August 26, 2007

ブッシュ大統領が戦前日本とアルカエダを同一視したという誤解

この間のブッシュ大統領のミズーリ州における退役軍人相手の演説について、私はちょうど日本の戦後の発展についてブッシュ大統領が語っている部分を帰宅途中のラジオで聴いていたという話は先日した通り。今日になって坂さんのところでブッシュ大統領は戦前日本をアルカエダと同一視していると朝日新聞が報道したというエントリーを読んでたまげてしまった。生放送で聞いていた私はブッシュ大統領がそんなことをいったようには全く聞こえなかったからだ。

今回の演説の主題は歴史的に過去の戦争や戦後の復興をふりかえって、どれだけ専門家といわれた人々の意見が間違っていたかというものだ。それを太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争を振り返ってブッシュ大統領は証明しようとしているのだ。そして私はそれは成功したと思う。

しかし朝日新聞の批判には反論の余地はあると思うので、ブッシュ大統領が実際なんといったのか原文を読みながら考えてみたいと思う。

先ずは朝日新聞の記事から。

ブッシュ米大統領が22日に中西部ミズーリ州カンザスシティーで行った演説は、自らのイラク政策を正当化するため、日本の戦後民主主義の成功体験を絶賛、フル活用する内容だったが、半面で戦前の日本を国際テロ組織アルカイダになぞらえ、粗雑な歴史観を露呈した。米軍撤退論が勢いを増す中でブッシュ氏の苦境を示すものでもある。

冒頭は9.11テロかと思わせて、実は日本の真珠湾攻撃の話をする、という仕掛けだ。戦前の日本をアルカイダと同列に置き、米国の勝利があって初めて日本が民主化した、という構成をとっている。大正デモクラシーを経て普通選挙が実施されていた史実は完全に無視され、戦前の日本は民主主義ではなかった、という前提。「日本人自身も民主化するとは思っていなかった」とまで語った。...

テロとの戦いにかけるブッシュ氏だが、今回の演説は日本を含めた諸外国の歴史や文化への無理解をさらした。都合の悪い事実を捨象し、米国の「理想」と「善意」を内向きにアピールするものとなっている。

確かにブッシュ大統領は戦前の日本の行為とアルカエダの行為との共通点を指摘してはいるが、戦前日本がアルカエダのようなテロリスト団体であったなどとは一言もいっていない。朝日新聞がそのようにこの演説を受け取ったのであれば、これは完全なる誤解であり、ジャーナリストとしてその英語力と理解力の不足が批判されるべきである。また大正デモクラシーにしろ、日本の議会制度にしろ、当時の日本がどう考えていたにせよ、アメリカ人が考えるような民主主義ではなかったことは確かなのであり、その見解の相違をもってして『粗雑な歴史観を露呈した』などというのは馬鹿げた解釈である。この記事について坂さんはこのように感想を述べておられる。

戦前の日本を批判することが多い朝日だが、さすがにアルカイダと同列視されることには我慢がならなかったということだろう。が、逆に言えば、ブッシュ氏のわが国の歴史に対する認識が、それだけ粗雑で無知であるということだ。

坂さんは朝日新聞の記事をもとに感想を述べておられるのでこのような解釈になっても仕方ないのだが、朝日新聞が『さすがにアルカイダと同列師されることには我慢ならなかった』というのは朝日新聞を買いかぶりすぎだと思う。朝日新聞はブッシュ大統領が歴史について無知であるということを強調したいがために、いつもは批判している日本の軍事主義を擁護するという不思議な立場に立たされただけだ。そして朝日新聞はブッシュ批判が先行してこの演説における肝心な点を見逃しているのだ。

それではここで、原文から問題の部分を抜粋してみよう。問題点を指摘する理由で段落が前後することをご了承いただきたい。

我々を攻撃した敵は自由を忌み嫌っていた。そしてアメリカや西洋諸国が自国民に害を与えていたと信じ恨みを抱いていた。敵は自らの基準を地域全体に設立するために戦った。そして時間と共に自殺攻撃に及び多大なる殺りくによって、アメリカ人が疲れて戦いをあきらめるのをねらった。

もしこの話が聞き覚えのあるものだとしたら、確かにそうです。ただひとつ。私が今説明した敵はアルカエダでもなければ911攻撃でもなく、過激派回教朝を夢見るオサマビンラデンの帝国でもありません。私が説明したのは1940年代の日本帝国の戦争マシンであり、真珠湾での奇襲攻撃であり、その帝国主義を東アジアに広めようとした行為です。

(中略)

我々が戦った極東との戦いと今日我々が戦っているテロとの戦いには多くの違いがあります。しかしひとつ重要な類似点があります。それは核心にあるイデオロジーの葛藤です。日本の軍国主義や朝鮮やベトナムの共産主義は人類のあり方への無慈悲な考えに動かされていました。彼等はそのイデオロジーを他者に強要しようとし、それを防ごうとしたアメリカ人を殺しました。今日名前や場所は変わっても、根本的な葛藤の性質は変わりません。過去の敵がそうであったように、イラクやアフガニスタンや他の場所で戦争を仕掛けているテロリストたちは、自由と寛容と反対意見を破壊する厳しい目的をもって自分らの思想を広めようとしているのです。

...この敵は危険です、この敵は決然としています、しかしこの敵もまた打ち負かされるのです。(拍手)

ブッシュ大統領が比較しているのは日本帝国とアルカエダという組織の比較ではなく、アルカエダの行為と日本軍隊の行為の類似点である。そしてまた戦前に日本が手強い敵であったのと同じようにアルカエダも手強い敵なのだと強調しているのだ。

