October 13, 2006

西洋が過激化する時、 その2

以前にも私は西洋が過激化する時と題して、ヨーロッパの穏健派がイスラム教徒による暴挙がおこる度に少しづつではあるが、過激化していくような気がすると書いた。

今、フランスではイスラム教徒の暴徒らの取り締まりにてこずり、日平均で14人という数の警察官が毎日のように怪我を負っているという。(Captain's Quaters、France Facing Intifadaより)

フランスでは生活保護住宅地に住む過激派イスラム教徒により、警察に対して、宣言のされていない「インティファダ」もしくは反乱が起きており、この衝突により毎日14人ほどの警察官が負傷している。

内政省の発表によると今年になって2500人近い警察官が負傷をした。ある警察官労働組合はイスラム教徒住宅街でも、最も貧しいbanlieue(場末)ではすでに警察官とイスラム教徒の「内乱状態」に陥っていると宣言した。 Banlieueとは, 郊外とか場末とかいう意味だが、おもに北アフリカ系の失業者が集まっている低所得者の住宅街をさす。

警察組合は政府に、すでに立ち入り不可能になっているこの地域でパトロールする警察官を守るために装甲車を提供してくれるよう嘆願していると語った。

この2年で(警察への)攻撃の回数は三割増となった。フランスではパトロール中の警察官を襲うのはタブーとされていた慣習はやぶられ、それどころか二人や少数でパトロールしている警察官が地元民を逮捕しようとすると攻撃されるようになったと、警察の報道官はLe Figaro新聞に語った。

私がフランスにたいして持っていたイメージとしては、欧州でも指折りのフリースピリッツ(自由精神)の旺盛な文化で、その精神を頑なに守り通す人々というものだ。だからよその国がアメリカのまねをしてアメリカの音楽だの映画だのを無抵抗で受け入れても、フランスは頑固にフランス映画を作り続けるし、シャンソンを歌い続ける。こちらが英語で話しかけてもフランス語で答える。コマーシャルなどでも英語の外来語を使わずフランス語を強調するなど、外国人からみればたまに頭にくるほどごう慢だが、しかしそのくらい努力して自分らの文化を保っていこうとするその自国への誇りには敬意を表する。

そのフランスが、全く正反対の文化を持つイスラム系移民らによって、今真っ向から暴力による挑戦を受けている。誇り高いフランス市民がこれを黙って見ているとはどうしても信じられない。長年に渡るリベラル政治がフランス市民を完全に腰抜けにしてしまったとは信じたくない。

汚職と腐敗で警察のお世話にすらなりそうなシラク大統領は、引退を前にしてフランスの警備などたいして念頭にないようだ。少なくとも政府の対応は十分とはいえない。これについてフランス市民はどう感じているのだろうか? 

シラク大統領の後継はドミニーク・デ・ヴィレピン氏(Dominique de Villepin)とされていたが、最近になってもっと右翼系のニコラス・サコーズィ氏(Nicolas Sarkozy)が優勢になってきたという話をきいた。私は詳しいことは知らないが、サコ−ズィ氏はフランスの大幅改革をうたっているらしく、デヴィラピン氏のような現状維持方針ではなくなる可能性が強い。サコ—ズィ氏の人気はフランス市民の現状への不満の現れといえるのかもしれない。

ベルギーでもフランスと同じように最近のイスラム系過激派による暴走はかなりの顰蹙を買っている。(New York Times, Across Europe, Worries on Islam Spread to Center)

これまでイスラム教移民にたいして批判的な発言をするのは右翼の連中と相場は決まっていた。しかし最近ヨーロッパ諸国で起きているイスラム教過激派による「神の名の元に」行われる暴挙をみるにつけ、これまで穏健派といわれてきた人々の間でも、イスラム教の過激な行動に批判的な意見が聞かれるようになってきた。これまで無抵抗に寛容性を受け入れてきた穏健派は寛容にも限度があるのではないか、と問うようになってきたのである。

『法皇の件で何が起きたかを見たでしょう』とアントワープでファンキーなワインバーを営むパトリック・ゴンマンさん43歳。「法王はイスラム教は乱暴な宗教だといいました。そしたら次の日に尼僧を殺して彼等はそれを証明してしまいました。』

『常識がなくなってるんです。』

ゴンマンさんはおよそ過激派ではない。この間も右翼の反イスラム教デモ行進に抗議して近所の飲み屋にはたらきかけてデモの日に一斉に閉店したような人である。

しかしベルギーでもフランスと同じように右翼系の政治家が勢力をのばしてきている。ベルギーの極右翼党代表、 Vlaams Belang氏は先週日曜日の市の選挙で20.5%の票を獲得した。2000年にくらべて5%増である。オーストリアではイスラム系移民を強制送還しろなどと公約する候補者がかなりの票を集めるなど、ヨーロッパ各地で右翼が人気を高めている風潮がある。

