December 24, 2006

トンデモ陰謀説! イラク宗派間争いはCIAとモサドの企み

洋の東西を問わず馬鹿げた陰謀説を唱える人間はたえない。911同時多発テロがブッシュ大統領の陰謀だといまだに信じきっているかわいそうなひとたちがいるかと思えば、最近はイラク宗派間紛争はアメリカのCIAとイスラエルのモサドが計画したものだという馬鹿げた陰謀説をまことしやかに語る人々が出てきている。昨日も陰謀説大好きなネット上の知り合いボノボさんからの紹介で、北沢洋子なるひとのエッセーを読んだのだが、あまりのトンデモ説にコーヒーを吹き出して大笑いしてしまった。

こんなことをまじめな顔して書くのはどこのカルト信者かと思いきや、この北沢洋子というひと当人のHPを読む限り彼女は30年にわたるベテラン政治評論家だという。

国際問題評論家の北沢洋子です。私は、これまで30年に亘って、第3世界の解放運動の歴史や現状について、同時に南北問題、とくに日本と第三世界との経済関係について雑誌や本などを通じて、評論活動を続けてきました。

さて、ではこのベテラン政治評論家はイラク宗派間争いをどうみているのか、彼女のコラム『イラクは内戦』という神話 からご紹介しよう。

これは、スンニー派とシーア派間の反目と武力抗争のエスカレーションを狙ったものである。そして、これにはイスラエルのも軍情報部と秘密警察モサドが絡んでいる。彼らはイラクの内戦激化を企んだ一連の秘密作戦を展開した。その目的は、イラク国家を解体し、そして、米国がイラクを完全にコントロールし、その膨大な石油資源を手中に入れることにある。

米国防総省の計画の一部として、CIAとモサドはイラク国内で、クルドの訓練と武装を行ってきた。イスラエル情報部隊はイラクの反政府ゲリラの攻撃に対処する米特殊部隊を訓練した。それには、ゲリラのリーダー、有名な学者、科学者(すでに350人の核科学者が殺されたという)、教師(210人が殺され、3,000人が国外へ逃れた)、政治家、宗教界のリーダーなどの暗殺部隊の訓練も入っていた。...

 彼らが手がけた最初の作戦は、2006年2月22日、サマッラで起こったAskariya寺院(黄金のモスク)の爆破であった。...

 黄金モスクに対する破壊作戦はシーア派がスンニー派に対して暴力的な報復に出ることを目的としたものであった。スンニー派指導者によれば、シーア派がイラク全土、20以上のスンニー派のモスクを爆弾や迫撃砲攻撃、あるいは放火などの方法で攻撃した、...

 イラク南部のバスラでは、警察の発表によると、警官の服を着たガンマンが、刑務所に押し入り、12人のスンニー派囚人を連れ出した末虐殺した、という。これらのスンニー派に対する攻撃は、米国防総省のP2OGによる作戦であった、という。ペンタゴンは、黄金のモスク爆破事件はアルカイダの仕業であったというが、Abdul Zara Saidy師によれば、これは、占領者、アメリカ人、シオニストの工作であったと言っている。

こういう陰謀説を唱える人々が絶対にしないことは、「もしもこの説が本当であるならば、こういう状況がみられるはずだ」という科学的実験では基礎の基礎である検証をしないことである。アメリカのイラク侵攻目的が北沢氏のいうように『イラク国家を解体し、そして、米国がイラクを完全にコントロールし、その膨大な石油資源を手中に入れることにある。』であるならば、すでに三年もイラクに駐留しているにも関わらずどうしてアメリカはそれを実行していないのか、という基本的な疑問が生じる。

アメリカの目的が最初からイラクをコントロールすることにあったのなら、イラクを民主主義にしようなどという面倒くさいことをやらなくても、もっと簡単な方法がいくらでもあった。フセイン政権を倒した後、アメリカの言いなりになる独裁者をアメリカの傀儡政府として設立し、形だけの選挙で圧倒的な勝利を得させ既存のイラク軍を使って新しい独裁者にこれまで通りイラク庶民を弾圧させ、アメリカの都合のいい原油産出の契約を交わさせる。アメリカ側はイラク傀儡政権を見張る程度の「大使」を残してあとは撤退。めでたしめでたしである。

