July 27, 2007

人気テレビ番組の反戦テーマで垣間みたアメリカの意外な素顔

私とミスター苺が好きで見ている番組にSo You Think You Can Dance?というダンス番組がある。意訳すると「あなたは踊れるつもり?」というような意味になるが、番組の構成は全国からオーディションを受けて受かった男女合計20人のセミプロダンサーが、毎週いろいろなジャンルの踊りに挑戦。水曜日に踊りを披露し木曜日に視聴者の電話投票によって一番票の少なかった男子と女子が毎週一人づつ取り除かれていき、最後の週に残った4人からチャンピオンが選ばれるというもの。

この人気番組において、昨日、木曜日の結果ショーで不思議なことが起きた。先ず審査委員の一人でもあり振り付け師でもあるミア・マイケルが水曜日に着ていた上着が米海兵隊の制服にそっくりであっただけでなく、階級を示す喪章が逆さまに縫い付けられていたことに対して長々と謝罪をした。どうやら視聴者の間から海兵隊員でもない人間が制服を着ているというだけでも失礼なのに、喪章を逆さまにつけるとは海兵隊をばかにするにもほどがあると苦情が寄せられたらしいのだ。

ミア・マイケルはファッションのつもりできていただけで、それが海兵隊をばかにする意味になるとは全然気が付かなかっ、無神経なことをして申し訳ないと誠意を込めて謝った。

それに続いて審査員長でプロデューサーでもあるナイジェル・リスコーは、ウエイド・ローブソン振り付けの水曜日の課題ダンスのテーマが「反戦」だったことについて、決して軍隊を侮辱する意味ではなかったと釈明。価値のある戦争が存在することは認める、あのダンスは特定の戦争への反対意見ではなかったのだ、しかし戦争に反対でも軍隊は応援することは出来るはずだ、第一平和を求めない市民がどこにいるだろうか、と問いかけた。ナイジェルの口調から平和を訴えかけてクレームがつくなどとは思ってもみなかったという彼の気持ちは明白だった。しかしウエイドは番組中に「テーマは反戦だ」とはっきり断言していたのを私は聞いたし、戦争中に反戦だと言えば今の戦争に反対してると取られて当たり前だ。

頭の悪い芸能人がリベラルであることはよくあることなので、ナイジェルや、ウエイド、そしてミアが反戦派のリベラルだったとしても別に不思議でもなんでもない。ミアのようにコンテンポラリーの振り付けをするような芸術家は案外世情には疎いので制服の意味を知らなかったというのも多分本当だろう。それに芸能界が何かにつけてリベラル思想を観客に押し付ける傾向は何も今始まったことではないので、水曜日の課題ダンスを観た時もそのテーマには苛立ちはしたが驚きはしなかった。ただ私は振り付け師としてのウエイドを高く買っていたので多少失望したし、これからも彼の振り付けを偏向なしにみることは出来ないだろう。

しかし私が驚いたのはウエイドの反戦テーマやミアの制服ではなく、それに対する視聴者の反応である。普通リベラルが自分の政治思想を明かにした場合、彼等はそれが一般的な認識だと思っているから特に説明の必要があるなどとは考えない。それが番組の冒頭に視聴者に謝罪したり釈明したりしなければならないと判断したということは、テレビ局にかなり多くの苦情が寄せられたのだと判断すべきだろう。

無論競争率の高いテレビ番組ではほんの一部の人からのクレームでも神経質になるのは当たり前なので、これだけで視聴者の政治的見解を理解できるとは私は思っていない。ただ、番組が終わってすぐ、私は番組のファンが集まる掲示板を覗いてみたのだが聞き慣れた反戦派連中の「ブッシュの嘘で人が死んだ!」「ナイジェルが謝る必要はない!」「言論の自由を守ろう」というような投稿に混じって、「自分の夫は海兵隊員だ。ミアの上着には頭にきた」とか「軍隊のおかげで君たちが好き勝手なことがいえるのだ、感謝しろ」といったような投稿も案外あったことに私はまたまた驚いてしまった。