無論、今の段階でイスラム系移民を全員強制送還するなど主流の政治家たちには考えられないことだ。しかし、このような状況に、地元のイスラム教徒らは不安を隠せない。

「そういう時がくると思います」アミアー・シャフさん34歳。アントワープの商店外で洋服屋を営み高い収入を得ているパキスタン人。彼はテロリストを憎んでいるといい、彼自身はベルギー人からの敵意は感じていないという。しかし、「その時がくる前に国へかえろうかと考えています」と語る。

欧州には十字軍の時代からイスラム教対キリスト教の対立が根底にある。何世紀にも渡ってこの二つの宗教は血みどろの戦いを続けてきた歴史がある。また、全盛期の帝国主義時代に欧州がイスラム諸国でおこなった植民地時代への罪悪感なども複雑にからんでいるのである。

この間イギリス在住のコメンターななっちさんがこんなことをおっしゃっていた。

イスラムに他の宗教と同じように厳しくするというのは、「まるで植民地支配のようだ」という意見を何度もイギリスで聞きました。つまり、ヨーロピアンがイスラムに寛容になるというのは「植民地支配に反対するリベラルな自分」の演出なわけ・・だとイギリスに来てから思うようになりました。

オランダでは1960年から70年代にかけてオランダ社会が勝ち取ってきた男女平等や差別のない自由な社会がイスラム系移民によって後退させられる恐怖を感じている人々が増えている。

「多くの人々が、しかも進歩的な人々がですよ、極右翼の国粋主義者とかじゃなくて、言ってるんです。『ここに自分達の60年代と70年代に学んだ常識に挑戦する宗教が存在する。」と」欧州議会グリーン左翼党のオランダメンバーで、イスラム問題に積極的な Joost Lagendik氏は言う。

「まるでタイムマシンに乗って時間をさかのぼって、移民たちに男女平等や、同性愛者をどう扱うかとか教えなきゃならないという恐怖があるんですよ。それをまたやらなけりゃならないという考えです。」

オランダではオランダ在住のイスラム教徒がイラクでテロリスト戦うオランダ軍よりもテロリストを支持する表明をしたことなども重なって、イスラム系移民への反感が高まっているようだ。それで最近はオランダに移民してくる人々に向けたオランダ紹介のビデオにはトップレスの女性や、濃厚な男女のキスシーンなどが含まれているという。イスラム教徒を名指しで対象にしているわけではないが、メッセージは明らかだ。

ヨーロッパの人々が一番恐れ、腹をたてているのが、言論の弾圧だろう。法皇の件にしろ、この間のフランス人教授にしろ、2年前のゴッホ映画監督暗殺事件にしろ、イスラム教を批判するとささいなことでもすぐに命を狙われたり暴動が起きたりする状況に穏健派のヨーロッパ人もいい加減我慢できなくなっている。

私が心配なのはヨーロッパのイスラム過激派に対する敵意がこうじて、ヨーロッパ社会に溶け込んでいる穏健派のイスラム教徒および、中東系、アジア系のイスラム教徒以外の移民や、ユダヤ教徒などにまでそのとばっちりがかかってくるのではないかということだ。ひとつの民族に対する差別意識が許されればそれが他の宗教や民族へまで広がるのは世の常だからである。

だから私はヨーロッパの過激化は決して好ましい状況ではないと考える。

ヨーロッパ諸国のとるべき道は、特定の宗教を特別扱いしないことだ。多種文化主義などと言って自分達の社会の価値観を脅かすような文化を寛容に取り入れることを今すぐやめ、自国の法律や慣習に逆らう行為は誰によるものでも同じように罰し拒絶すべきなのである。

しかし、私はフランスが一年前くらいに通した公共施設での宗教的シンボル着用禁止のような法律には大反対だ。法律は社会の秩序を乱すような行為から社会を守るために存在すべきなのであって、宗教を弾圧するための道具に使われるべきではない。

イスラム教徒が教えのひとつだからと顔も見えないベールをかぶって公共施設にはいってくれば、これは社会の治安問題につながるから違法だというのは当然だ。しかし女性がスカーフを着用していることは警備とは無関係。同じようにヒンドゥー信者が頭にターバンを巻いているから単車に乗る時ヘルメットがかぶれないというような言い訳を受け入れるべきではないが、職場でターバンを巻いて仕事をしている市役所の職員は社会の安全を脅かすわけではない。

つまり、ヨーロッパ諸国は個人の信仰の自由を尊重しながらも、社会の安全をまもるための法律がやぶられた場合には、それがどの宗教の掟に従っていようとも特例を作らずどの宗教の信者も同じように罰することに徹底すべきである。イスラム教徒の間で頻繁に起きる未婚女性への名誉殺人などは絶対に許してはならない。

そして繰り返すがヨーロッパの穏健派イスラム教徒は団結して自分らの社会に巣食う過激派を排斥していく必要がある。そうでないとアントワープの洋服屋さんではないが、店を畳んで故郷へかえらなければならない日が必ず訪れるだろう。

October 13, 2006, 現時間 5:35 PM

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