石油資源を手中にいれることだけが目的ならイラクを統括している政権がスンニでもシーアでもいいわけで、なにも新イラク軍などを訓練してスンニ派を殺す必要はないのである。いや、むしろ既存のインフラをそのままにして世俗主義のバース党を権力でつって味方につけておいたほうがよっぽども有利だ。

イラクが内戦になって一番損をするのはイラク人はもとよりアメリカである。アメリカにとってはイラクの状態が安定してアメリカに石油をどんどん送り出してくれた方が都合がいいはず。何を好き好んでイラク内乱などを企むというのだろう?

北沢氏はブッシュ大統領のイラクへの兵増強はイラクの治安安定化などというものではないと言い切る。

これらのことは、米軍の駐留こそが、イラクの国内の紛争を抑止するものだという幻想を、メディアの協力をもって振りまいている。これこそが、ブッシュの最大の嘘である。

もしそれが本当ならば、どうしてブッシュ大統領はもっと早期にイラクへの兵増強を実現させなかったのだ? イラク戦争は最初から兵数が不十分であるという批判があった。ブッシュ政権内でもパウエル国務長官などは当初から大量の軍隊を動員すべきだとして、兵数は最小限にするべきという防衛長官のラムスフェルドと常に衝突していた。

ブッシュ大統領は多方からの批判にも関わらず何度も提出されたラムスフェルド長官の辞表を退けてきた。北沢氏は全くご存じないようだが、アメリカ軍はイラク軍(シーア、スンニ、クルドを問わず)の訓練を2004年から着々と進めており、治安維持が可能と思われる地域からその指令権をイラク軍に移譲してきている。もし、アメリカ軍こそがイラク治安維持に必要だという「幻想」をイラク市民に持たせたいなら、なぜイラク軍を独り立ちさせたりするのだ? おかしいではないか。

北沢氏はアメリカ軍によるイラク軍訓練でイラク軍の数はほぼアメリカ駐留軍の数と同等になっているにも関わらず、イラクでの反乱は全くおさまっていない、それはアメリカ軍の存在こそがイラクの紛争を激化していることの証拠だという。だからイラクでの紛争を鎮圧させたいのであればアメリカ軍が撤退するしか道はないという。

だが、それが本当ならば、どうしてイラク内乱を望企むアルカエダのような外国人テロ組織はアメリカ軍の撤退を望むのであろうか? 北沢氏が無視している現実は、アメリカ軍とイラク軍の連合軍はアルカエダおよびスンニ抵抗軍の鎮圧には非常な成功をおさめているということである。もしイラクで問題を起こしているのがアルカエダとスンニ抵抗軍だけであったならば、イラクの治安維持はほぼ大部分で成功したといえるのである。

いま、問題になっているのはイランが援助しているサドルなどが率いるシーア派民兵の反乱である。2004年にファルージャ紛争と同時に奮起したサドルのマフディ軍によるナジャフ紛争で、アメリカ軍は奴らを十分に退治しなかったことや、警察などに潜入してきたシーア派民兵の実態をイギリス軍が取り締まらなかったことなどが仇となっている。 
 
シーア派民兵の取り締まりは、シーア派が多数を占めるイラク政府にはやりにくい。特にマリキ首相はサドルとはなかよしこよしだから質が悪い。

北沢氏はアメリカ軍がイラク紛争の原因となっているという事実をこう説明する。

...最も反米の町Tal AfarやRamadiでさえ、米軍がいないときは平和な町である。現地のゲリラと提携した現地指導者が統治している。ゲリラは、警察の役目をはたし、スンニー派、シーア派地域ともに原理主義的なイスラム法が、支配している。

これらの町は、中央政府の主権や米軍の占領を認めていない。したがって、米軍が、ゲリラの支配地域に入り、ゲリラを掃討しようとすると、町は抵抗する。路地裏で、米軍は民兵のリーダーを逮捕、あるいは殺そうとするとき、これをゲリラは地雷を埋めたり、狙撃したりして抵抗する。なぜなら、ゲリラは通常町の人びとに支持されており、一方米軍の攻撃は、破壊的である。したがって、米兵の“戦果”とは、友人や家族の死によって、より多くのゲリラが生まれる。米軍が撤退すると、町は、以前の状態に戻る。しかし、破壊された町は米軍に対する怒り、恨みに満ちている。...

