April 25, 2007

イラクのアメリカ即撤退を恐れる中東諸国の本音

イラク戦争は中東では人気がないというのが一般的な見方だ。確かに一般庶民は反米的な見解からイラクではアメリカ侵略軍は罪のないイラク人を殺すのをやめて即刻撤退すべきだという感情が高いかもしれない。だが、それらの国々の支配者たちは口でなんと言おうと個人的にアメリカの力をどれだけ忌々しくおもっていようと、彼らほどアメリカ軍のイラク即撤退を恐れている者達もいないというのがイギリスでもかなり左よりの新聞ガーディアンの意見である。何故アラブ諸国の支配者達はアメリカのイラク即撤退を恐れるのか、まずは比較的穏健派といわれるサウジアラビア、エジプト、ヨルダンの理由を三つあげてみよう。


  1. アラブ諸国はアメリカを利用して自分らの勢力を強める術を学んだ。しかしそのためには親米の姿勢をみせざるおえなかった。ここでアメリカがイラクから撤退するということはアメリカの敗北と解釈され、そのような弱者に媚を売ってきた支配者側は過激化する市民から弱体化したと思われる恐れがある。

  2. アメリカが撤退すればイラクはシーア派の勢力が強化され、隣国で同じシーア派でスンニ派アラブ諸国の宿敵イランと手を組み他のアラブ諸国の勢力を脅かす可能性が高まる。

  3. また宗派間で分裂したイラクでは内乱が絶えず起こり、特に国境を共有する近隣諸国にもその悪影響を及ぼす可能性がある。

しかし反米のシリアやイランも実はアメリカ撤退を望んでいないとガーディアンは言う。なぜならアメリカ軍がイラクで手間取っている間はシリアやイランに手を出す余裕はないだろうと考えるからだ。特にイランはその判断の真偽は別としてイラクにいるアメリカ軍はイランから攻撃するには容易な標的であるという考えらしい。とにかくアメリカにはなるべく長くイラクでてこずっていて欲しいというのが彼らの本音だと言うのだ。

またトルコはアメリカがイラクに要る限りイラクのクルド族が独立国を目指すなどということは考えられないと踏んでいる。クルド族の問題にてこずっているトルコとしてはイラクの北部でカーディスタンなどというクルド国家が出来てもらっては非常に困る。

そしてイスラエルはイスラエルでアメリカのイラク撤退はイスラエルに大悲劇を招くと考える。世界最強の国アメリカがイスラムテロリストに大敗することが可能なら、イスラエルなどアラブの敵ではないわ、と励まされるイランやシリアの手下であるヒズボラやパレスチナのテロリストが奮起だって自爆テロを増加させる可能性が高まるからだ。

と、まあこれがガーディアンの意見だが、シリアとイランの思惑はともかくサウジ、エジプト、ヨルダンそしてトルコそしてイスラエルの心配は当たっているだろう。ただシリアとイランはちょっと違うと思う。そして悪い意味でイスラエルはガーディアンが考える以上に危険な状況に置かれると思う。

先ずイランだがイラクからアメリカが撤退した場合、これはアメリカの国内でも国外でもアメリカの敗北と解釈される(そしてその判断は正解だ)。そんな苦い負け戦を体験したばかりのアメリカがどれほどイランの核兵器開発が気に入らないとしてもまたぞろ大規模な戦争に発展するかもしれない武力行使をするなど不可能である。そんなことは民主党が許すはずはないし第一世論がついてこないだろう。同じ理由でアメリカはシリアに対してもこれといった強硬手段は取れないはずだ。

となってくると一番危険な状態になるのはイスラエルである。イランは腑抜けのアメリカの弱さを利用してここぞとばかりに核兵器開発に力をいれるだろうし、シリアのヒズボラを使いレバノン及びパレスチナのテロリストに資金援助するなどしてイスラエルへの攻撃を容赦なく続けることは目に見えている。

