January 12, 2007

アメリカ市民の7割がイラク増兵反対の意味

ブッシュ大統領のイラク新作戦演説が終わるか終わらないうちに数社による世論調査が発表された。そのどれもが圧倒的多数のアメリカ市民がイラク増兵には反対だというもの。以下読売新聞の記事より引用:

米国民の7割、イラク増派に反対…APなど調査

1月12日11時26分配信 読売新聞

 【ワシントン=五十嵐文】ブッシュ米大統領が発表したイラクへの米軍2万人増派について、米国民の約7割が反対していることが、AP通信などが実施した世論調査で明らかになった。

 8日から大統領が増派を発表した10日夜にかけて実施したもので、大統領の支持率も同通信の調査で最低の32%まで落ち込んだ。

 米紙ワシントン・ポストと米ABCテレビが10日夜の増派発表直後に実施した緊急電話世論調査でも、増派反対が61%を占めた。

 上・下両院で多数派の民主党は、増派関連予算凍結なども視野に増派阻止策を検討しているが、調査では53%が民主党の取り組みを支持すると回答した。

世論調査というのは質問の仕方やサンプルの取り方で答えはどうにでも操作できるので、結果だけみてほとんどのアメリカ人がブッシュ大統領の新しい方針を支持していないと考えるのは誤りである。

ここで取り上げられている AP-Ipsos and ABC/Washington Post の世論調査には 根本的な間違いがある。 それはなにかというと、、

政党の方針に関する質問をするのに民主党のメンバーを他党のメンバーより多く調査対象にしている。

ということだ。

AP-Ipsosでは対象人口の政党に関する質問があったがこれは非常に興味深い。

あなたは自分を民主党、共和党、無所属、その他のどれだと考えるか。

共和党 .................................. 24%

民主党....................................35%

無所属....................................26%

その他.................................. 12%

分からない..............................3%

これを見てもらえばわかるが、民主党のサンプルが最も多く、それに続いて無所属そして共和と続いている。民主党のサンプルは共和党のそれよりも46% も大きいのである。共和党の方針に関する質問で民主党のサンプルが多ければ、共和党に批判的な結果がでるのは当たり前である。

しかし多くの世論調査会社はこういった質問は回答者がどの党に所属しているかを聞いているのではなくて、どの党をより支持しているか、という質問なので問題はないと主張する。このような理屈は民主党を多めにとる不公平なサンプルをごまかすための言い訳にすぎない。だがそれを指摘すると彼等はこぞって共和党の不能な方針が民主党の支持者を増やしただけであって、サンプルに問題があるのではないと答える。

だがこの答えには二つの問題がある。

  1. もし民主党支持者の数が共和党支持者よりも増えているというならば、選挙時の投票でその結果が現れているはずである。だが2006年11月の選挙では民主党がすれすれで勝ったとはいえ、民主/共和の支持率はほぼ五分五分であり1992年からずっと変化がない。
  2. それにもし Ipsosが本当に回答者の所属党がその答えに反映しないと考えているなら, なぜこの質問だけ, 質問の対象を 一般の大人から投票登録者のみにかえたのであろうか?

一般の大人であればこの質問の意味を「どの政党をより支持するか」という質問にとるだろうが、投票登録をしている人間なら「どの党に所属しているか」というふうに取るのが普通だ。ということはこの世論調査は 非常に多くの民主党所属市民を対象にした調査だということになる。

ABC/Washington Post の調査ではこのような質問がないため対象人口の分布は明らかではない。だが「イラクの状況を扱うにおいて、民主と共和のどちらをより信用するか」という質問において、民主47% 、共和36% と民主党のほうが多い。民主党はイラクについて一度もどのような方針をとるか発表したことがないので、このような結果がでるということは対象サンプルに民主党の方が共和より多くとられていると判断しても間違いではないだろう。

質問には計画の主要点をすべて含むべきであり、不評と思われる計画だけの質問をすべきではない。

AP-Ipsos の調査ではブッシュの新計画に対してひとつしか質問がされていない。

イラクに兵を増強することに賛成ですか反対ですか?

これでは70% が反対、26% が賛成と答えても不思議でもなんでもない。だが昨日も当ブログで説明したように、増兵は新しい作戦のほんの一部でしかない。ブッシュ大統領が増兵した兵を何に起用するのか、これまでの作戦をどう変更するのかという説明がない限り、単なる増兵案なら私でも拒絶するだろう。イラクで兵が足りないという話はイラク戦争が始まった頃からいわれていたことで、なるべく少ない数でハイテックや特別部隊の起用でやっていこうというラムスフェルド長官の考えは長いこと批判されていた。それでも私は作戦変更なくしての単なる増兵は敵の標的を増やすだけで意味がないと考えてきた。

だから2万兵も増やすというのであれば、この増えた兵がどのように起用されるのか詳しい作戦が提示されない限り私とてそう簡単には同意できない。だがブッシュ大統領は水曜日の演説でその細い新作戦を詳細に渡って説明したのである。この新方針では米軍の戦闘規制の緩和、イラク政府への圧力、シーア民兵および武装勢力の厳しい取り締まり、占拠した土地の長期に渡る制覇など、これまでとは違った新しい作戦が盛りだくさんだった。アメリカ市民がブッシュの新作戦を支持するかどうかはそうした詳しい作戦に関して市民の意見を聞かなければ判断できないのである。

January 12, 2007, 現時間 5:43 PM

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コメント

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下記投稿者名: 舎 亜歴

メディアは少ない時間で何も知らない人にも報道するので、どうしても内容が歪むことがあります。NHKのニュースで与党共和党からも増派反対と報じられ、チャック・ヘーゲルの映像が出ていました。ヘーゲルは開戦時からイラク戦争に反対で、かれを取り上げたからといって反戦気運が盛り上がってきたとは言えないわけです。

中間選挙の結果は戦争の進め方への批判であって、アメリカ国民が即時撤退を求めているかのような報道では誤ったイメージを植え付けてしまいます。

メディアが権力批判という使命感を過剰に意識したがための現象では?

上記投稿者名: 舎 亜歴 Author Profile Page 日付 January 12, 2007 6:19 PM

下記投稿者名: Sachi

アレックスさん

中間選挙の結果は戦争の進め方への批判であって、アメリカ国民が即時撤退を求めているかのような報道では誤ったイメージを植え付けてしまいます

おっしゃる通りです。共和党への不満はあるけれど、それが即時撤退という意味かというとそうではないし、ましてやいますぐ戦争への予算停止なんて考えは全く人気ありません。

民主党はそのへんを勘違いして、あんまり撤退撤退を騒ぎ立てると2008年にツケが回ってくる可能性がありますね。

カカシ

上記投稿者名: Sachi Author Profile Page 日付 January 12, 2007 9:55 PM

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