北沢氏の論理は話が逆である。アメリカ軍がラマディやタルアファーに侵攻した理由はアルカエダがこれらの土地を拠点にしてテロ行為を行っていたからであり、アメリカ軍がラマディに侵攻したからラマディの治安が崩れたのではない。第一北沢氏は無視しているが、ラマディやタルアファー庶民はアルカエダのテロリストたちを大手を広げて歓迎したわけではなく、彼等の侵略によって人質になっていたのである。北沢氏のいう原理主義のイスラム法というのは極端なシャリア法であって、一般市民はテロリストに統治されていたのではなく虐待されていたのである。タルアファーの市長がアメリカ軍へ送った感謝状の話は記憶に遠くない。

アメリカ軍が増えると治安が悪化する例として北沢氏はサドルシティをあげ、民兵によって警備がされていたサドルシティはアメリカ軍の攻撃によって無防備にスンニジハードのえじきとなったという。

米軍は、サドルシティのサドル派の民兵、Balad のスンニー派ゲリラを掃討するという最初の任務以外には、対応しようとしない、あるいはできない。したがって、米兵が増えると、より多くの宗派抗争が起こることになる。

これも変な論理だ。米軍が一旦攻めた場所を守りきれないというのであれば、それこそ米兵の増加が必要だという理屈につながるはず。もし、北沢氏のいうように米軍が増えれば宗派抗争が激しくなり、米軍が攻撃を進めれば進めるほどイラクのゲリラの数が増えるのだとしたら、これがアメリカにとって都合のいい状態とはどうしても思えない。こんな状況にアメリカ軍を増強すればアメリカ兵の犠牲が増えるだけではないか。どうしてアメリカはそのような宗派紛争を望むのだ? なぜアメリカがそのような状況作り出したりしなければならないのだ?

最も恐ろしいことは、ブッシュ政権内に、「宗派間抗争が米国の目的を達成してくれるだろう」という考えが出てきていることだ。『ニューヨーカー』誌の最近号に、SeymourHarsh記者は、CIA情報として、「十分な規模の米軍がイラクに長く駐留すれば、(イラクの)悪い奴は、殺し合いで皆死んでしまうだろう、とホワイトハウスは信じているようだ」と書いている。

最も恐ろしいことは外交問題専門の政治評論30年来のベテランを気取る北沢氏が嘘つきで悪名たかい似非ジャーナリストのシーモア・ハーシのでまかせを鵜呑みにしていることだろう。ブッシュ政権内でイラクの宗派間抗争が都合がいいと考えているひとがいるというなら、名指しで提示していただきたいものだ。

政治評論家などと肩書きはついていても、陰謀説を唱えるカルト信者の中身はどこも同じだ。


December 24, 2006, 現時間 4:09 PM

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コメント

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下記投稿者名: kokunan_jerusalem678

例のボノボ女史の復活ですか(笑)

あの人、非常に論理だった陰謀論者だから、何も知らないと、”まともな人”に見えちゃう。論点ずらしもうまいし、いつの間にか、彼女のペースにはまってしまう。相当のやり手というか、相当の悪質分子ですな。彼女は。

そして、”30年にわたるベテラン評論家”様は、大学から人生勉強やり直したほうがいいでしょう。大学のテストも突破できませんよ。こんなレポートは。

上記投稿者名: kokunan_jerusalem678 Author Profile Page 日付 December 27, 2006 12:09 AM

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