ところで話はちょっとずれるが、エジプトはパレスチナのハマスにイスラエルへのロケット弾攻撃をいますぐ停止しなければ今後資金援助はしないと警告したという。しかも、もし怒ったイスラエルがガザに攻め入ってもエジプトは指一本動かす気はないと断言している。表向きはエジプトはイスラエルに反撃の口実を与えるなと言っているが、本音を言えばハマスの執拗な攻撃に嫌気がさしたイスラエルが本気でパレスチナを攻めパレスチナ難民がどっとエジプトに押し寄せてくるのを恐れているのだ。パレスチナ人は中東でも行く先々で問題を起こすと悪評の高い厄介者だからである。

アラブ諸国の支配者は表向きは反米だの反イスラエルだのと息巻いてはいるものの、両国の強さに頼っているという現実がある。

つまり、アメリカ軍のイラク撤退が及ぼす悪影響はイラク国内では留まらない。ハリー・リードを先頭として民主党はこのことの重大さに気がついているのだろうか?それとも中東がどれだけの混乱状態の陥ろうと自分達の議席を増やすことができさえすればそれでいいのだろうか?

April 25, 2007, 現時間 8:37 PM

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コメント

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下記投稿者名: sou

カカシさん、こんにちは。

なるほど中東の国々(例えばサウジの独裁者)がアメリカ軍のイラク即時撤退を望んでいないというのはその通りかもしれません。
ただ、その上で以下のような疑問も残ります。

中東がどれだけの混乱状態に陥ろうと、それによってアメリカの国益が守られさえすればそれでいいのではないか?アメリカの国益を損ねてまでイスラエル(とか)を守る必要があるのか?

対テロ戦争というぼんやりとした目的の戦争によってアメリカの軍事力は消耗している。最近の北朝鮮に対する明らかな弱腰姿勢を見て日本のふつうの人々でさえ心配になっているほどだ。
イラク撤退によって中東が混乱するとして、それによって増すかもしれないアメリカ本土に対するテロの脅威は、これ以上の駐留によってアメリカの軍事力(アメリカ人兵士、他の地域におけるプレゼンス)を失うという犠牲に見合うものなのだろうか?
そうでないなら、あるいはアメリカ政府はアメリカ人を犠牲にしてまで他の国の人々を守る必要があるのだろうか?もしそんなことを言う人がいれば、そいつこそ非国民ではないか?

ただし中東情勢の混乱は石油危機という形で間違いなく日本の国益を大きく損なうことにつながるので、カカシさんの分析が正しいならば、僕としてはどんなに泥沼になってもアメリカにはイラクにいてほしいですね。

上記投稿者名: sou Author Profile Page 日付 April 25, 2007 11:48 PM

下記投稿者名: scarecrowstrawberryfield

Souさん、

中東がどれだけの混乱状態に陥ろうと、それによってアメリカの国益が守られさえすればそれでいいのではないか?アメリカの国益を損ねてまでイスラエル(とか)を守る必要があるのか?

私は他国のためにアメリカが犠牲になる必要などないと思います。ただ、中東の混乱はアメリカに直接悪影響を及ぼします。もともとアメリカがイラク戦争を始めた理由というのもアルカエダのようなテロ組織に温床の場を与えないことが目的でした。にも拘わらず、イラクを放り出してテロ組織が自由気ままに武力を養えるような状況をつくってしまったら、この戦争の意味が全くなくなってしまうのです。

アメリカ本土にもそして欧州にもそしていずれは日本にもイスラムテロリストの魔の手は伸びてくるでしょう。そしてSouさんもおっしゃるとおり、中東の石油をテロリストやテロ国家のイランの思うままにされた日には世界中が困ることになります。

対テロ戦争とは概念が抽象的すぎるのかもしれませんが、ブッシュ大統領をはじめ国の指導者たちはもっと国民にわかりやすいやり方でそれを説明していくべきだと思いますね。

カカシ

上記投稿者名: scarecrowstrawberryfield Author Profile Page 日付 April 26, 2007 4:04 PM

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