グランドキャニオン旅行

苺畑カカシ著

第八話: 大峡谷を恐れ敬う

ホテルに帰ってしばらくしてから、夕方6時頃ホテルの前の景色をみていたらげっそり疲れた顔のハイカーが三人登ってくるのに会いました。「ご苦労さんでした、ブライトエンジェルから登ってきたの?」 ときいたら、「いや北の上淵から峡国の底を渡り南をのぼってきました」というのをきいてたまげました。全長37kmのコースを朝6時に出発して12時間かけてあるいてきたというのです。ミスター苺が「すごいな、グランドキャニオンはベテランなんですか?」と聞くと「いやこれが初めて」との答え。ミスター苺が 「そいつは気違い沙汰だ」というと「全く」と相手は苦笑い。

その日は私たちがハイクした日々と比べ10度以下も気温が低かったこともあって彼等は物凄く幸運だったといえます。37kmのハイクを一日でするのに朝6時に出発は遅すぎます。経験あるひとのすることではありません。彼等は自分たちがどれほど運がよかったのかきがついているでしょうか?

私たちはおみやげ物やさんで「グランドキャニオンでの死」という本を買いました。そのなかに上記のような無茶なハイクをして死んだ人たちの話が沢山載っていました。

私たちは途中であきらめて帰ってきてしまったけど、私はかえってそれで良かったと思っています。天候にめぐまれてなんとか歩けてしまっていたら、グランドキャニオンの恐ろしさ、朝早くでることの大切さ、荷物を最低限に押さえる必要性など、何も学ぶことができずグランドキャニオンをあなどって、次の機会に大惨事をまねいたかもしれません。

毎年グランドキャニオンでは数件の死亡事故がおきています。キャニオンを訪れる人の数からすればたいした割ではありませんが、それでも危なっかしいことをやって崖から落ちたり、熱射病で倒れる人がけっこういるということです。崖っぷちででラバの行列にあったらラバに道を譲る規則になていますが、その際壁側によらず崖側によけた観光客の多かったこと。私の乗っていたラバみたいに外側を歩くのが好きなラバにちょっとでも押されたらまっ逆さまに落ちるんだと言う危険性を全然考えていないひとが多くてあきれました。上淵の歩道で柵をこえて写真を取っている人も沢山いました。そうやって落ちて死んだ若い日本人女性の話が買った本にも載っていました。

翌朝午前4時頃、私は目を覚ましました。気が付くとミスター苺も起きています。「あのさ、思ったんだけど、、どうせ眠れないから夜明けを見にいかないか?」そこで私はカメラをもってホテルの外側へでてグランドキャニオンの夜明けを写真に納めることにしました。分刻みでかわる峡谷の景色は私のつたない言葉ではとうてい表現できません。私たちは完全に日がのぼるまでず〜っと峡谷の景色に見入っていました。

グランドキャニオンはすばらしく美しくところです。私は多くの人にその美しさを味わってほしいとおもいます。でもグランドキャニオンは同時に恐ろしく、厳しいところです。その大きさはちょっとやそっとでは味わうことが出来ません。あの峡谷のなかに身をおいてこそ、その強大さを実感することができるのでしょう。私は大峡谷から帰ってきても数日間あの美しさと恐ろしさを忘れることができませんでした。自然の美しさと厳しさを謙虚にうけとめたいと心から思います。