戦闘体験のある軍人に対して輝かしい勝利を得た戦争を例にとって、アメリカは当時も手強い敵と戦って勝利をえることが出来たのだから今回の戦争にも勝てるのだとするやり方にはそれなりに効果がある。ブッシュ大統領は目の前にいる退役軍人に敬意を示しすことで、アメリカ軍全体に対する尊敬の心を表現しているのである。日本人としては負け戦だった太平洋戦争を引き合いに出されるのは気に入らないかもしれないが、ブッシュ大統領が現在の戦争への比喩として過去の勝ち戦を持ち出したからといってブッシュ大統領が戦前日本とアルカエダを同一視しているという見方は乱暴すぎる。現にブッシュ大統領は極東の戦争と今の対テロ戦争には多くの違いがあることを指摘している。

ブッシュ大統領が強調したいことは戦前の日本がどれほどひどい国だったかということではない。それよりも戦前日本がアメリカにとってどれだけ手強い相手だったか、そしてそれだけ手強い敵を相手にしながらアメリカがどのように勝利を得ることができたのかということにある。つまり、『この敵は危険である。この敵は決然としている。しかしこの敵もまた打ち負かされるのである』という点が大切なのである。

最終的にアメリカ合衆国は第二次世界大戦に勝ちました。そしてアジアではもう二つの戦争で戦いました。この会場においでの多くの退役軍人のみなさんがそれらの作戦の帰還兵です。しかしみなさんのなかで最も楽観的な人たちですら、日本がアメリカにとって最も強く最も誠実な同盟国として生まれ変わるとは思いも寄らなかったことでしょう。また韓国が敵の侵略から立ち上がって世界でも指折りの経済国となることやアジアが貧困と失望から抜け出し自由市場を抱擁するようになるとは予測していなかったでしょう。

アジア発展の教訓は自由への願望は否定できないということです。いちど人々が少しでも自由を味わったなら、(人々は完全に)自由になるまであきらめないということです。 今日のダイナミックで希望に満ちたアジアは...アメリカの存在と辛抱強さなくしては不可能でした。本日この会場にお集りの帰還兵のみなさんなくしてはあり得なかったのです。みなさんのご奉仕に感謝もうしあげます。(拍手)

ブッシュの演説で大事なのはこの先だ。ブッシュ大統領は戦後日本の民主化と復興について、日本の天皇制や、神道や、女性に対する考え方の違いなどを理由にどれだけ多くの人々が日本人をばかにして、その才能や実行力を過小評価していたかを羅列した後、それぞれの考えがどれほど間違っていたかを指摘している。

日本の降伏後、多くの人が日本事態を民主主義に生まれ変わらせようなどという考えは甘いと考えました。今と同じように自由とは相容れない民族がいるのだと批評家は主張しました。

日本は文化的に民主主義とは共存できないと言いました。ハリー・トルーマンの下で勤めた前アメリカ日本大使のジョセフ・グルーは大統領に「日本で民主主義は絶対にうまくいかない」と断言しました。...

また、あるひとたちはアメリカは自分たちの考えを日本に押し付けていると批判しました。例えば日本女性に選挙権を与えることは「日本の政治的発展を遅らせるものだ」と言い切りました。

ここでブッシュ大統領は女性の選挙権を薦めるマッカーサー元帥が、日本女性は伝統的で男性に従順すぎるため夫と独立した政治的な考えなど持つことはないと、多くの専門家から批判された事実をその回顧録から紹介した。

今日、日本の防衛省大臣は女性です。しかも先月行われた参議院選挙では史上最高の女性議員が当支援しました。(拍手)

信じられないことですが、日本の国教のせいで民主主義は成功しないと主張した人がいました。 神道は熱狂すぎて、帝国の深く根付いているというのです。リチャード・ラッセル上慇懃は日本人の宗教を非難し、天皇を裁判にかけなければ「民主主義へのどのような努力も失敗する運命にある」と言いました。...

神道と民主主義が共存できないと主張した人々は間違っていました。幸運なことにアメリカにも日本にもそれが間違っていると分かっていた指導者がいたのです。神道を弾圧するのではなくアメリカ政府は日本人と一緒に日本における宗教の自由を設立したのです。天皇制を廃止するかわりに、アメリカ人と日本人は天皇が民主主義社会で占める適切な立場を考え出したのです。

その結果、すべての日本人が宗教の自由を獲得し、天皇は日本の民主主義の象徴として強く育ち日本文化の貴重な一部として受け入れられています。今日、日本は批評家や猜疑心や懐疑心んをもっていた人々に立ち向かい、宗教と伝統文化を保ちながら世界でも偉大なる自由社会となったのです。(拍手)

こうして読んでみるとブッシュ大統領は戦前の日本を理解していないどころか、専門家といわれた歴史家や政治家たちなどよりも、よっぽども日本を理解していることがわかる。

ブッシュ大統領はこの後、朝鮮戦争やベトナムを引き合いに出し、歴史上からみて世界に民主主義を広める考えは正しいこと、専門家の悲観的な考えは得てして間違っていること、イラク戦争を最後までやりとげ、イラクに民主主義をもたらすことの大切さを強調した。

朝日新聞がいうように、民主党や反戦派の間からはブッシュの歴史観は間違っているとする批評は出ている。しかし、ブッシュ大統領の言ったことを誤解してか故意にわい曲してかしらないが、ブッシュ大統領が戦前日本とアルカエダを同一視したなどというデマを流すのはやめてもらいたいものだ。それにしてもアメリカの主流メディアも記事を装って自分の偏向意見を述べるのことはよくあるが、朝日新聞に比べたらずいぶんと大人しいものだ。

関連エントリー:ブッシュ大統領の演説、イラク撤退はベトナムの二の舞いになると主張

August 26, 2007, 現時間 10:15 PM

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