらすイスラム教への脅威なのだ。よく、ミスター苺はアメリカの文化はボーグ文化だという。ボーグとはスタートレックというアメリカの人気テレビSF番組の中に出てくる宇宙人だが、彼らはどのような星も征服し、その星の星人を身も心もすべてその共同体に取り入れて融合してしまう力を持つ。彼らの口癖は「抵抗は無駄だ。融合せよ」。アメリカの文化とはいい意味で多文化を融合して、より強くなっていく文化である。アメリカが熔解の鍋と言われる所以だ。この文化に感化されると、元の文化はもとの姿を保つことが出来ず、必ずアメリカ化してしまう。それほど誘惑的な力を持つのである。まさに「抵抗は無駄」なのである。

イスラム教過激派達はそのアメリカ文化の脅威を正確に理解しているのだ。一旦アメリカ文化に染まれば、彼らの求める回教の支配する世界など望めない。だからこそ彼らはアメリカを憎むのである。アメリカがアメリカであること、それが彼らにとって最大の脅威なのである。

次回に続く。

November 3, 2007, 現時間 7:08 PM

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