下記の二つの投稿は問題の水曜日の放映があった直後、掲示板で「海兵隊への侮辱」というスレッドで200以上寄せられた海兵隊員たちからの典型的な苦情である。

自分は海兵隊の曹長であります。私はこの下らない番組はこれまで見たことはなかったのでありますが、たまたま観ていたらミアが海兵隊の青い正装用上着をきているのに気が付きました。我々がこの制服を着るためにはその権限を取得しなければならないのであります。それをミアは全国放送のテレビで着ていただけでなく、ボタンもかけず喪章を逆さまにつけて着ていたのです。今は70年代ではありません。自分も自分の同胞も我々のする仕事をからかうような真似はしないでいただきたいと存じます。ウィリアム曹長、米軍海兵隊

私は元海軍将校であり光栄にも海兵隊基地で仕事をした経験のあるものです。私もミアの上着は制服をきる特権を得た勇敢な海兵隊員に対する侮辱だと思います。テレビ局は謝るべきです。シャーマン大尉、米海軍退役

正直言って私はミアの上着が軍隊関係のパターンだなとは気が付いたが、それが海兵隊の正装だったとか、喪章が逆さまだなどということには全く気が付かなかった。しかし海兵隊員にしてみれば自分が苦労してあの制服を着る特権を得たのに、脳天気な振り付け師などにファッション感覚などで着てもらいたくないというのは本当だろう。それ自体は分かるのだが、そういう人たちがこの番組を見ていたという事実が興味深い。

さてそれとは別にウエイド・ローブソン振り付けで10人のダンサーが全く同じ踊りをしたダンスのテーマは「反戦」。それぞれのダンサーがピースマークのついたシャツを着て、背中に「平和」「希望」「忍耐」といったスローガンが書かれていた。踊り自体もウエイドとしてはかなり質の低いつまらないものだったが、私はミスター苺に「どうして、『勝利』『勇気』『名誉』てな言葉は出てこないのかしらね。」と話していたほど反戦色の濃すぎる内容だった。これに対しても苦情が殺到した。

...私は本日の過激な反戦メッセージにはとても失望しました。この番組のプロデューサーは我々が楽しみのために戦争をしているとでも思っているのでしょうか? 私たちは私たちの命のために戦っているのです。どうしてこんなことが分からないのでしょうか。...私の娘はこの番組の大ファンで、去年はデトロイトでツアーも観にいきました。今年もツアーに参加する予定でしたが、この「平和」ダンスを見て、お金は反戦番組を支持するために使うよりましな使い道があるだろうと考え直しました。アメリカに神のご加護を! 匿名主婦

面白いのは反戦派の何気ない行動が愛国者たちの反感を買うと、彼等はこぞって我々の反論は彼等の言論の自由を脅かすものだと批判することだ。リベラルや反戦派はまるでそれが常識でもあるかのようにブッシュ政権の悪口や反戦の意見を平気でどこでも言い出す。彼等は自分達がダンスコンテスト娯楽番組という全く政治見解の表明には適切でない場所で自分達の偏向した意見を我々に押し付ける自由は主張しても、何の関係もないところでいちいち侮辱される我々が反論する「言論の自由」は認めない。我々がもし彼等のあまりのリベラルな意見に反論すれば、「娯楽番組の掲示板で政治の話など持ち込むな」とこうである。自分達が不適当な場所で政治見解を注入したことなどおかまいなしだ。

アメリカメディアは70%のアメリカ人がイラク戦争に反対しているといい続けている。戦争がそんなに不人気なら反戦をテーマにしたダンスくらいで視聴者がいきり立つほどのこともないと普通は思うだろう。だが、たった30%でも視聴者は視聴者。視聴者の30%を失ってもかまわないと考えるテレビプロデューサーなど存在しない。特定の観客を対象にした地方劇場じゃあるまいし、色々な考えの視聴者が観ているのだということを番組側は考慮にいれるべきだっただろう。

それにしてもダンス番組のファンにこれほど軍関係の人や保守派の視聴者が多いと知って私としてはうれしい出来事だった。今後番組のプロデューサーは視聴者の多くが保守派であることを念頭に置いて政治見解の注入は極力避けてもらいたい。視聴者は家族だんらんでダンス番組を見る時くらい戦争のことなど忘れたいのだから。

July 27, 2007, 現時間 2:14 PM

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