グランドキャニオン旅行

苺畑カカシ著

第五話:キャンプ場

翌日は全く予定がなかったのでブライトエンジェルキャンプ場でゆっくりしました。コロラド河は泥色の荒い河です。また人工的に雪解けの水を流しているため水温は非常に低く、泳ぐのは危険です。河ぞいを少し歩いているとあちこちに渦が巻いているのが見えます。炎天下のハイキングコースをおりてきて、この河にたどりつくと、服をきたまま河にずぶずぶと入っていきたくなりますが、そのようなことをすれば命に関わります。事実そうやって溺れたひとが何人かいるそうですから。

しかしキャンプ場に流れるブライトエンジェルの小川は澄んだ美しい川で流れも緩く冷たい川の中で体を冷やすことも出来ます。かさかさの植物がちらほらあるだけの中腹地にくらべてこのあたりは木が生い茂り、本当にさばくのオアシスです。日中の気温は38度ぐらいなのですが川のほとりにいると全く暑く感じません。それに暑さというのは標高と同じである程度すると慣れるようです。

ところでグランドキャニオンのキャンプ場ではどこにもゴミ箱が置いてありません。それというのもこの自然公園では持ってきたものは全て持ってかえらなければならない規則になっているからです。ハイキングコースのどこにもハイカーの捨てたゴミはひとつも落ちていませんでした。ゴミを捨てたら高い罰金がとられるということもありますが、莫大な自然公園でレンジャーに見つかる可能性は先ずないので、これはハイカーひとりひとりの自然を愛する心がけの現れだと思います。

変な話ですが、このキャンプ場には水洗トイレがついてますが、別のところではトイレなどないところもあります。というより一応キャンプをしてもいいという場所はあってもキャンプ場としての施設など全くない場所が多いからです。そういう所では穴を掘って用を足すしかない。岩だらけの地面では穴が用意に掘れないという難かしさもあります。しかも使用済みのトイレットペーパーはお持ち帰りが鉄則! グランドキャニオンのしおりと共に送られてきた注意事項のビデオでは、トイレットペーパーを燃やそうとして危うく山火事をおこしそうになった人の体験談が語られていました。

ですからもう後は帰るだけで使わないからと残り物をキャンプ場においてくわけにはいきません。このことを最初から計算にいれておかないと帰りは大変です。なにしろ普通の山登りと違って、グランドキャニオンは帰りがずっと登りですからね。幸いなことに、封をきっていないフリーズドライの食料や未使用のガス缶などはキャンプ場が用意のないキャンパーのために使えるからと引き取ってくれたので、だいぶ荷物は軽くなりました。

次の日のハイクアウトはブライトエンジェルトレイルのコースを谷底から上淵まで全長15km登ります。行きのサウスカイバブより距離はありますがその分傾斜が浅いから楽なはず。それにあちらのコースとちがって2〜3kmごとに水の補給ができる休憩所があるので沢山の水を担いでいかずにすみます。荷物も軽くなったことだし、過去の間違いを繰り返さないよう、夜明け前に出発しようと寝床につきました。

数時間後、テントの外が白々としてきたので、あ、いけないもう夜が明けてしまった、また寝坊をしてしまったと思い急いでテントから出ると、明るかったのはなんと月明かり。周りに人工の光がないので月と星だけでも外は非常に明るくまわりの景色がしっかり見えました。キャンプ場を走り回る野生動物の足音をききながら、もう一度寝直しました。

第五話 終