グランドキャニオン旅行

苺畑カカシ著

第二話: サウスカイバブトレイル

キャニオンの南上淵からでている南カイバブトレイルというハイキングコースはキャニオンの底にあるコロラド川まで続いていて11kmのあいだに縦に1.6km下る結構急な下りコースです。

グランドキャニオンで夏場にハイクをする場合は気温の低い朝早い時間にはじめるようにと口を酸っぱくして言われていたにもかかわらず、私たちはなんだかんだぐずぐずしていて、結局はじめたのが朝9時半ごろでした。

思ったより道は悪く、大きな石ころがごろごろしていて非常にあるきにくい。しかもラバの通り道なのでラバ用の大きな階段が作ってありそれが幅は広いし段は高いし一歩一歩ひざにかかる衝撃の強いことといったらありません。しかも我々は20kg近い荷物を背負っているわけですからひどいものです。

午前も十時を回り標高も下がると気温は急上昇しました。アリゾナは湿気がないから気温が高くても過ごし安いと思われるかもしれませんがとんでもないです。是非みなさんにこの暑さを経験させてあげたい。湿気がなくて過ごしやすい温度にも限度があり、ある程度の温度を超すとかえって乾いた空気は恐ろしい。こ日グランドキャニオンの日陰の気温は摂氏39度、日なたは48度でした。ミスター苺が温度計をパックの横にぶらさげていたから間違いない。

それでも三分の二ぐらいのところまでは何とかスムーズに進みましたが、このコースは途中日陰がほとんどなく水を補給できるところが全くありません。それでお昼をこした頃になると私は暑さで少し気分が悪くなりました。

乾燥した地域でよく起きる病気に脱水症と熱射病があります。特に湿気の多い地方から来る人たちは汗が垂れてないと汗を掻いていることに気が付きません。ですから自分の体からどれだけ水分が失われているか解らないことが多いのです。空気が乾燥しているからのどが乾くかというとそれがそうでもない。必要な水を飲まずに、体から水分をなくして脱水症状をおこしても、自覚症状が非常に微妙なので経験がないと自分が脱水症状をおこしていることにさえ気が付かず、体温が上がり突然熱射病で倒れてしまうということがよくあります。

わたしは何ヶ月かに渡って自宅付近くの山で暑い時間帯を選んでハイキングの訓練をしていたので、熱射病の初期自覚症状は知っていました。これが幸いし、このときもこれ以上休まず歩き続ては危ないと気が付き、やっとみつけた日陰で少し休憩して水を飲むだけでなく頭からかぶったりして涼みました。

暑さは何とか凌ぎましたが、度重なる衝撃にたえかねてついに左ひざが悲鳴をあげました。私は右ひざが弱いので右にはサポーターをしていたら左がやられてしまった。あまりの激痛にこれ以上歩けるかどうか危ぶまれました。でも変な時間に始めたから他に通行人もいない。峡谷のなかでは携帯電話は使えないから助けを呼ぶこともできません。とにかく自力でおりるしかない。右ひざのサポーターを左に取り替え、右は伸縮のきく包帯を巻いて(もう少しでおいてくるところだった包帯)ゆっくりゆっくりやっとの思いでコロラド河に辿り着きました。

コロラド河につく少し前、東ヨーロッパ系のおばさんが道ばたで休んでいるのに出くわしました。自分の友達もひざをやられて後ろからゆっくりおりてくるのを、自分はここでひと休みして待っていると言ってるのを通り過ぎました。

私たちが河についてやっとハイクが終わったあ〜、と感激していると後ろからこのおばさんが悲鳴をあげてはしってくるではありませんか。どうしたのかと思ったら、ひざをやられた友達は熱射病にやられてふらふらでスポーツドリンクはまずいといって飲みたがらないというのです。判断能力が落ちるのは熱射病の典型的症状。普通の飲み水をもっていたら分けて欲しいというので、もうキャンプ場は目のまえだし、水は充分余っていたのでわけてあげました。「お友達は寒い地方のひとですか?」と聞くとそうだといいます。きっと自分が脱水症状をおこしていることに気が付かず充分に水を飲まなかったのでしょう。

第二話 終